アルセイア様、それは流石に……
「みんな、元気にしていた?」
「アルセイアさまぁー!」「アルセイアさまぁっ! 今日も可愛いですっ!」「あるていあしゃまー」
院長の長い挨拶を躱し、院内に入ると少しいつもと雰囲気が違った。
なんというか、女子と男子が分かれているというか……中には遊んでいる女子と男子はいるけれど、いつも遊んでいる面子だし……よくわからないけれど、分かれているというのは分かる。
「ねぇなんか、男子と喧嘩でもした?」
「あぁいやぁ……してないですよっ」「ここは仲良しですっ」「クソ男子共とはいつも通りですよっ」「アルセイア様ーきゅるるがきたのー!」
「きゅるる? クルルかな? 私ね、クルルとお友達なのよ」
「ほんとー?」「やっぱりきゅるる凄いんだー! これきゅるるに貰ったのー!」
女の子が髪飾りを見せてくれた……なにこのデザイン可愛い……リリをチラリと見ると、視線が髪飾りに釘付けだった。
なんかね、羨ましいというか……クルルという事は素顔で来たのよね? だとしたら……あぁ、恋する乙女の顔をした女の子も居る……やっぱりモテるよなぁ。
リリ、ため息吐かないでよ……気持ちが解りすぎるから……
「可愛いわね。私はねぇ、クルルに魔法を教えて貰ったのよ。ほらっ」
「「「わぁー!」」」
アクアバードを三羽出して、女の子の肩に乗せてあげると、ワーキャー喜んでくれた。
なんか張り合っているみたいで、でもリリ……あなたもアクアバードを出さなくても良いのよ? 髪で隠れているけれど、どや顔しないの。
アクアバードに男子達も興味があるのか、近付いてきたけれど、女子達が威嚇して一定距離から近付いて来ない。やっぱり喧嘩しているじゃないの。
「あのっ、あのっ、リリ様もクルルに魔法を教えて貰ったんですかっ」
「はい、手取り足取り優しく教えて戴きました。実はこの魔法、ただのウォーターなのですよ?」
「えっ……ウォーター? 基本魔法なんですかっ! 私達にも出来ますかっ」
「努力すれば出来ますが……先ずは安全に魔法を使えなければなりません。魔力操作の勉強を……ごほん、失礼しました。これは介入出来ませんので、院長に聞いてみます」
勉学については私達と少し違うから、下手なことは教えられない。間違って覚えて私に教えて貰ったなんて言ったら、その子に迷惑が掛かる。本当はみんなで魔法の勉強をしたいけれど、我慢だね。
「そうだっ、クルルと何か遊んだの?」
「きゅるる凄いのー。魔法ですべり台バーって作ってくれたのっ。でもクソ男子に邪魔されてあんまり遊べなかったの」
「あら、どうして邪魔されたの?」
「ここは俺たちの場所だーって。みんなの遊び場なのに……」
「それでクルルが怒ったの?」
「ううん、怒ってないよ。あっ、でもイシュラが……あっ、えっとぉ……」
イシュラ? 女の子が何かを言おうとして周りの女子の顔色を伺っていた。深追いは駄目かな? でも気になる……クルルは女子側の味方だ。ここは男子達に悪いけれど、私もクルル側に居ると言えば聞けるかもしれない。カサンドラはきっと男子側だから……まぁ良いか。
「私はクルルの味方よ? 魔法の師匠で大切な友人なんだからっ」
「……アルセイア様、場所を移しましょう」
バッチリ男子達に聞こえてしまったな。ごめんリリ、私はクルルが怒るような事が気になって仕方がないから。
聞かせて? と、真剣な表情で聞いたら女子達がどうする? という視線を交わして、うんと頷いた。
よし、女子達と場所を移動するところで、話を聞いていた男子が外に走り出した。カサンドラを呼びに行ったか? でももう遅いわ。個室に入ってしまえば勝ちだもの。
女子達に案内された場所は二階だ。
二階は初めて来る……女子達は階段を上がって直ぐの部屋に案内してくれた。イシュラと書かれた部屋。
扉を開けると……誰も居ない、ベッドと机という殺風景な部屋で、目立った物は作業着と包帯があるくらい。
「クルルは、イシュラが外で作業中に具合が悪くなった所を通り掛かって、手当てしてくれたんです。そこで仲良くなって、昨日遊びに来たんですが……あっ、イシュラはその……目をケガしていて、いつも包帯をしているんです」
