20 3人グループ
「今日は3人でグループを組んで話し合い、その内容を発表してもらいます」
先生が今日の授業内容を口にした瞬間、教室がざわついた。
それぞれが仲のいい人とアイコンタクトを取り、同じグループになろうとうなずき合っている。
「それでは、時間を取りますのでグループを組んでください。決まったら私のところに報告しに来てくださいね」
先生が腕を組んで椅子に座った途端、クラス中の人が一斉にグループを組み始めた。
「ねえねえ、一緒のグループになろうよ!」
「3人? どうしよう」
「ペアがよかったよ……」
それぞれが口々に思ったことを言うので、教室は一気に騒がしくなった。すんなりとグループを組む人、困った表情を浮かべる人と様々だ。
元から3人グループの人たちはすぐにグループになることが決まったようで、「2人組じゃなくてよかったね」と安堵の表情を浮かべている。
4人以上で仲良くしている人たちは、どう分かれるかを深刻な顔で話し合っている。
私もエレナと顔を見合わせた。できればエレナと同じグループがいいけれど、そのためにはもう一人同じグループになってくれる人を見つけなければならない。もしかしたら私とエレナそれぞれが別のグループにならなければならないかもしれない。
「エレナと同じグループになりたいわ」
「もちろんよ。誰か一人の人はいないかしらね」
エレナが教室を見渡して、あっと声を上げた。
「彼女はどうかしら」
エレナが示した先には、ふんわりとした茶色の髪を鎖骨のあたりで切りそろえた女の子がいた。確か、平民で特待生として入学した子だ。
彼女はその平民という立場から知り合いが少ないのか、グループを組めずに一人で浮いていた。
「声をかけてみましょうか」
私がうなずいたのを確認すると、エレナは早速女の子を誘いに行った。
「ねえ、あなた。私たちとグループを組まないかしら」
女の子はまさか話しかけられているのが自分だとは思わなかったようですぐには返事をせず、きょろきょろと周囲を見渡した。後ろを振り向いてエレナと目が合ったのか、女の子はきょとんとした表情を浮かべた。
「わ、私とですか?」
「ええ。あなたよ」
「そんな、お二人とグループになりたい人はたくさんいらっしゃいます!」
女の子はぶんぶんと両手を顔の前で振った。
「私たちはあなたと組みたいのよ」
エレナはにっこりと笑いかけた。
さすがね、私はあんな風に上手く誘えないわ。一度断られたらすぐに引き下がってしまいそう。
私がそんなことを考えている間も2人の会話は続き、エレナは女の子に同じグループになることを承諾させたようだ。
「未熟者ですが、精一杯頑張りますのでよろしくお願いします!」
女の子が勢いよく頭を下げる。私は女の子に笑顔を向けた。
「よろしくお願いします。そうと決まれば改めて自己紹介をするわね。ソフィア・フェルノよ」
「エレナ・ミュラーよ。よろしく!」
「フィオナ・ラスタと申します。平民ですが、特待生として入学を許可していただきました。よろしくお願いします」
まだまだ緊張している様子のフィオナに苦笑する。当たり前よね、私は侯爵令嬢で彼女は平民なんだもの。
「今日の授業が終わるまでに、敬語をやめて気楽に話してくれると嬉しいわ。せっかく同じクラスになったのだもの」
エレナもうんうんとうなずいている。
「ソフィアの言う通りよ。今はただのクラスメイトだもの。仲良くなりたいわ」
フィオナは青い目を細め、遠慮がちにほほ笑んだ。
「ありがとうございます、ソフィア、エレナ」
敬語を使っているが、名前に敬称はついていない。平民と貴族という壁は簡単には越えられないようだが、彼女なりに歩み寄ってくれたことを感じて嬉しくなった。
先生にグループのメンバーを報告する。他の人もグループが組めたようで、ほどなくして話し合いのテーマが告げられて授業が始まった。
フィオナは特待生として入学しただけあり、賢く、平民ならではの視点で柔軟な意見を出してくれた。私もエレナもそのことに感心しながらも活発な議論を重ね、発表した。先生やクラスメイトの反応もかなり良かった。
「この発表ができたのはフィオナのおかげよ! ありがとう!」
エレナが嬉しそうにフィオナに感謝の言葉を伝えると、フィオナは慌てた様子で顔を赤くした。
「いえいえ、お二人がすごいんです! 私がしたことなんてほんの少しです!」
「あら、3人ともよく頑張りましたってことでいいじゃない」
「そうね!」
私の言葉に同意したエレナが、フィオナの両手を取り身を乗り出した。
「ねえ、せっかくだから3人で昼食を食べましょうよ」
フィオナがエレナの勢いに気圧されてうなずくのを見ながら、私はちらりとルイス様を見た。相変わらず令嬢たちに囲まれて大変そうだ。
私もルイス様と話したいな。
そんな思いが頭をよぎって、私は顔を横に振った。早く行こうと急かすエレナに笑いかけ、食堂に向かう。歩きながらこっそりと深呼吸をして、気持ちを落ち着かせた。




