29 相談 ~1~
一睡もできずに迎えた朝。
さわやかな風が木を揺らし、鳥がさえずり、窓から光が差し込む。
本来なら清々しい朝の訪れに今日がすばらしい一日になることを期待するだろう。
しかし私はむしろ、フィオナとルイス様の距離がさらに近づくのではないかと想像して気が重かった。
明日は合宿最終日で、今日は思い出が作れるようにと自由時間になっているのだ。合宿という非日常。ルイス様がフィオナに想いを伝えるタイミングとして今日はぴったりだ。
寝返りをうつ。2人はまだ起きていないようだ。
フィオナが起きたとき、私は笑顔でおはようと言えるだろうか。フィオナは何も悪くないのに、もやっとした思いをフィオナにぶつけてしまいそうで嫌になる。
恋愛小説には、嫉妬して主人公に嫌味を言ったり嫌がらせをしたりする女の子が出てくることがある。
今までは嫉妬したとしてもそんなことはしてはいけないと憤慨していたのに、今の私には彼女たちの気持ちが少し理解できてしまう。
恋って、おそろしい。
エレナがうーんとうなった。そろそろ起きそう。
一睡もできずにいたこの夜、何度考えたか分からないくらい、一晩中同じことを考え続けていた。
ルイス様が昨日口にした「ソフィア嬢は賢くて優しいから、引くてあまただよ。学園を卒業して社交界に出れば、きっと男女関係なく多くの人に囲まれる人気者になるよ」という言葉。
振られた、のかな。
ルイス様は、私の気持ちに気づいていたのだろうか。エレナにもアレン様にもばれていたのだから可能性は十分にある。
ルイス様に10歳の時に友だちになったのだと打ち明けるかどうか、決められない。心の中で打ち明けたい私と打ち明けたくない私がせめぎ合っている。
打ち明けたい派の私は叫ぶ。
「ルイス様と昔のような距離感に戻りたい! 初めての友だちだもの! それに、あわよくばフィオナではなくて私にも目を向けてくれるかも……」
打ち明けるのが怖い派の私はささやく。
「でも、ルイス様と友だちに戻ったとして、ルイス様がフィオナと恋人同士になったときはどうするの? 距離が近くなれば、その分ルイス様が私以外の女性と幸せそうにする姿をより間近で見続けることになるのよ。そもそも、打ち明けたらルイス様が再会を喜んでくれる保証はあるの?」
少なくとも今の私には、決めるのは無理ね。
ふうっとため息をついて体を起こした。顔を洗おうかな。
朝食後、すぐにフィオナはどこかに走っていった。少なくとも今日だけはフィオナと距離を置きたかったので、ほっとした。
「少し良いかしら」
エレナに呼ばれて部屋に戻ると、エレナはカチャリと鍵を閉めて振り向いた。
「ちょっと、フィオナが戻ってきたら入れなくて困るわよ。鍵は閉めないほうがいいわ」
「いいの。フィオナにはあまり聞かれたくない話だし、そんなに長くは話さないつもりよ。せっかくの自由時間だもの、外に出たいわ。もしフィオナが戻ってきたらきっとノックするわよ」
紅茶を淹れて椅子に座ったエレナは、私にも座るようにうながした。
「ソフィア、もしかしてあまり良く眠れなかったんじゃない?」
「え……」
「図星ね? くまができてるわよ」
何も言えずにうつむいて黙り込んだ。メイクで隠したつもりだったけれど、エレナの目はごまかせなかったのね。
「悩みごとがあるんでしょう。ルイス様のことよね」
エレナは、下を向く私に優しく声をかけてくれる。
「言いたくないなら無理に聞かないわ。でも、何か相談したいこととか、誰かに聞いてほしいことがもしあるなら、私に聞かせてほしいの」
寄り添おうとしてくれるエレナ。話しても、いいかな。