年上の女の子が話し始め、他の子はそれぞれ座って黙って話しに耳を傾けていた。
イシュラって確か会った事が無かった子だよね。話題には出ていたけれど……顔に火傷跡があるからあまり外に出てこない、だったかな。
「クルルは私達にも優しくしてくれました。でも、男子達が気に入らなかったみたいで、邪魔してきたんです。出ていけ、って。そこに騒ぎを聞き付けたイシュラが来て……男子達がイシュラに……化け物って言いました。それで、クルルが怒って……」
「……クルルが怒るのも、無理はないわね。彼は、心無い言葉を許せないから。一応聞くけれど男子は無事だった?」
「はい、でも後から来た公爵家の方が男子達の味方になって、クルルと戦ったんです」
「えっ、戦ったの? 結果は?」
「きゅるる勝ったけど、我慢してた。辛そうだった……」
そっか。
火傷跡のある人に化け物とか、それに女の子に向かって言うなんて最低だ。
私でも相当怒る。
私も立ち合えたら、ルナードの味方をしたのに……
カサンドラも味方をしたのなら同罪ね。
「そぅ……言ってくれてありがとう。イシュラにも話を聞きたいのだけれど、何処にいるの?」
「クルルがイシュラの目を治すからって、エリスタに連れて行きました。私達も行きたかったんですが……」
「エリスタに? ふ、二人きりで?」
「はい……正直、イシュラが羨ましいと思ってしまいました。クルルと二人きりで旅行ですよ? あんな格好良くて優しくて強い男子と二人きりですよ? 私は悔しいですっ! あっ……失礼しました……」
「大丈夫、私もなんか悔しいから……」
「アルセイア様、心の声が漏れています」
「何よ、リリだって悔しいんでしょ?」
「悔しくはないです。嫉妬に狂っているだけです」
リリも正直に即答するくらい嫉妬に狂っているのね。なんだろう……凄いムカムカする。いくら目を治すって言ったとしても、二人きりで? 泊まるんでしょ?
まだそういうのは早い年齢だとしてもよ。泊まるんでしょ? はぁ?
「イシュラって、どんな子? 何歳?」
「えっ……と、十歳くらい、って言って、ました」
「イシュラ凄い美人なのー!」
へぇー、美人。
へぇー、十歳って、同い年ね。
へぇー……
セイランちゃんの場合はそこまで嫉妬しなかった。何故ならルナードはセイランちゃんをただの友達として接していると解っていたから。私とリリの方が好きだって解っていたから嫉妬しなかった。
でも、イシュラは情報が少なすぎる。
イシュラの目を治したいって……リリの目を治して欲しいのに、二人きりで旅行までしてする事? その場で治せなかったの? 美人だから?
あー駄目だ、負の感情が溢れてくる。
きっとルナードは純粋に目を治したいって思っている筈なのに……
でも文句言いたい。
リリも同じ事を思っている筈。
私達が一番って言った癖に直ぐに違う女と旅行か? って……
「リリ、今日……出発しない?」
「えぇ……そうですね。全速力でご用意します」
「みんな、ありがとう。カサンドラには、私から鉄槌を下すわ。安心して」
「あ、ありがとうございます……」
「アルセイア様、威圧が漏れていますよ」
リリの方が威圧が凄いじゃないの。
さて、直ぐに行かなければならない。
女子達と共に部屋を出て、階段を降りると男子達を従えたカサンドラの姿があった。
探す手間が省けるわ。
「な、なぁ……聞けた?」
「最低」
「「「──っ!」」」
「あなた達、顔に傷がある女の子に化け物なんて言っているみたいね。見損なったわ」
「「「……」」」
何も言わないところを見ると、非を認めたか言い返す言葉が無いか……恐らく後者だけれど、許しは無い、かな。
リリ、溜息なんて吐いてどうしたの? それ言っちゃ駄目って? もう言っちゃったもん。
「カサンドラ、あなたも彼らの味方をしたのだから、私の敵ね」
「……まっ、待ってくれっ」
「嫌。敵対したくないのなら、全員でイシュラに謝りなさい。じゃ、帰るわ」
少しスッキリしたけれど、まだ駄目だ。
ルナードに文句を言わないと気が済まない。
それにイシュラに会ってみたいし、リリの目の事を伝えたいし、あの時の事、謝りたいし……
あーもうっ、早く会いにいかなきゃ!




