聖女の行き先は
ふんわりファンタジー世界の話。ゆるいギャグの気持ちで書きました。ゆるく読んでいただけますと幸いです。
「ラ・グレダ王国で一番の聖女が国を出ていくらしい」
そんな噂が遠方のシレーヌ王国に流れ始めた。
ラ・グレダ王国は広大な北の大地にそびえる豊富な作物と発展した技術が有名な国だ。厳しい寒さにも関わらず人も特産品も豊富なのはひとえに「聖女様」の力だと言われている。もともと神の愛する山が近くにあり、聖なる力をもった女児が現れやすいらしい。
「それって追放ってやつか? なんでそんな重要な方が追放を?」
「よくわからんが……どうもあの国の王子が結婚をしたと聞いたが、それがどうも大層身分違いの恋の結果らしい」
「なんだ、歌劇のような話じゃないか」
「だからな、歌劇のように王子は聖女様との結婚を破棄して、その身分違いの女に乗り換えたんじゃないかって噂だよ」
「ああ、なるほどね。聖女が邪魔になったのか」
「もしくは、聖女自ら逃げ出したかさ」
場末の酒場で、冒険者の男たちがガハハと笑いそんな下種な噂をしている。
どうせこんな場所で話した所で誰も気にはしないだろう、真実だろうが嘘だろうが、面白ければ酒の肴だ。
そんな無責任な話を信じる者がすぐ近くにいるなどと、微塵も思いはしなかった。
(えらい話を聞いてしまった……!)
隣の席で一人酒を飲んでナッツをつまんでいた青年は慌てて金を置いて店を出ていく。
目深にかぶったフードをさらに引き、顔を隠し夜の町を走る。
脚に風の加速魔法を宿し、治安の悪い壁際の地域から平民街、貴族街を抜け、そのまま王城へ入って行った。
「他国の聖女……聖なる乙女!その力があれば僕だって……!」
フードの下で、野望の灯を瞳にともらせる。
ギラギラと光るその目は、この国の王族固有の澄んだ青色をしていた。
___________
聖女スターニャは、ラ・グレダ王国一番と謳われる聖女であった。
しかし、いろいろな事情が重なり数日後には住み慣れた神殿を去る事になっている。
「でも、思ったより荷物少なくて済んだわ」
幼少期に聖女の力に目覚めてからずっとこの神殿ですごしてきたけれど、手持ちの服は多くないし、細かい私物も本が数冊と文房具は少しだけ。靴や日除けの帽子を含めても少し大きめの旅行鞄にすべておさまってしまうその少なさに少しだけ寂しさを覚えた。
けして贅沢な暮らしではなかったが、孤児のスターニャが飢えず凍えず、体を脅かされることも死ぬこともなく生きることができ、読み書きと簡単な計算や儀式に必要な祈りの言葉を学ぶことができたのは単に神殿と、聖女保護制度を儲けている国のおかげだ。
去る寂しさはあれど恨みはない。むしろよく、ここまで置いてくれたものだと感心している。
長年、側で見守ってきた第一王子の立太式と結婚式にも参加した。少し涙が溢れたのはここだけの話だ。
「聖女様、お加減はいかがでしょうか」
扉の向こう、聴き慣れた付き人の声がした。
「ええ、元気よ。どうぞお入りください」
「失礼いたします。今月の予定……いえ、半月の予定表をお持ちしました」
慌てて言い直す付き人から紙を受け取りさっと目を通す。
「あと三日間はいつも通りの聖女業を、四日後に神殿を出る準備と各所へ挨拶回りをして五日後に国を出る……あとは数日かけて近隣の村に行きそこで今後は平民として過ごすのね」
「はい。本来であれば、あなたにはずっとここにいて欲しかったのですが」
「仕方ないわ。私の他にも聖なる力をもった乙女が新たに生まれたそうじゃない。さっさと部屋を明け渡してあげないと」
新たな神の愛み。その誕生を想像してスターニャ優しく微笑んだ。
