龍と竜の考えなんて、よくわからないよ
「合成! ごふっ、ごう、せいっ!」
手当たり次第、魔法を合成した。目の前に出来たのは、歪な魔法陣。不完全な、バランスのおかしい今にも壊れそうな力。
何故かシャフェルのエネルギーを抑え……いや吸収していた。まるで、力を吸収して元の形に戻ろうとするように。
『っ、動けぬ。カカカッ! 我の力を利用するとはな』
「その、まま、果てろ……はぁ、はぁ、はぁ」
『ふむ、異界の力か……その若さで、惜しいな』
「くっ……早く、行かなきゃ」
この力を気にしている余裕は無い。シャフェルが動けない内に、イシュラの元へ行かないと。
めり込んでいた身体の周りに氷の塊をぶち当て、なんとか落下出来た。
痛い筈なのに、痛みは感じない。
きっと、爆音が鳴り響いているのだろう。身体に音の振動が激しく伝わっているから。
耳が、聞こえない。視界の端が赤い。眼からも血が流れているのだろう。
でもそんなの、気にしない。
イシュラの元へ一歩、また一歩と歩みを進めていた。
『もう手遅れだ。心臓を貫いたのだからな』
「はぁ、はぁ、はぁ、早く、イシュラのところへ……ごふっ……絶対、大丈夫、死なせない……がはっ……」
『……我も動かねば消滅する、か。不便な身体よの……ククッ、不便な運命でもあるか……ガイアよ、解放の刻が来たようだ』
「絶対、絶対……」
血を吐くくらいなんだ。
氷の柱を身体に当て、イシュラの所まで飛ばした。
飛ばされ、転がりながら、倒れ付したイシュラの元へ来た。
力無く倒れ、青白い顔に、胸に貫かれた跡があった……血は、そんなに出ていない。この鎧の効果……いや、精霊が守ってくれている。今も、微かな命を繋いで……少しずつ、精霊の力が減っている……間に合った……
私の魔力も、残り僅か。
それでも、イシュラを治すには魔法を合成しないと……
白く小さな魔法陣を、三つ……これが、限界。
意識が、薄れる……気をしっかり持てルクナっ!
「君が笑顔に、なれるのなら、私は、どんな代償も、どんな犠牲も、払える。払ってやる。私という存在が、万物を癒す、天との契約……魔法、合成、天回再生」
イシュラの胸に、可能の限りの回復を施す。
再生の魔法なら、失った内臓も再生する筈……
……イシュラの顔に少しずつ生気が宿り、赤みを帯びてきた。
……でも、胸の傷が再生しない。
どうして……魔法は働いている筈なのに……
っ、身体の力が抜けていく。
身体が限界、なのか。
っ! シャフェルが、動き始めた。
砂時計のように崩れる身体は、もう半分以下。身体は細く、手足も骨が浮き出て、シャフェルも限界のように見えた。
でも、シャフェルの魔力はまだ残っている。
『カカカッ! 見事だ人間』
「……」
『むっ? 聞こえぬか。ドラグ・ヒール』
「……えっ?」
急に身体が楽に……回復、した。まさか、シャフェルが私を?
……何が目的だ。
『人間よ、生きたいか?』
「……あぁ、もちろん。どうして私を回復した?」
『汝は生き抜く力を示した。それだけだ』
「……」
ゴトリ、とシャフェルの腕が崩れ落ちた。崩れ落ちた腕は砂のように細かくなっている。
もう、シャフェルは戦えない、のか。
『その者はいずれ死ぬ。汝がどう足掻いてもな』
「そんな事、私がさせない。イシュラは、絶対に助ける」
『無駄だ。だが、汝が力を示したように、その者も力を示せば生きられる』
「そんなの……」
イシュラはもう、死ぬ寸前だ。力を示すだなんて、出来る訳がない。
くそ……何かしてやりたいけれど、魔力はイシュラに使って、戦える力が無い……
『この者の心臓は損傷が激しく、再生しない。だが、汝は合成魔法を使える』
「……何が、言いたい」
『わかっておろうに。心臓は、あるだろう?』
「……龍の、心臓」
何を、言っているんだ。
心臓。
龍の心臓を、イシュラの心臓と合成しろと?
