16 学園入学までの日々
時が経ち、私は16歳になった。もうすぐ学園の入学式だ。
王都に帰ってきてから、私は大騒ぎする家族をあしらいながらルーに手紙を書いた。
手紙を出してから2週間は、今ごろ手元に届いた頃だろうか、読んでくれただろうかとドキドキしていた。
1ヶ月が経つと、さすがにそろそろ返信が来るのではないかと毎日マリーに確認していた。
いつまで待っても、返信は来なかった。
手元に届かなかったのだろうか。
読んだものの返信をする気にはならなかったのだろうか。
嘘をついていたことに怒ったのだろうか。
嫌われてしまったのだろうか。
いくら考えても答えは出なくて。もう一度手紙を出そうかと悩んだが、もし私のことを嫌いになってしまっていたとしたら、新たに手紙を出すことでさらに嫌われてしまうのが怖くて。私は考えることを放棄した。
私を心配した両親は、新しい友だちができるようにと何人もの令嬢を呼んでお茶会を開いてくれた。他の令嬢が主催するお茶会にも出席した。なんとか友だちを作ろうと、私は全員に話しかけた。しかし、やはり友だちはできなかった。二言目にはお兄さまの好みを聞いてくる令嬢にも、侯爵令嬢の友人になれる立場ではないと萎縮する令嬢にも、うんざりだった。
お茶会に出席した日の夜には決まってルーの夢を見た。ルーは優しくて、かっこよくて。夢の中の私は、ずっと笑っていられた。目が覚めてぼんやりと天井を眺めながら、さっきの光景は夢だった、現実ではなかったのだと知るのがつらかった。
少しずつルーの声を忘れた。「フィー」とおだやかに呼ぶ声も、別れの時に「かわいい」と、「笑顔が好きだ」と言ってくれたその声も、忘れたくはないのに。思い出そうとしても、最初は記憶に残っていたはずのルーの声が次第にぼんやりともやがかかったようになっていった。
家族を心配させないように、私は明るく気丈にふるまった。友だちがいなくても、ルーから返信が来なくても、愛する家族と過ごす時間は幸せだった。時々脳裏にかすめる寂しさからは目を背けた。
ルーと過ごした時間はたったの2、3か月、週に一度だけ。合わせると一体どれだけの時間を共に過ごしたのだろうか。とても短くて、とても濃密な時間だった。
学園入学を控えた今はもう、ルーの顔も思い出せない。家族がプレゼントしてくれたルーの肖像画は、似ているようで似ていなかった。思い出せるのは、髪の色が濃い青だったことと、瞳がペリドットのように美しく輝いていたことだけだ。
ルーの優秀さの評判を風の噂で聞くたびに、ルーが遠くに行ってしまったと、もうあの頃のルーではないかもしれないと考える。ルーは私のことをまだ覚えていてくれているだろうか。それともとっくの昔に忘れてしまっただろうか。
もうすぐ入学式の日だ。ルーは優秀な公爵子息だと評判だから、きっと目立つし人気者になるだろう。私はルーに話しかけてもいいのだろうか。
そもそも、もうルーと呼ぶ資格はないかもしれない。学園ではルイス様と呼んだほうがいいのかも。うん、そうしよう。
何度も読み返している水色の日記帳を抱きしめた。




