アルセイア様、この幼女妖精危険です
早速、エリスタへ向かうために準備をする事にした。でも今日出発するのなら学院長に報告しなければならない。
正直学院長とあまり話した事は無いから少し緊張する。学院長挨拶の時は凄く、素敵な女性という印象だし……
──コンコンコン。
「学院長、アルセイアです」
「んあ? 入って良いぞえー」
「失礼します……えっ」
「悪いのー、クベリアが有休取って旅行に行ってしもうての。ちと散らかっておるが我慢してくれの」
「……くっ、これは……アルセイア様、足下にお気をつけ下さい」
この散らかり具合は……ちとのレベルじゃないよ。
くしゃくしゃに丸められた紙が散乱して、空のお弁当や空のお菓子の袋もある。天井から垂らされた赤い縄が気になるけれど、聞かない方が良いだろう。
足の踏み場はある……と思う。リリが珍しく嫌そうな顔をしているくらい汚な……いや散らかっている。
リリは綺麗好きだもんね。分かる、分かるよその気持ち。
ソファーの上で毛布に包まれてイモ虫みたいにモゾモゾしている物体が学院長……だよね?
なんか、小さくない?
「ここで……泊まられているの、ですか?」
「帰るの面倒での。何か用かえ?」
「あっ、早めにファイアロッドに出発しようかと思いまして、報告に来ました」
「ほいよ。机にある紙とペン取ってくれの」
リリが爪先で歩きながら机から紙とペンを取り、もぞもぞとしている物体の毛布を引っ張った。
毛布から出てきたのは……白く長い髪のパンツ一枚姿の幼女だった。
ちょっと、頭が追い付かない。
幼女? 学院長? そして何故パンイチ?
リリも一瞬止まって、紙とペンを渡すと、何かを書き始めた。やっぱり学院長なんだ……
あっ……そうだ、妖精族って聞いた事があるような……
妖精って服着ないもんね、多分。
学院長について考えていると、何かを書き終えて渡してきた。
「これは……?」
「アルセイア王女だけ別行動も問題じゃろうから、わっちと一緒に行くっちゅう書面じゃ。職員室に出して来ての」
「ありがとうございます。学院長も、来られるのですか?」
「分体じゃがなー。ほれっ、持って行っての」
……学院長の手のひらから、小さな羽の生えた学院長が出てきて、私の手に乗った。
妖精だぁ……可愛い。でも何故下着姿なのだろう。
なんかセクシーポーズを取っている。可愛い。
指でつんつんしようとすると、お尻を向けてきて指にお尻の割れ目を当ててきた。
それを見たリリが妖精をデコピンして落とした。
デコピンされて落ちていく妖精がくねくねしながら喜んで、私の中の妖精のイメージを下方修正しなければならないかも。
「学院長、なんですかこのハレンチな妖精は。アルセイア様の目に毒です」
「固いこと言わんでの。わっちの性癖が少し出ちゃうのじゃ。我慢しての」
「我慢出来ないから言っています……因みに性癖とは?」
「可愛いおなごが大好物なのじゃ!」
「アルセイア様、このエロ妖精は私が預かります」
「リリたんでも良いぞえ、肌身離さず持っていての。ブラジャーに挟んでくれたら本望じゃ!」
『おぱんてーでも良いぞえっ!』
妖精も喋るのね。
可愛いのだけれど、私を見る目が怖い。
「もし何かしたら縛り上げて然るべき所へ報告します」
「んもぅっ、冗談じゃよー。リーリたんっ、お堅いぞっ」
『ほんのちょっとペロペロするだけじゃよー、お堅いところもハァハァしちゃうのー……あっ、やめてっ、縛らないでっ』
リリが無表情で妖精を紐で縛り、鞄の中に仕舞った。
……リリが学院長を威圧的な視線で見詰めている。しばらく無言が続き、流石に空気を読んだ学院長が服を着始めて、ゴミの上に正座した。
「……ほんの出来心じゃったの、許しての」
「……次はありませんよ」
「ありがとうなのじゃ、リリたん……」
「リリたんはやめて下さい」
「じゃあ本名を……いや、なんでもないの」
「……では、用件は済んだので失礼します。アルセイア様、行きましょう」
「え、えぇ。学院長、失礼致しました」
「あーぁ、一人は寂しいねん」
学院長は再び横になって毛布に包まり、もぞもぞしていたけれど、やがて動かなくなった。
……私の中にあった完璧な学院長は記憶の彼方に消えたけれど、これはこれで可愛いなぁと思ってしまう。
何か聞こうと思っていたけれど、忘れたな……まぁいっか。
学院長室を出てから、リリが落ち着かない。イライラするような、ソワソワするような。
鞄の中から紐で縛られたまま寝ている妖精を取り出し、ハンカチを巻いて布団にするところをみると、リリってやっぱり優しいなって。
「……アルセイア様、あの……いえ、なんでもありません」
「なぁに? あっ、もしかして学院長室の事?」
「すみません、あの部屋を見たらウズウズしてしまって……私がやるべき事ではないのですが」
「良いわよ。あれを見ちゃったらねー」
「……ありがとうございます。以前、学院長と話をした事がありまして……私の母の話をして下さいました。だからという訳ではないのですが……」
「リリの、お母さん?」
リリの家族について、あまり知らないな。リリに家はあるけれど、掃除をするだけの場所と言っていた。
だから興味本位で一度だけ行った事がある。
立派な一軒家だったのに、誰も居なかった。
家具も揃っていたけれど、日常的に使われた形跡はなく、まるでモデルハウスみたいな印象だった。
「はい、また今度、お話します」
「うん、聞きたい」
「では、直ぐ終わりますので……」
「えっ、私もやるよ?」
「それは、駄目です」
「えー、じゃあ待っている間可愛い学院長を抱っこしちゃうかもしれないよ」
「それはもっと駄目です。とにかく駄目です」
「駄目駄目って、私も掃除したいもん。お願いりーりたんっ」
「くっ……」
「リリたんと一緒に、掃除出来たら嬉しいなぁー」
慣れない上目遣いだけれど、リリにはこうかばつぐんな気がする。
あっ、にやけて嬉しそう。
「どこで、そんな技を……」
「ルナードに教えて貰ったの」
「なっ、そんなの知りませんっ! 隠していましたねっ!」
「ふふーん、リリも秘密にしていたお返しだもんねー」
お母さんの話になった時、寂しそうだった。
でも、少し元気になったかな。
それから、学院長室を掃除した。
そうしたら……
「お礼にわっち本体が一緒に行くぞえっ! ノーとは言わせんからのっ! ぬふふ」
「「……」」
強引に幼女が付いてきた。