「それに、私の他に聖女は何人もいるでしょう。彼女たちがいるから大丈夫よ」
「しかし、スターニャ様のような力の強い、万能聖女はまだおりません」
「私だって治癒も浄化も解毒も解呪に祝福も結界も、なーんでもは大変だったのよ。分担させなきゃ」
まだ何か言いたげな付き人を下がらせて、スターニャはベッドの縁に腰をおろす。
そう、なんでもできる聖女だった。とっても大変だった。楽しかったことも多かったが−−。
「これからはゆっくり過ごしたいわねぇ」
誰に言うでもなく、ぽつりとつぶやくのだった。
___________
「父上、母上。僕は、ラ・グレダの神殿から追放される聖女を妻に迎えたい!」
シレーヌ王国の王太子、ブラムレムは真剣な面持ちで国王と王妃に向かった。
突然の申し出に王も王妃も困惑をする。
そもそも、聖女追放なんて話は聞いていない。
「どういう事だ?」
「……確かな情報です。ラ・グレダは愚かにも国一番と言われる聖女を追い出すらしい」
「その話が本当であれば、確かに是非とも我が国で保護をしたいが……」
「僕は彼女を助けたいのです!話の通りであれば、彼女はあちらの王子から捨てられて外れの村に追いやられると聞きました」
「ブラム、あなたにはもう婚約者がいるでしょう?」
「母上、国にとって最大の益をもたらす聖女と、公爵家の三女を比べる者ではないでしょう」
「ですが、オリオ公爵令嬢は幼少期からずっと王妃教育を……」
「聖女の力は勉強ではどうにもなりません!聖女さえいれば田畑は実り、水も大地も清く澄み、病や怪我も治るのです」
言い切る息子に、国王夫妻は言葉につまる。
確かに、そんな存在が国を助けてくれるならばとても魅力的な話である。しかし追放された聖女など、醜聞をきにする貴族や民衆が受け入れてくれるだろうか?
「ブラムよ。お前の考えはわかった。だがそうすぐに答えを出せるものじゃないし、聖女の意見も考えるべきだろう」
「そのような悠長な事を……」
「いいか、まず聖女を我が国に招待するのだ。そして、お前と会って良い返事がもらえたのならば結婚を認めよう」
「そうね、オリオ公爵家への説明も必要だわ。とにかく、まずは聖女をお呼びなさい」
「わかりました」
そして、王はすぐに手紙を書き、家臣たちへラ・ブラムの神殿に向かわせた。
王妃はオリオ公爵家へ使いを送り、同時に聖女に詳しい者が国内にいないか探すよう指示をだす。
ブラムレム王子は、ただ一人でその青い瞳に野望の灯をぎらつかせながら勝手にオリオ公爵家の三女、シャーロッテに手紙を書いて送ったのだった。
お前とは婚約破棄をする、と。
___________
翌日、国王と王妃の元に一人の老人がやってきた。
その男は以前、馬車で積荷の配達を生業としており、ラ・グレダにもよく行っていたらしい。
「ええ、お見かけしたことがございます。とても美しい方でした」
彼の語る話には、国一番の聖女スターニャはウェーブのかかったプラチナブロンドに金色の瞳をもつ美しい女性であったと。そして他の聖女よりもずっと強い「聖なる力」を持ち、本来は一つふたつあるだけでも素晴らしい解毒などの加護の全てを使いこなしていたという。
「わたしゃ見ましたよ、うちの馬が長旅に耐えきれず倒れちまった。疲れで脚が折れちまったんです。そこに聖女スターニャ様がすぅと駆け寄って、馬を撫でてくれました。そうするとまるで何事もなかったかのように馬は元通り、元気を取り戻して、帰りの荷運びもきっちりこなしたんですよ」
その話を聞き、国王と王妃は息を呑む。
ーーなにか大掛かりな儀式や治療をしたわけでなく、撫でただけで骨折すら治すとは?
