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3 はじめての友だち

 私たちは、それから長い時間、飽きもせずにずっと話していた。好きなことの話、嫌いなものの話、家族の話。それ以外にもありとあらゆる話を。話の途中で同い年だと分かってからは、さらに距離が縮まったように感じた。

 私は平民のふりをしなければならなかったから平民らしくないことを極力言わないように意識したけれど、嘘はできるだけつかないようにした。


 気がつくと、空が赤く染まってきていた。


「そろそろ帰らなきゃ」


 ルーが立ち上がった。私もルーに合わせて立とうとすると、ルーが自然な動作で手を貸してくれた。ありがたくお借りして立ち上がりお礼を言うと、ルーはにっこりと笑った。


 名残惜しくて、話しかけた。


「このつぼみ、いつ咲くのかな。ルーはどんな花か知ってる?」


「ううん、知らない。咲いたら見てみたいな」


 沈黙が流れた。2人同時に話しだそうとしてゆずり合う。ルーが苦笑した。お互いに、お互いの言いたいことはなんとなく分かっていた。


「また会える?」


 ルーが代表して口を開いた。


「もちろん! 私はいつでも会えるよ」


 私は笑顔で答えた。


「僕が次にここに来れるのはちょうど1週間後なんだ。これから毎週、この曜日に会えないかな」


 1週間後、少し遠いけれど。定期的に会う約束ができたことに、そしてルーもまた会いたいと思ってくれていたことに、喜びがあふれた。


「わかった。楽しみにしてるね!」


「うん、僕も楽しみにしてる」


「来週には花が咲いてるといいね!」


「そうだね、きっときれいだよ」


 もう1週間たつのが楽しみでしかたがない。また会えることへの喜びに顔がほころぶ。


「何時ごろがいいかな、一緒に昼食を食べたいな!ルーは何時ごろなら来れるの?合わせる……よ……」


 ん?


 お昼ごはん?


 私たちは顔を見合わせた。


「「あーーーー!」」


 2人とも話に夢中で忘れていた。昼食を食べていないことを。

 思い出すと一気にお腹が空いてくる。


 グルグルグル。キュルルルルル。


 2人分のお腹の音が鳴った。間抜けな音に私もルーもお腹を抱えて笑いころげた。


「来週こそは一緒に昼食を食べようか」


「うん。そうしよう!」


 笑いの残る緩んだ声で話す私たちを、真っ赤な夕陽が照らしている。


「来週はフィーの分も作ってもらって持って来るよ。楽しみにしていて」


「わあ、いいの? 楽しみ!」


 キュルルルルル。公爵家の料理人の作る昼食を想像した私のお腹が再び鳴る。私は赤くなった。ルーがクスッと笑った。


「早く何か食べないといけないね。それじゃ、また来週」


「ええ、また来週ね!」


 そう言って私たちはそれぞれ帰途についた。


 帰りの馬車の中で、私とマリーは料理長のニックが作ってくれた昼食を急いで食べていた。本当は馬車の中で食べるのはあまりよくないけれど、とにかくお腹が空いていたし、せっかく作ってくれた昼食を食べずに邸宅に帰ってしまうとニックが悲しむと思ったから。

 やっぱりニックのご飯はおいしい。すぐに完食し、満足して外の景色をながめていると、私よりも先に食べ終わっていたマリーが言った。


「昼食もお忘れになるほど、お話が楽しかったのですね。あの方はどなたなのですか? 服装から貴族の方だろうとは思いましたが」


「ルイス・ウォーレン公爵令息よ」


「ウォ、ウォーレン公爵令息!?」


 マリーは遠くで待機していたから声が聞こえなかったのか。マリーのことだから、私たちの会話を邪魔しないように昼食を促すのを控えてくれていたんだろうな。


「ごめんね、マリー。私が昼食を忘れていたから、マリーも食べずに待つことになったのよね。先に食べていてもよかったのに」


「いえ、そんな! 謝らないでください。お嬢さまが食べるよりも先に侍女である私が昼食をいただくわけにはいきません。そんなことよりも、私はお嬢さまがご友人と楽しくお話しになっているご様子がとても嬉しかったのです。その気持ちで胸がいっぱいになって、空腹なんて忘れておりました」


 そう言って優しくほほえむマリーに、私は何か言おうとしたけれど結局言葉にならず、マリーに抱きついた。マリーは、驚きつつも抱きしめ返してくれた。


「あらあら。今日は甘えたい気分なのですか? 馬車は揺れますから、危ないですよ」


 私は、ふふっと笑いながらしばらくマリーに抱きついていた。

 しばらくしてマリーから離れると、初めてのお友だちができて嬉しかったということ、ルーと来週にまた会う約束をしたことなど、今日のことを馬車が邸宅に到着するまでに思う存分話した。


 その日は、夕食は少し時間を遅くしてもらった。たくさん遊んでお腹が空いているはずなのにとニックは不思議そうな顔をしていたけれど、帰りの馬車で急いで昼食を食べたせいであまりお腹が空いていなかったことは秘密だ。


 お風呂に入って汗を流してさっぱりした私は、寝室に戻ると水色の日記帳を取り出して、最初のページを開いた。可愛くて使うのがもったいなくて、まだ何も書いていなかった日記帳。ルーとの大切な思い出を書きとめるために使いたいと感じた。

 

 覚えておきたいことが多すぎて何ページも書いてしまった日記帳を机の引き出しにしまって、私はベッドに寝ころんだ。今日のことを何度も何度も思い返しながら、私はいつのまにか眠りについたのだった。

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