身体が臭くないか気になるよ
♀×♀×♀×♀×♀
……
……ん?
なんだ、これは……目の前に広がる人の軍勢。
敵、なのか? 私……? 私一人で、戦う……?
人の軍でも一人で勝てるかもって、思った事があったっけ……でも、何かおかしい。
私は私のようで、私じゃない。
私のようなこの人は、誰だろう……
「あーあ……私を想って泣いてくれるのならば、私が生きていた意味があるってもんだ……ははっ、未練ってもんは本当に邪魔だねぇ」
古びた本をめくり、魔法陣が描かれたページに魔力を通すと、赤い魔法陣が飛び出し宙に浮かんだ。違うページを開きまた魔力を通すと、もう一つ黒い魔法陣が宙に浮かんだ。
「来るぞー! 防御結界を張れー!」「魔力を切らすなー!」「たかだか一人だ! 終わったら総攻撃だ!」
畏れている。
私のようなこの人に、大勢の人間が。
軍に属する兵隊をも畏れさせている。
その畏れを吸収するように、魔法陣が、肥大していく。
「煉獄の門開くは朱鬼の民、地の底から這い上がり、生ある者を喰らい尽くせ。生ある者よ、怨むなら、弱い己を怨め……禁術合成・煉獄王ヴァルヒート」
上空に巨大な扉が出現。血のような赤、禍々しい霧を纏った、この世の物とは思えない扉。その扉が、ギリギリと軋みながらゆっくりと開いていく。
「うっ…撃てぇぇぇ! 開けさせるなぁぁぁ!」「なんて、魔力だ……」「応援を呼べ! 今すぐだ!」
──グオオォォォオオオオ!
なんだよこれ……なんて魔法だ。今までこんなに強力な魔法は見たことが無い。
扉から這い出るように出てきた深紅の腕が、埃を払うように振るわれると……深紅の炎が辺り一面を覆い、人間達をなぎ払っていった。
これが、戦争……?
いや、一方的な虐殺にしか……
「あー……魔力がごっそり減った。背伸びし過ぎたか……げほっ、げほっ……ふふっ、私も、長くは無い、か」
血の混じった咳をしながら、煉獄王が這い出てくるのを眺めていると、深紅の腕が遥か向こうから飛来した氷の柱に貫かれた。
敵の魔法か、煉獄王の腕を貫くなんて凄い魔力だ。
「あーら禁術士さん、相変わらず独りぼっちで寂しそうねぇー」
この場には不釣り合いの、日傘を差したお嬢様が笑いながら降り立った。兵士達と魔力の質が違う……この魔力は、少し、懐かしい……少女が後ろに向けて手を振ると、兵士達が後退していく。
「ははっ、あんたみたいな孤独よりはましだよ。ウォーエル・レド・ノースギア」
「孤高と仰って戴けません? ほらご覧なさい、わたくしが来て兵士達はあんなにも喜んでいるわ」
「やっと来たかの間違いじゃなくて? お前が来たって事は、ノースギアは後が無いって事だよね?」
「ふふふっ、それはないわ。わたくしは貴女の素晴らしい魔法をもっと見たいから来たの。わたくしの氷を受けてもまだこの魔法は生きている……ねぇ、まだまだこんなものじゃないでしょ?」
「まぁね、煉獄王ヴァルヒートは氷属性があまり効かない」
突き刺さっていた氷の柱が溶けながらバキバキと崩れていく。
自分の魔法が崩されても、ウォーエルと呼んだ少女は笑みを崩さなかった。
「あらあら、困ったわ。でも、素敵ねぇ……あなた、わたくしの所に来ない? あなたなら直ぐに階級を駆け上がるわ」
「差別階級を駆け上がるなんてごめんだね。知っているよ、レドじゃないと扱いが違うって」
「普通なら、よ。わたくしの所なら国民が平伏すわ。孤独のあなたにとって悪い話じゃあないと思うわよ?」
「……私の寿命はあと数年だ。残念だが好きな事をやらせてもらう」
「ふーん。その寿命を、伸ばせるとしたら?」
「……ははっ、そんな事、出来る筈がない」
「出来るわ。わたくしの力は特別なの。見なさいこの若々しい身体……わたくし、今年で五十になるのよ?」
「……」
心が、揺れている。
この人は、もっと生きたいと願っている。
好きな人と、例え離れていても、少しでも長く、同じ時間に居たいと……そんな方法があるのなら、もし本当なら、どんな事だってしたいって……
迷いが、伝わってくる。こんな口車で簡単に迷うほど、この人は生きたいって伝わってくる……
「望むのなら、これを持って城に来なさい」
「……」
ウォーエルが白い花の描かれた紋章を手渡してきた。敵なのに、こんなに近くに来て……それ程までに、この人が欲しい……そんな欲求が感じられる瞳。吸い込まれるような、不思議な感覚……
「わたくしは、貴女を歓迎するわ。じゃあいつでも待っているわね。ライズ・エリスタ」
「待っ……はぁ……逃げられたか」
ウォーエルが消え、話している間に兵士達も撤退していた。一人残され、ウォーエルに渡された紋章を眺めながら、煉獄王の扉を閉じた。
ライズ・エリスタ……? この人の名前……エリスタ。
「私は、何をしているんだろう……ノースギアと戦う理由なんて無いのに。ノースギア、か……」
ライズは、ノースギアに行くのかな?
エリスタ一族なのかな?
なんか、凄く気になる。
♀×♀×♀×♀×♀
……
……
「……ん、夢……か。イシュラ、起きている?」
「ん? おはよう、私も今起きたよ」
「どう? そろそろやる?」
「そうだね。もう怖くないよ」
私達は、不死竜の尻尾を枕にして寝るくらいの度胸が付いた。もうイシュラの顔に恐れは無い。龍の肉の影響もあるだろうけれど、頼もしい限りだよ。
「じゃあ、お互いに最大火力で攻めるよ」
「うん、一撃で終わらす」
早いとこ、不死竜を倒してお風呂に入りたい。
まともなご飯も食べたいよ。