そんなの、人じゃなくなる。
人の理から外れたら、魔物に、なってしまうじゃないか……
そうだ、私の心臓を使えば……でも……
『言っておくが、汝の心臓は使えない。それは汝がよく解っている筈だがな』
……解っている。私の心臓を使えば私が死ぬ。イシュラは、その事実に耐えられない。
時間が、もう無い。
成功しても、イシュラがイシュラじゃなくなる。でも、やらないと、イシュラが死ぬ。
答えなんて、わかりきっているのに……イシュラは、私を恨むんじゃないかって……
ははっ、イシュラを助けたいのに、自分の事ばかり考えている自分に嫌気がさす。
「大丈夫。イシュラは、どんな手を使おうが、生きたい筈だ。私なら、そうする」
もしかしたら、私の勝手な押し付けなのだろう。
身体は、動く。シャフェルを警戒しながら、壁を蹴って飛び上がり、短剣で心臓の側面を斬り離した。
っ! 頭の中に声がっ……
──私を喰い……復讐を……
ゾクリと本能が警戒する……悪寒が凄い……それだけ、強大な力の持ち主ということか……
脈動する心臓の破片を、魔力を馴染ませながらイシュラの胸に当てた時、シャフェルの脚が崩れた。
胴と頭を残し、少しずつ消えていく様を見て……何故だか腹が立つ。
イシュラをこんな目にしやがって、わかったような顔しやがって、満足そうに笑いやがって……
『我は、資格のある者が訪れるまでの契約だ。万全の状態で闘ってみたかったがな……カカカッ』
「契約ってなんだ。この迷宮で生まれたんだろ?」
『我は、月の大聖堂を護る竜の一柱だったが……ある時……下界に堕とされた。その時ガイアに吸収され、ここで時を過ごした』
「……」
ガイア……きっと砂龍の名前。
シャフェルは、ここに囚われていたという事か……話がよくわからない。
わからないのに、なにかもやもやする……腹が立つ筈なのに、このままで良いのかと思ってしまう。でも、崩れゆくシャフェルにどうする事も出来ない。
『……何をしている。早くしないと手遅れになるぞ?』
「……わかっている。魔力が足りないから、核よこせ」
『我の核を? クカカッ、持っていけ』
シャフェルが白い珠をゴボッと吐いて、私の側に転がった。すると、シャフェルの身体が崩れ落ち、白い砂に変わった。
……最後まで笑っていたな。
「……合成」
核の魔力を使って、イシュラの胸に龍の心臓を合成した。魔法以外を合成するなんて出来ない筈なのに、なぜか出来る確信があった。知らぬ間に、成長しているのだな。
龍の肉を食べていた影響か、すんなりと心臓が再生し、やがて肌も再生した。
少し、傷が残ってしまったな……
血色も良くなり、呼吸をし始めた。
良かった……なんとか、なったよ。
念のため起きるまで、魔力は送り続けよう。
イシュラの赤い髪を撫で、ずれた眼帯を直すところで気が付いた。
火傷痕が、消えている?
急いで眼帯を外すと、火傷痕は消えていて、綺麗な素顔があった。
「ふふっ、美人だなぁ」
思わず笑ってしまうほど、綺麗な顔立ち。
もう、化け物なんて言われない。
きっと、シャフェルの核の効果だろう……シャフェル、か。
シャフェルの身体だった砂を眺めていると、イシュラが目を覚ました。
……私を見詰めるイシュラの瞳は、全てを見透かすような綺麗な赤い瞳。時折瞳の中に魔法陣のようなものが見えて、綺麗過ぎて怖いくらい。
……あぁ、そうか。この瞳は、秘密を抱える者には辛すぎる。
「……私、死んだ、よね?」
「……うん、死んだよ。でも頑張って、生き返らせたんだ」
「……また、助けられちゃったね」
「ううん、生き残れたのはイシュラのお蔭だよ。それと……謝らなければならない事がある」
「心臓の事でしょ? 逆に感謝だよ。これで、ルクナの助けになれるから……ルクナ?」
「いしゅらぁ……ありがとぉ……へへっ、ごめんね、ちょっと、限界」
イシュラの笑顔を見た瞬間、緊張の糸が切れてしまった。ごめんね、もっと沢山話したいのに、身体が言うことを聞かない。
無理、し過ぎたかな……




