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初恋と想い出と勘違い  作者: 瀬野凜花


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43 家族の愛

 私とルーは、フェルノ侯爵家の応接室のソファーに座って私の両親や兄と向き合っていた。


 ルーが、ルーの両親にあたるウォーレン公爵家当主からの許可を得て正式な求婚の文書をフェルノ侯爵家に送ったところ、父が「実際に会って話さなければ許可は出せない」と返事をしたのだ。


 応接室の木目の美しいこげ茶色の家具で統一された空間は、場の雰囲気を引き締めていた。

 

 むすりと腕組みをして座るお父さま。無言で話すようにうながされたルーが「ソフィア嬢と結婚したいと考えています」と告げると、お父さまは片眉を跳ね上げた。


「ルイス殿、とお呼びしても?」


「はい」


「一つだけ問いたい」


 ルーが緊張して身をかたくする気配を感じる。

 お父さまは低い声を響かせた。


「ルイス殿は、ソフィーを幸せにできる自信はあるのですか」


「最大限努力します」


 お父さまは目を鋭く細め、即答したルーをにらみつけた。


「絶対に幸せにする、とは言わないのですね」


 お母さまとお兄さまは黙ったまま何も言わない。

 私はそっとルーを見上げた。


「絶対に、と約束することはできません。私はいずれウォーレン公爵家を継ぎ、大勢の領民の生活を守る立場になります。領主としては、愛する人よりも領民を優先すべき時が来ないとも限りません」


 ルーの目はまっすぐ前を見つめていた。


「そのような究極の選択を迫られる状況にならないように早期に問題に対処し、愛する人も領民もどちらも守ることが、私の理想です。一生ソフィア嬢だけを愛し、彼女が幸せな毎日を送れるように努力し続けるということだけは、お約束できます」


 お父さまは、うつむき気味に目を閉じてルーの話を聞いていた。ルーの話が終わってもなかなか目を開けないお父さまに、私はしびれを切らしてお母さまに助けを求めた。


 私の気持ちに気づいたお母さまはルーにウインクを飛ばし、お父さまをつついて催促した。


「あなた」


 お父さまはゆっくりと顔をあげた。

 その瞳はうるんでいた。


「ソフィー」


「はい」


 涙に濡れるお父さまの瞳をまっすぐに見て返事をした。


「誠実な良い男を見つけたな。さすが私の娘だ。見る目がある」


 お父さまは鼻をすすって立ち上がり、ルーに頭を下げた。


「ソフィーを、よろしくお願いします」


 お母さまがお父さまにならって頭を下げる。


「頭をお上げください!」


 慌てるルーの横で、お父さまが思いのほかすんなりと許してくれたことに驚いていた私の肩に誰かが手を置いた。


「ソフィー」


 肩の上の手の主のお兄さまは、寂しそうに笑っていた。


「私のかわいいソフィーが、離れていく時が来たんだね」


 立ち上がってお兄さまに抱きつくと、お兄さまは嬉しそうに破顔して抱きしめ返してくれた。


「ソフィーに好きな人ができたと聞いた時は許さない!って叫んでたけど、彼なら任せられそうだ」


「ありがとう、お兄さま」


 お兄さまの頬に口づけると、お兄さまはくすぐったそうに笑った。

 ずるい!と後ろで文句を言っていたお父さまとお母さまも順番に抱きしめて、頬に口づける。


「大好きよ」


 2人は涙ぐみながら頭をなでてくれた。


「幸せになりなさい」


「喧嘩したらいつでも実家に帰って来て良いのよ」


 あたたかい言葉に、私も泣いてしまって。私たちはぽろぽろと涙をこぼしながら、笑い合った。後ろでルーが「喧嘩なんてしません!」と必死に主張しているのがかわいくて、さらに笑ってしまった。




 帰るルーを見送ろうと、一緒に門まで歩く。


「もっと、いろいろなことを言われると思っていた」


 ぽつりとこぼしたルーを見上げた。


「結婚なんてさせないって最初から拒否されてもおかしくないと思っていた。君の家族からすれば、僕は君の手紙を無視した薄情者だろう?」


「そんなことないわ。お父さまははじめから手紙が届かないことも想定していたもの」


 顔を横に振って否定すると、目を見張ったルーはふっと笑った。


「フェルノ侯爵はさすがだな」


 ルーはまぶしそうに屋敷を振り返った。


「フィーは愛されているんだね。良い家族だ。少し、うらやましいよ」


 何と言えばいいか分からず、そっとルーの手を取って両手で包んだ。

 ルーは手に軽く力を込めて目を伏せた。


「両親に、フィーに会わせてほしいと言われている。身分もつり合っているし既に結婚の許可はおりているけど。僕と両親の関係は君たち家族のような関係ではないから、何を言われるかは分からない。それでも、会ってくれる?」


 ルーの暗い顔をのぞき込んで、安心させるように笑いかけて頷いた。


「もちろんよ。家族になる方たちだもの。ぜひ、お会いしたいわ」


「ありがとう」


 ルーは私をそっと抱き寄せた。


「頬に口づけてほしい」


 耳元でささやかれて目を丸くすると、ルーは口をとがらせた。


「ご両親やお兄さんにはしていたじゃないか。僕はまだしてもらったことがないんだけど」


 くすくすと笑いながら「いいわよ」と言うと、ルーは目を輝かせて身をかがめた。


 頬に唇を寄せて頭をなでる。気持ちよさそうに目を細めるルーに嬉しくなって、私はしばらくルーの頭をなでていた。

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