嘘だと言いそうになるのを堪えて、その話がまことであれば、とつぶやく。
「確かに、国に欲しい存在だ」
___________
王宮の庭園に設置されたガゼボで、ブラムレム王太子とシャーロッテ・オリオ公爵令嬢はテーブルを挟んで向かいあう。
「ブラムレム様、あのお手紙はいったいどういう事でしょう?」
「そのままの意味だ。僕は聖女と結婚をする」
「はあ……」
シャーロッテはため息とも相槌ともつかぬ声を漏らす。
金の長いストレートヘアを左の人差し指に絡めながら、緑の目でじっと婚約者を見つめる。
(本当に、顔以外全てが残念な人)
声には出さず飲み込んで視線を斜め下にそらすと、ブラムレムは心苦しそうな声で話し始めた。どうやら彼女がショックを受けていると思ったらしい。
ブラムレムが語るに、隣国はどれほど聖女を蔑ろにしているのか。あちらの王子はどれほど愚かか。それを掬い上げる自分の素晴らしさと慈悲深さ。噂では相当な美女ときいた聖女はきっと自分を愛するだろうという妄想。
ーーああ、馬鹿だ。馬鹿がいるわ。
声に出しそうになるのをグッと堪えてシャーロッテは小さく咳払いをした。
「そのお話、どこまで本当なのですか?」
「確かに聞いたんだ」
「誰から?」
「人伝えじゃない、僕の耳で聞いた話さ!」
だから、誰の口から出たのを聞いているのだと怒鳴りたくなるのを抑え込む。
どうせ町の噂でしょうね、以前もそうだったもの。
この人は、王太子なんて立派な肩書きがある癖に、夜な夜な勝手に城を抜け出しては悪い遊びをしている。そのせいで寝坊や勉強中の居眠りは絶えないし、余計な噂を聞いて信じ込んだ上に十倍、百倍にも大袈裟にして人に話す。王妃が幼い頃からわたくしを婚約者という名の御者に仕立てようとしたのがよくわかる。いや、わたくしじゃなくて、本人をしつけなさいな。
言葉は全て飲み込んで「そうですか」という五文字だけ発する。その様子を都合よく解釈したブラムレムは「わかってくれたんだね」と青い目に涙を浮かべた。
「とはいえ、私の一存ではお返事できません。国王と私のお父様……オリオ公爵の家長の判断を待ちましょう」
「ああ、そうだな。賢い婚約者で……いやもうすぐ『元』婚約者になるが、助かる」
わたくしが賢いんじゃなくてあなたが馬鹿なんです。その言葉もしっかりと飲み下しシャーロッテは微笑んだ。
___________
ラ・グレダの神殿に、シレーヌ王国からの手紙が届いたのはスターニャが王城や貴族の家々に別れの挨拶をする予定の日だった。
「突然、我が国へきて欲しいって言われても」
「どんな用件でしょうか」
「ううん、なんか遠回しに細かい字でごちゃごちゃ書いてあって、よくわからないわ。慰安?ご招待?みたいな事らしいけど」
「以前シレーヌからの荷物配送をする馬を助けたお礼だと書いてありますね」
「なんかそんな事もあったかも、多分。忘れちゃったわ」
付き人の意訳によれば、その荷物にはとても大事な物があったらしく、そのお礼をしたいとの話だ。そんなもの、助けた直後にしてほしいとスターニャは思う。
「どうしますか?」
「シレーヌって遠いじゃない。村の先の先でしょ?」
「でも聖女様の好きな温泉がありますよ」
「えっ本当に?じゃあ行きたいわ」
そんな訳で、明日は国を出て、引っ越しの荷馬車は村へ行き、新居を整えておく。スターニャと付き人を乗せた馬車はそのままシレーヌ王国を目指す事となった。
それが他国の思惑だとも、運命の出会いになるとも知らず。
___________
数日後、三日間の馬車の旅を超え、スターニャはシレーヌ王国に入国をした。先の手紙には滞在に必要な証明書一式が入っていたので入国も宿の手配も大変スムーズに終わる。何もしらないスターニャと付き人は、用意された貴族向けの宿泊施設に向かい、温泉を堪能した。
「あれが、ラ・グレダの聖女……実に美しい」
物陰から宿に入っていく二人を眺め、目深にフードを被ったブラムレムは感嘆の声を漏らす。
「確かに、お綺麗ですね」
