俺はお前らとは違うんだ
「ここが俺の通う大学か…」
春の微風が気持ちいいと言いたくなる奴が出てくる4月、俺は今後4年間通うことになる私立Dラン大学に初めて学生として敷地に入った。
高校3年生の時、俺は地元の国立大学を目指し塾に通い勉強をし、自分なりに努力してセンター試験ではB判定を出した。それにもかかわらず、俺は親元を離れて1人、この大して仲良くもなかった部活の先輩が通っているってだけで併願先として何となく受験し合格したこのDラン大学にいる。
「あんなに頑張ったのになんで…」
俺は受験の失敗を自分ではない何かに押し付けようと逃避していた。自分なりに頑張ったつもりではあったのだが。
オリエンテーションも終わり、とりあえずその後開催されるサークル見学会に参加した。そして、この大学の学生の実態をこの目見ることによって、俺は衝撃を受けた。
「なんだこいつら、これが本当に俺と同じ大学の生徒なのか?」
いかにもDQNそうな風貌で、人が迷惑することを顧みない、態度も悪く声がでかい、俺の一番嫌いなタイプだ。
「どーせ指定校推薦だろ。ゴミどもが。」
俺は内心見下した。そして、こんな奴らと4年間同じ大学なのかと絶望した。
そして俺は決心した。いや、決心できた。いや、してしまった…?
「俺はお前らとは違うんだ。」
「4年間ガチってわからせてやる。」
まず、俺が始めたことは、友達作りだ。気の合う人、仲良くなれそうな人、とかではなく、意識が高くて学習意欲がある人と友達になりたいと思った。そこで、オリエンテーションで配られたチラシの中に、1.2年通して行う、語学を扱う選考有りの授業を見つけた。選考方法は入学当初に受けたクラス分けテストに基づくものだった。俺は上から2番目のクラスに所属しており、選考は障害にならなかった。
大学の授業が本格的に始まった。予想通り、大人数で行われる授業になればなるほど、寝てたりスマホを見てる奴らはもちろん、でかい声で喋ったりイビキをかいていたいする奴らもいた。スマホ弄りや寝るだけなら、最前列で講義を受けている俺には影響はないが、おしゃべりやイビキにはイラついた。しかしそんな中、語学の授業だけは充実していた。大学の中では比較的学力も高い人たちが集まり、中には俺よりもできるなと思える人もいた。少人数だったので、すぐに仲良くなり、その人、Aくんとも友達になれた。
それからは、語学の授業の中でも特に仲良くなったAくんとBの2人と行動するようになった。プライベートで遊ぶとまではいかなかったが、昼飯を食べたりやテスト勉強を一緒にやったりした。今思えば、4年間を通して、1年のここが1番楽しかったのではないか。
2年生になった。俺は単位を取りゼミやアルバイトやサークル活動にも参加しつつ、語学の勉強にも取り組んでいた。資格試験も好成績を叩き出し、何もかもが順調に思えた。
「俺はお前らとは違うんだ。」
俺は行動し、結果を出すことにより、同じ大学の学生を相変わらず軽蔑し、サークルメンバーや同じゼミ生ですら壁を作り、内心見下していた。アルバイト先は9割方異性で、特に仲良くもなれず簡単な仕事を淡々とこなし金をもらう作業になっていた。そんなこんなで、俺の友達は1年たった今でも2人だけだ。
「ごめん!僕今日はサークルメンバーと昼飯食べる!」
…え?
