32 期待 ~1~ ルイスside
何年もの間、この学園でフィーと再会できることを祈っていた。
入学式の日、教室に入るなり全体を見渡し、令嬢一人一人の顔を確認した。教室に入った途端に教室中の視線がこちらを向いたから、効率よく全員の顔を確認することができた。
注目されることで得をすることもたまにはあるのだなと考えながら確認していく。
その中で、2人の令嬢が目にとまった。
1人は、茶色い髪に青い瞳というフィーと同じ色味を持った女子生徒。後の自己紹介で特待生枠の商会の娘だということがわかり、僕が描くフィーの人物像に最も近かった。顔立ちは少し違う気もしたが、何年も経っているのだ、変わっていてもおかしくはないだろう。
もう1人は、プラチナブロンドに青い瞳の美少女だった。フェルノ侯爵令嬢だ。色はフィーとは違うものの、顔立ちや醸し出す雰囲気がフィーのそれに近かった。
フィオナ嬢とソフィア嬢。
フィーと名乗るのはフィオナ嬢の方だろうか。ソフィア嬢であればソフィーが多いだろう。
髪の色を変える方法はカツラしかないから、フィオナ嬢の方が可能性が高いかな。
他のクラスにいる可能性もあるし、そもそもこの学園に来ていない可能性もある。
僕はとりあえず2人に注目することにした。
しばらくして、僕に想い人がいるという噂がたった。名はフィーというのだと。庭園でフィーのことを考えていた時に無意識につぶやいてしまっていたようだ。
事実だから、否定するようなことはしなかった。噂を聞いて本人が名乗り出てくれたらいいのにと思った。
なかなか確信を得ることができないままに時間が経っていく。
本命のフィオナ嬢の方とはあまり話せずにいた。やはり身分の差が大きい。
一方で、ソフィア嬢とは座席が前後ということから何度か言葉を交わす機会があった。僕に対してどこかよそよそしく、フィーよりも内向的で、やはり彼女はフィーではない気がすると思った。ただ、僕の周りを取り囲む令嬢たちに加わることはなくいつも友人と離れたところにいる彼女は、一対一で話していても媚びてくる様子はなく、好感を持った。
教室での平民どうしで話す時のはつらつとした様子のフィオナ嬢を眺める。身分の高い者と話すときは萎縮するようだが、本来の彼女はそちらのようだ。ただ、グループに分かれるときには人数の関係からはじかれてしまうらしく、ソフィア嬢たちにグループに入れてもらう様子を度々見かけた。
「友だちがいないんです」
悲しそうに言ったフィーの表情を思い浮かべる。フィオナ嬢の様子と重なり合うところがある。いつしか僕は、フィオナ嬢がフィーだと確信していた。
しばらくして、合宿に行くことになった。良い機会だ。フィオナ嬢に探りを入れよう。
男女グループを作れと言われたとき、フィオナ嬢と同じグループがいいと思った。確かフィオナ嬢はいつも通りソフィア嬢と同じグループだったはずだ。
しかし、瞬時に令嬢たちに取り囲まれ、フィオナ嬢の方に行くことができない。どうしたものかと内心頭を抱えたその時。
「なあ、ルイス。ソフィア嬢やエレナ嬢とグループを組むのはどうだ? 席が前後だから授業で話す機会も多いし!」
アレンの言葉がきっかけで、僕は狙い通りのグループを作ることができた。
5人でシチューを作った。そのために野菜を収穫しに行った時。ソフィア嬢が野菜に興味を示す一方で、フィオナ嬢は興味なさげに花を眺めていた。
あの時のフィーならば野菜に興味を持っていただろう。
だが、数年の間に野菜なんて何度も見て興味を失ったのだろうな。そう推測した。
シチューを作る手際は、フィオナ嬢はさすがだった。経験が違うのだろう。しかし、淡々と無感情に切る様子は料理を楽しんでいるようには見えなかった。ソフィア嬢の方が少しぎこちないものの楽しそうで……。無意識にソフィア嬢にフィーを重ね合わせる。
いやいや、人というものは1日で変わることもあるくらいなのだ。数年が経ったのだから、大きく変わってもしかたないだろう。
乗馬体験では、フィオナ嬢は馬に近づくのは初めてのようだった。
「わ、お馬さんをなでたのは初めてです……!」
フィオナ嬢は感動したように目を輝かせた。やはりフィオナ嬢はフィーなのだと、変わらないところもあるのだなと目を細める。茶色い髪も青い瞳も目の輝きも、フィーそのものだ。
その後はフィオナ嬢と話す機会はあまり得られなった。アレンの要望で僕がソフィア嬢を乗せることになったからだ。ソフィア嬢は思いのほか緊張しているようだった。馬の上は高いからな。かたくなってしまうのも無理はない。
安定させるために腕をソフィア嬢のお腹にまわすと、ソフィア嬢の肩がびくりと跳ねた。心なしか耳が赤い。
ソフィア嬢とかなり密着していることにようやく気がついて、僕は真っ赤になった。アレンがニヤニヤと見つめてくる。やめてくれ、本当に。ソフィア嬢に失礼だろう。