なぜか付き合わされているシャーロッテも、素直に同意をする。一応建前上、本日は婚約者同士の交流日。破棄をする予定といえど、まだ正式に決まってはいない以上一緒にいる必要がある。
シャーロッテは極度の面食いだった。だから馬鹿でもブラムレム王太子を夫として支えようと誓ったのだ。
(でも、それよりあの聖女様、美しかったわ……)
こんな馬鹿男より、ずっとあっちの方がいい気がする。王妃の座はお渡しして、彼女にお使えするのも悪くないわ。私の王妃教育はほぼ終わってるし、サポートもできるはず。
「よし、ブラムレム様。わたくし、聖女様にあってきますわ!」
「え、なんで」
「まず、荷物のお礼で呼び寄せたのでしょう?その荷物、わたくしの物ってことになさってください。そのお礼です。その縁であなたを紹介して、お近づきになれば良いでしょう!」
「さすがシャーロッテ!」
「では行ってまいります」
聖女が馬鹿、もといブラムレムを好きになるかはシャーロッテにとってはどうでもいい話だった。ただ、その姿をもう一度見て、ちょっとお話ができたらいい。それだけの考えで宿の受付に向かう。
シャーロッテは才女だ。勉強も礼儀作法も運動もダンスも芸術も高水準でこなすことができる。
ただ一つ苦手なことは、好みの美形を前にすると自制心がほんのちょっと欠けてしまうというところであった。
___________
「それでシャーロッテ、僕を放置して数時間何をしていた」
「温泉に入っておりました。聖女様と」
「は?」
「是非是非一緒にといわれ。貴族としてあまり他人に肌を見せるのは好みませんが聖女様のお願いでしたので」
「はあ?」
「ええ、ええでもわたくし、とっても聖女様と仲良しになりましたわ」
「そ、そうか。ならいい……僕のことを早く紹介してくれ」
「あとブラムレム様と私の婚約破棄もすぐにしましょう」
「なんで?」
「だって聖女様にお会いなさるのに、婚約者がいるんじゃその次に進めませんわ」
「まぁ、そうか。そうだな!」
シャーロッテは嬉しそうに微笑む。
そして、聖女にあって知った大事な話は伝えなかった。こんな馬鹿と聖女様が結婚するなんてありえないと思ったからだ。
___________
その晩、オリオ公爵家に一通の手紙が届いた。
登城命令と、婚約破棄を告げる簡単な書面。すでにシャーロッテから話を聞いていたオリオ公爵は苦笑いをするばかりだった。
「しかしな、ロッテ。本当にいいのか?」
「何がですか?馬鹿と結婚して一生御者をやるかどうかという話?」
「うん。うん……そうだな。お前は頭がいいから、アレはちょっとな。お前は三女だから、自由に生きていいと思う」
「ありがとうお父様!大好き!」
___________
翌日、シャーロッテはスターシャの手を優しく引いて登城した。後ろを付き人が静かについてくる。その金色の瞳が優しげに自分と聖女を見ている事を肩越しに確認して胸の奥が熱くなった。
「シャーロッテ・オリオ、聖女スターシャ様をお連れしました」
「入りなさい」
謁見室のドアを見張りが開けてくれる。
付き人がついてこれるのはここまでだ。扉の横、見張りの隣に移動をして一例をする。豪華な絨毯の道を進み、ゆっくりと王座へ近づく。
国王と王妃と王太子。
まだ面を下げたままだが、その表情が硬くなっていくのがわかる。
「お、オリオ令嬢、ああ、ええとだな」
「王命通り、聖女様をお連れしました」
「お初お目にかかりますシレーヌ国王陛下、王妃様、王太子様。今はもう、聖女ではございません、スターニャと申します」
シャーロッテの隣りで、シワシワの老婆が丁寧なカーテシーを行った。
国王たちは言葉もない。
それもそのはずだ。シャーロッテも驚いたのだ。彼女とブレムラムが勝手に聖女だと思っていた方が付き人で、世話役だと思っていた老婆がまさかの聖女本人だったのだから。
深く皺を刻んだ顔からは想像もつかないほどはっきりとした声色で、スターシャは此度の招待の礼を述べた。
謁見の間の隅では、例の聖女にあったことがあるという老人が控えていた。
