40 フィオナの独白 ~2~ フィオナside
それから16歳になるまで、私は頑張って勉強した。私が王立中央学園を目指していると知った父に、頭が良くないと入学できないと言われたからだ。
そして特待生として入学の権利を勝ち取った私は、入学式で新入生代表として挨拶をするルイス様に一目惚れをした。噂に聞くよりもかっこよくて紳士的で、私はうっとりした。
クラスで最も高貴な身分であるルイス様に平民の私が近づけるはずもなく、ルイス様をこっそり見つめながら、友だちになった平民の子たちとおだやかな日々を過ごした。
そんなある日、チャンスがやってきた。合宿だ。
合宿では、人数の関係でソフィアとエレナと同じ部屋になった。2人とも貴族なのに私と仲良くしてくれる、優しい人たちだ。
合宿初日、部屋で荷物を整理しているとエレナがソフィアをからかいはじめた。ソフィアの水色の日記帳にはルイス様への想いが書かれているのではというエレナの予想に、ソフィアは真っ赤になって逃げ出した。エレナが笑いながら追いかけていく。
まさか、ソフィアも恋敵だったなんて。どのくらい好きなのかしら。気になっているだけ?
魔がさした私は、ちょっとだけだからと心の中で唱えながら日記帳を開いてペラリとめくった。
ソフィアが、私が捨てたあのかわいい手紙の差出人だということに気づくのにさほど時間はかからなかった。手紙と日記の内容が一致していたから。
当初の目的もちょっとだけにしようと思っていたのも忘れて夢中になって日記を読んでいた私は、部屋に近づいてくる足音に我にかえった。
さっと日記帳を戻して2人を迎え入れる。ソフィアが特に何かを気にするそぶりもなく日記帳をカバンにしまう様子を横目で見てホッと安心した。
そして翌日。幸運なことに、ルイス様と同じグループになれたのだ。ルイス様やアレン様とお知り合いのソフィアやエレナには感謝しかない。
シチューを作ってお腹いっぱいになって部屋に戻って3人で話していると、しだいに2人はウトウトし始めて眠ってしまった。
私は2人を起こさないように慎重にソフィアのカバンを開けて日記を取り出した。
昨日日記を見たときから考えていることがあった。
日記によると、幼い頃のソフィアの髪は茶色かったらしい。ソフィアはルイス様に幼い頃の話をしていないようだし、私がフィーと名乗れば、もしかしたらルイス様は私のことを見てくれるかもしれないという期待が頭から離れないのだ。
日記を読んで、日記の内容を暗記する。特待生として入学できたのだ、暗記力には自信がある。
「わ、お馬さんをなでたのは初めてです……!」
歓声をあげる私をルイス様はあたたかい目で見守ってくれる。同じグループになれてよかった。話す機会も多いし。
やさしく話すルイス様は、今までに私の周囲にいた平民の乱暴な男の子たちとは大違いだ。紳士的で、一人称も「私」で、顔もかっこよくて。こんな完璧な人が世の中に存在するなんて、信じられない。
馬にルイス様とソフィアが一緒に乗っているを見た時は正直に言って美男美女でお似合いだと思ってしまったしちょっと嫉妬したけど、気にしない気にしない。噂によるとルイス様はフィーを探しているらしい。ソフィア様がフィーだと名乗る気がないなら、私が名乗ったって良いでしょう? きっとその方がルイス様もさがしていた人が見つかって嬉しいに決まってる。
私が手紙を読んだのも、学園に入学できたのも、手紙の差出人であるソフィアと出会って日記を読む機会に恵まれたのも、きっと運命なの。
だから、何もかもうまくいくはずだったのに。
「もう二度とルーとは呼ばないでくれ」
冷たく言い捨てて去っていくルイス様。
どうして。ルイス様はそんなことをするような人じゃないはず。もっと優しいの。
花の名前なんて知るはずがないじゃない。便せんにアネモネがデザインされていたのを記憶の奥底から引っ張り出した時は、我ながら天才だと思ったのに。
運命だって、思ったの。
どうして、ルイス様は遠ざかっていくのだろう。




