22 調査結果
「調べてきたわ」
ルイス様の好きな人のことが気になりながら、悶々とし続けて迎えた放課後。「お茶でもしない?」とエレナに誘われて賛成し、紅茶を一口飲んだところで、鋭い目をしたエレナが切り出した。
私はいきなりの事にむせた。
前もこんなことがあったわね。確かあの時は……。どんな話題なのかを何となく察して眉をひそめた。
「何を調べたの?」
「ルイス様の噂についてよ。……そんな顔しないでよ。あなたも気になっていたんでしょう、愛するルイス様の恋のお相手よ。恋敵よ」
「そうだけど……」
もごもごと口ごもる。気にならないと言えば嘘になる。ルイス様のことが好きだと、はっきりと自覚してしまったから。
「え、ちょっと待ちなさいよ。あなた、もしかして」
私は顔を背けた。
「ルイス様が好きってこと、ようやく自覚したのね!?」
エレナが声をあげて驚く。火がついたように顔が熱くなる。黙り込んで否定しない私に、エレナはテーブルに両手をついて立ち上がり叫んだ。
「嘘でしょ!」
「もう! 静かにしてよ」
周りの目が気になる。あまり聞かれたくないし、大声をあげて目立ちたくはない。
「ごめんなさい」
気まずそうにしたエレナがそろそろと椅子に座る。
「でも、だって……。あなたはルイス様のことが好きなわけじゃないって否定していたし、嘘って感じはしなかったし……。私から見れば、好きなんだろうなってことはバレバレだったんだけど……」
視線を彷徨わせて言い訳をする様子にくすりと笑いつつも、自覚するよりも先に私の心の奥底の感情に気づかれていたことに驚いた。
「私もルイス様に好きな人がいるって話を聞くまで自覚していなかったのよ。どうして私よりも先に私の気持ちに気づいたの?」
「それは、ルイス様と話している時はそわそわしてるし、たまに目で追ってるし、ルイス様が先生に褒められた時はソフィアまで嬉しそうだし……。ルイス様を好きになった理由は、やっぱり優しくてかっこいいから?」
「ええと……」
もちろん再会した後のルイス様も魅力的で、そのために再び恋に落ちたのは間違いないのだが。私の気持ちには10歳の時の思い出が強く影響しているのは間違いなくて。そのことを言うわけにもいかず、私は曖昧に濁した。
「いつの間にか好きになっていたみたいなの。理由なんてないわ」
私の回答を聞いたエレナは感心したようだった。
「へえ、なんだか大人ね。恋をすると大人になるの? 私にも愛を囁いてくれる騎士様は現れないかしら」
なんだか猛烈に恥ずかしくなってきて顔を手で仰いだ。
「そんなことよりも、調査結果よ!」
またエレナが大きな声を出して、私はため息をついた。そもそも、エレナ自身の恋愛は「そんなこと」ではない気がするけれど? いつも私が聞かれて恥ずかしい思いをしてばかりだから、今度は私がエレナにも良いお相手がいないのか聞く番な気がするわ。
「何が分かったの?」
密かな決心は一旦置いておくことにして気を取り直して聞くと、エレナは声をひそめた。
「フィーらしいの。ルイス様がつぶやいていた名前」
世界から音が消えたようだった。周りの人の声も、風の音も、何もかも聞こえなくなった。
おぼえて、いたのね。
胸のあたりがぽかぽかと暖かくなる。ルイス様が呼んでいた女性の愛称とはどんなものだったのかと、クラスの誰かだろうかと少し前までは悩んでいたのが嘘のように、心が晴れやかになった。
「ソフィア、大丈夫? 聞こえてる?」
心配そうに顔をのぞきこむエレナに、我にかえった。
「大丈夫なわけがないわよね。でも大丈夫よ。ソフィアならルイス様の心を奪えるわ」
「ありがとう、エレナ」
気遣ってくれるエレナにほほえみかける。まだ言えないけれど、いつかは言えるといいな。「フィー」はきっと私のことだと。
「ちょうど、もうすぐ合宿があるでしょう。その時に距離を縮めるのよ。ソフィアならあの貼り付けたような笑顔を変えられるに違いないわ。挑戦あるのみよ」
そう、つい先日、先生から合宿形式で1週間学園の外で授業が行われるということを聞いたのだ。
別の「フィー」という愛称の女性の可能性もある。そもそも、もし私のことだとしても、ルイス様が私のことを好きなわけがないから、きっと幼い時のことを思い出して感傷に浸っていたとかで、その様子を勘違いしただけだろう。
「ええ、私、頑張るわ」
「その意気よ!」
いずれにしても、真偽はルイス様にしか分からない。エレナの言う通り、合宿の間にルイス様と打ち解けて勇気を出して訊いてみるのだと固く決意した。




