24 令嬢たちの戦争
合宿2日目。私たちは、指定された部屋に集合し先生からの指示を待っていた。
「今から何をするのかしら」
「難しい課題ではないといいわね」
事前に通知された合宿の日程には授業内容の詳細はなかったため、期待と少しの不安でそわそわする。
ガチャッと音を立てて先生が教室に入ってくると、ざわついていた教室が静まった。生徒たちの視線を集めた先生は、口の端をクイっと吊り上げて笑った。
「おはようございます、皆さん。早速ですが、皆さんには男女混合のグループを作っていただきます」
一気に教室が騒がしくなる。仲良くなりたい人と同じグループになって距離を縮めるチャンスだと男女ともに息巻いている。婚約者がいる人の中には顔をしかめた者もいる。かく言う私も、ルイス様と話すきっかけになるのではないかと高揚して無意識にルイス様の方を見ようとして、にまにまと笑うエレナと目が合った。
これは絶対にばれている。見られたくないところを見られてしまったわ。この後散々からかわれるに違いないわね。
じとりとにらむと、エレナは一層笑みを深めた。
「グループの組み方ですが……」
これは絶対に聞かなければと、教室が再び静かになり、先生の言葉を待つ。
「すでに組まれている部屋割りのグループ数が男女で同じですので、部屋割りの男性のグループと女性のグループが一つずつ集まる形でグループを組んでください。部屋割りのグループは男女ともに2人から4人とバラバラですので、男女混合のグループの人数も最小で4人、最大で8人と差ができるかと思いますが、問題ありません」
歓声が上がる。人数を極力6人になるように組めと指定されれば、2人の男性グループは4人の女性グループとしか組めないなど制限がかかってしまうが、指定がないのであればどのグループとでも組める。令嬢たちの目にギラリと光が宿る。狙っているグループがあるのだろう。狙いはほぼ確実にルイス様だ。
令嬢たちの戦争を勝ち抜ける気がしなくて、私は怖気付いた。授業のグループが同じではなくても、自由時間などには話しかける機会もあるのではないかしら。1週間もあるのだもの。
「ソフィア、あなたの考えていることは大体分かるけれど、普段の休憩時間のことを考えてみなさいよ。ルイス様はいつもご令嬢たちに囲まれているじゃない。行くしかないわよ」
超能力者なのだろうか。私の頭の中をのぞいたのではないかと思ってしまうほどに的確だ。
「そ、その通りね……」
エレナの指摘はごもっともなのだが。
「でも、エレナやフィオナにだって他に組みたいグループはあるでしょう?」
先生が合図をした途端に、ルイス様は既に臨戦状態の令嬢たちで取り囲まれるに違いない。その輪に割り込んでルイス様を誘う勇気が出せない私は、ルイス様を誘わない理由を見つけるのに必死になった。
「あら、特にないわよ」
「私もソフィアが組みたいグループでかまいません!」
エレナはあっさりと首を横に振った。エレナの反対隣に座っていたフィオナも頷く。
「私には無理よ……」
やれやれとエレナがため息をついたその時。
「それでは、10分差し上げますので、グループを組んでください」
先生がその言葉を発した瞬間、ルイス様はわっと令嬢たちに取り囲まれた。予期していたことではあるが、あまりの素早さにあっけに取られる。
「何をしているの! 私たちも行くわよ!」
「ちょ、ちょっと」
私の手首を掴んで、エレナはずんずんとルイス様の方に歩いていく。慌てながらも転ばないように必死で足を動かす。
「さて、どうやってこの輪の中に入りましょうかねぇ」
輪の外側で足を止めたエレナは、ルイス様にさらに近づく方法を思案し始めた。この行動力はどうしたら身につくのだろうか。
その時、ルイス様の隣で詰め寄る令嬢たちをさばいていた灰色の髪の令息とばちりと目が合った。灰色の髪の令息、アレン様はぱっと目を輝かせた。
「なあ、ルイス。ソフィア嬢やエレナ嬢とグループを組むのはどうだ? 席が前後だから授業で話す機会も多いし!」
アレン様の言葉に、ルイス様の視線がさまよって、私をとらえた。
その瞬間、心臓がドクンとはねた。ルイス様が私のことを見ている、その事実だけで嬉しくなる。
「ああ、確かに。ソフィア嬢、エレナ嬢、それにフィオナ嬢、だね。君たちが良ければだが、同じグループにならないか?」
夢を見ているのだろうか。ルイス様から誘っていただけるなんて。答えは決まっている。
「ぜひ、よろしくお願いします!」
令嬢たちの嫉妬の視線など気にならないくらい、舞い上がる。表情には出さないけれど。振り返ったエレナに目で感謝を告げる。エレナは返事の代わりにウインクをした。ルイス様が誘ってくださったのも、エレナが勇気の出ない私を引っ張って、アレン様と目が合うくらいの距離までルイス様に近づいてくれたおかげだ。あとで改めてお礼を言わなければ。
ルイス様はアレン様と2人部屋らしく、私たちは5人グループになった。
先生の話によると、今日の課題は料理らしい。貴族がほとんどの王立中央学園では、普段使用人が作っている食事がどれだけ苦労して作り上げられているものなのかを知り、おいしい食事が提供されることが当然であると思わずに感謝を持てるようになることが目的なのだそうだ。
大きな声では言わないものの、使用人のすることを貴族である自分たちがするなんてと眉をひそめるものも多くいる中、私はひそかにわくわくしていた。ルイス様にサンドウィッチを振る舞って「おいしい」という言葉をもらってから、料理の楽しさに目覚めて家族相手に時々料理を作っていたからだ。料理をする貴族の令嬢は異端であるかもしれないが、笑って見守ってくれる家族のおかげで私は料理を楽しむことができていた。
今日作るのは、シチューらしい。シチューは、まだ料理長に包丁を持つことを許可してもらえなかった頃に混ぜることと味見と盛り付けを担当した程度なので、ほとんど未経験と言ってもいいだろう。おいしく作れますように。