シワシワの額にさらに皺をよせて目を大きく見開き、すっかり老齢により濁った瞳を最大限に輝かせている。
「せ、聖女さまだぁ……」
「あら、こちらの方は。もしかして例の荷馬車の?」
「おお、おお覚えてくださったですか」
「ごめんなさい、実はあまり……」
「いいんです。もう五十年ほども前のお話でしょう。でもわたしゃ、あれからずっとお礼を言いたかったんだ」
「そうでしたか。もう年齢を理由に『引退』したので聖女ではないけれど、私の力は本当に人のためになったのね」
二人の会話に、シャーロッテはわざと涙目を装い、ブレムラムへ顔をむける。
「とても、感動的ですわ」
「あ、ああ、そうだな……?」
「そう、ですわね?」
「うん……」
似たような顔でなんともいえない返事をする国王一家に、シャーロッテは心の中で舌を出した。
「しゃ、シャーロッテ!お前」
「王太子、どうぞオリオとお呼びください。もう婚約者ではございませんのよ」
「っ!! お、オリオ令嬢、お前はわかっててあの時何も……いや、ではあの美しい女性は」
「ああ、あの子の事ですか?美人でしょう。私の付き人をしてくれている、自慢の孫なんですよ」
「ま、ご?」
「ええ。とっても良い子なんですけどね、神殿勤めで私の世話ばかりして、彼女の一人もおりませんの」
「かの、じょ?」
「ちょっと顔が綺麗すぎて、並の女の子じゃ怯んでしまうみたいで、良い子なんです。目の悪い私の代わりに手紙を読んだり、背中をさすってくれたり。とっても真面目で頭もよくて」
饒舌に語りだすスターシャに、扉の向こうから「聖女様ぁ!」という叫び声が聞こえた。
「もう、聖女じゃないんだから、昔みたいにおばあちゃまって呼んでほしいわ」
優しげな光を湛えた金色の瞳は、歳を感じさせない透き通った美しさがある。シャーロッテは、その瞳に胸をたかならせた。
___________
こうして、シレーヌ国王一家の目論見は有能な婚約者、シャーロッテ・オリオを失うという虚しい形で終わった。
再度の婚約を求める国王たちに、オリオ公爵は満面の笑みで「次がもう決まりそうなので」と告げる。その視線の先にはスターシャの付き人であり孫息子のムーランドがいた。
「シャーロッテ様はムーランドの顔にも臆さず向かい合ってくださるし、頭も良くてお話も面白くて素敵よね」
「聖、いや、おばあさまがそうおっしゃるなら」
「ええ、ムーランド様もスターシャ様も私が幸せにいたしますので!」
こうして、王太子の元婚約者は元聖女たちと共にラ・グレダ王国の外れの村へ引っ越した。広大な農地と穏やかな気候のその村は、ラ・グレダの王都よりもずっと気温が安定しておりすごしやすい。その地で三人は新たに教会と診療所を作り、村の人々に愛されながら過ごすのだった。
「おばあさま、お手紙が届いております」
ムーランドから渡された二通の封筒。片方はラ・グレダ王国の紋章が入っていた。
「そちらはシャミー……いえ、シャムルード王太子から半年後の即位式の招待ですね。教育係として……もう一人の母親としておばあさまに参加してほしいそうです」
「あらまぁ、気を遣ってくれて嬉しいわぁ。でも私、一般客としてお祭りを見に行きたいのよねぇ」
無地の封筒を開けながら、スターシャは言う。
シャムドールは気を使ったわけではなく、本当にスターシャを慕っている。乳兄弟であるムーランドにはわかっていたがあえて言葉にはしない。それよりスターシャの手の中にある手紙の方が気になった。
「それは?」
「そのお祭りに、一緒に行きませんかってお誘いなの。あのシレーヌであった御者さん覚えてるかしら? 私、こっちに行きたいからシャミーには謝っておいてくれない?」
シワのよった頬をほんのり染めながら、スターシャはまるで宝物のようにその手紙を抱きしめる。
「こんなデートのお誘いの手紙をもらうなんて、初めてだわ……」
「お、おば、おばあさまっ!!!!?」
聖女の第二の青春は始まったばかりらしい。
お楽しみいただけましたら幸いです。