「そ、そうか、いってらー…」
そう言って、Aくんはその場を立ち去った。その日はBと2人で昼飯を食べ授業を受けた。
Aくんはサークル、Bは部活に所属していた。2人ともメンバーとは仲が良いようだ。俺にはそんなゴミどもと仲良くして何が楽しいのか理解できなかった。いや、理解しようとしなかった。
2年も終わりが近づいてきた。俺は変わらず主体的に行動し、資格試験で結果を出した。しかし、AもBも、そんな俺と一緒に昼飯を食べ授業を受けることが殆どなくなっていた。俺はぼっち飯ぼっち授業が多くなっていった。
「なんだよAもBも…他の奴らと仲良くしやがって。あんな奴らより、レベルの高い俺と仲良くしたほうがいいだろ」
けれども、俺には語学の授業があった。ここでは3人揃って授業を受けれる。俺の楽しみはいつしかこれだけになっていた。
「おいA、B、これ見てくれよ、俺語学の勉強頑張って資格試験良い結果だったんだぜー!」
俺は自信満々で、2人以外にもさりげなくアピールするために、大声で2人に自慢した。
「へ、へー」
「す、すごいね」
ん?反応が悪いな。
「なんだよー、嫉妬してんのかー?俺は勉強頑張ってんだよ!これで就活も有利になるぜー」
「そうだね」
「すごいね」
なんだこいつら。俺はこんなに頑張ってんだよ。日頃から物事に主体的に取り組み、客観的に見ても良いといえる結果も出してる。入学当初は自分より上だと思っていたAも、今では大分引き離して俺が上にいる。
「俺はお前らとは違うんだ。」
翌週の語学の授業の日。今週が2年次最後の週で、語学の授業もこれで最後だ。俺は先週の語学の授業から1週間、なぜか1人でずっと昼飯を食べ授業を受けていた。
「最近あいつら付き合い悪いなー」
そう思いながら俺は3人で受けるいつもの席に座って2人が来るのを待っていた。
授業のチャイムが鳴る1分前、2人は一緒に教室に入って来た。
「よ!遅刻ギリギリじゃねーか」
俺は2人に話しかけた。
「…」
「…」
あれ?なんで無視するんだ?聞こえてないわけないんだが…
2人は俺が座っている、いつも3人で受けている席に座らず、離れたところに座った。
「お…
キーンコーンカーンコーン
授業が始まった。
「おい、何でこっち来なかったんだよ」
授業も終わり、俺は2人を問い詰める。
「…」
「…」
そんな俺に見向きもせず、2人は教室を出て行く。
「おい待てよ!何なんだよさっきから」
俺はさらに問い詰める。
「…。はぁ。あのさぁ、もう僕らに関わらないでくれる?」
は?
「は?何言ってんだよ。どういうこと?」
「そのままの意味だよ。」
意味がわからない。
「何なんだよ、どういうことなんだかちゃんと話せよ!」
俺は声を荒げる。
「じゃあはっきり言うけど、お前うぜぇよ。口を開けばこの大学の学生を見下したり馬鹿にするような発言。自分の自慢話。これだけならまだしも、最近ではAのサークルメンバーや俺の部活のメンバーもバカにしたよな?お前といても楽しくないし、むしろ嫌な気分になるんだよ。」
… … …
…
は?え?
「なっ、なん…
「じゃあ、僕たちは行くから。もう連絡して来ないでね。」
キーンコーンカーンコーン
次の授業のチャイムが鳴る。だが、俺はその日初めて授業を休んだ。
こうして2年次の授業、2年通しての語学の授業、友人関係、何もかもが終わりを迎えた。
3年生になり、いよいよ就職活動が始まった。が、1、2年次から培ってきた行動力がここでも発揮して、夏冬インターンにES筆記面接対策を完璧に行い、準備万端で年明けを迎えた。そして、当たり前のように大手企業からの内定を2つ確保した。
4年の夏休みに入った。SNSには、何となく相互フォローしているサークルメンバー達が集まってBBQをしている様子が上がっている。当然俺には声がかかっていない。
俺は何もかもが終わったあの日からでも、主体的に物事に取り組み行動を起こしてきた。大手からの内定2つも、嬉しいには嬉しいが、マークシートを勘で塗って当たった時のようなものではなく、確実に解けたと思い塗ったところが普通に正解していたときのような感じだ。
俺は4年の夏休みに入るまでの3年半、自分なりに努力し、勉学においても就活においても、俺が見下していた同じ大学の生徒とは比較にならないほどの結果を出した。就職課からはインタビューしたいと俺に声をかけてくる。
「俺はお前らとは違ったんだよ。」
人は、思ったよりも孤独に弱い。最後の語学授業の日以降、俺の周りには誰もいなくなった。プライベートもずっと1人、昼飯も授業も全て1人。この1年半、辛くない日なんてなかった。就活での努力は、1、2年次にしてきた努力とそう変わらない。なのに1、2年次に努力が辛いと感じたことはなかった。3、4年の夏休みまでの期間が、1年次の半分にも満たないくらい短いように思える。
「俺はお前らとは違うんだ」
オリエンテーション後のサークル見学時、他の学生を見て、俺はそう思った。そう思いこれを原動力とし、それを証明するために、この3年半努力し続けた。その結果、ほぼ100点とも言える内定を得ることができ、そして何か大切なものを失った。「終わりよければ全て良し」なんて言い出したのは誰だ?終わりよければ全て良しならば、なぜ俺は今他人のSNSを見て枕を濡らしているんだ?
……
大学生活、あと半年か…。