魔法習得には裏技があるのだっ
買い物は、まぁ直ぐ終わったよ。
生活用品なんて宿の一階で買えるし、イシュラの装備なんて向かいの雑貨屋にあったし。
無駄な買い物をしない癖があるから、目的が終わってしまったのよ。
という訳で、現在イシュラと迷宮第一層に来ていた。
鬱蒼とした森の中で、イシュラは震えながら私の服を掴んでいた。
そりゃ戦闘訓練なんてした事の無い女子が来たら震えるよね。私よりも女子女子していて可愛いんだよ。
普段とのギャップにキュンなんだよ。
「帰りたい」
「まだ駄目」
「私が魔物を倒せる訳無い」
「いや、任せてよ」
「もう泣いてる」
「泣いても駄目」
もちろん帰還石はゲットしている。
うーうー唸っているイシュラの手を引いて、魔物が居る所まで行き静かに観察。
「あの赤い実、魔物だよ」
「えっ、逃げよ」
「イシュラ、左手を魔物に向けて」
「左手? こう?」
「うん、ファイアランス」
「えっ、えっ、うぇぇええええ!?」
イシュラの左手からファイアランスが飛び出し、赤い実に着弾。
ボウボウと燃え盛り、魔物は声を上げる隙も無く絶命した。一応魔石を回収しとくか。
イシュラが左手と魔物を交互に見ては困惑して、私に泣きそうな目を向けてきた。
ちゃんと説明するから安心せい。
「今、イシュラの魔力で魔法を使ったんだ」
「どどどどういう事!? 全然意味がわからないっ!」
「説明を理解するまで時間が掛かるから、また魔物を倒しながら順を追って説明しよう」
「またやるのっ!?」
混乱中のイシュラの手を引いて、次なる獲物を探す。
この方法は裏技で、手っ取り早く魔法を覚える方法だ。
イシュラの適性は火、光、闇。私も火と光と闇は持っているから都合が良いんだ。
私の魔力操作でイシュラの魔力回路からスムーズに魔力を取り出して、魔法を使った。わかりやすく言うと、魔法杖の代わりにイシュラを使ったという事。
実は下手な魔法杖よりも、魔力の親和性が高いのが人間だから。
まぁ精密な魔力操作が出来ないと魔力回路を傷付けてしまうから、普通は出来ない。私は普通じゃないからねっ。
「とまぁこんな感じで、今日は自力でファイアランスが撃てるようにする事が目標だね」
「なんかよくわかんないけど、私が魔法を使えるなんて……」
「イシュラなら一ヶ月で火属性の上級くらいなら出来るよ。魔力量結構多いし」
魔眼が強力なせいか、魔力量が多い。
だから私のファイアランスを何回も撃てる、という事はやり方が解ってくるのさ。凄く簡単に魔法習得出来るように思えるけれど、魔法の勉強をしてこなかったからこそ出来る。
勉強していたら、固定概念って邪魔なのよ。
「なんか、出来そうな気がする……こうやって、こうっ!」
「おぉー! 出た出たっ! 早く投げてっ!」
「投げるっ!? 熱い熱いっ!」
「ありゃま。ウォーターボール」
出したは良いけれど、掴んじゃ駄目よ。
水球を出してジュゥゥっと火を消した。少し火傷していたからこれも回復。
「怖かったぁ……」
「いやぁ上出来だよ。才能あるねー」
「ほんと? 頑張って、みようかな」
「ファイアランス以外もやってみよっか」
ファイアランスの他にファイアボールやファイアソード、ファイアバレットなどなど下級から中級を使ってみると、考えながら自分に合った魔力の使い方をしていた。これは事前に魔法の勉強をしていたら出来ないから、というか応用出来る時点で凄い。
これから凄く伸びると思う。
「今度こそ……ファイアランスっ!」
「えー、もう出来たの?」
少し歪な楕円形の炎が発生し、投げる動作で十メートル先の魔物に着弾。制御は甘いけれど、上出来過ぎるというか……天才の部類だと思うよ。魔物倒してるし……いや凄えな。普通じゃ出来ない……まぁイシュラも普通じゃないか。
「……倒した? 倒したの? やったぁ!」
「おめでと。いやぁ凄いね」
「よしっ、どんどん行こう!」
「良いねー。じゃあ先ずは一層を抜けよっか」
「あっ、あれも魔物だよねっ。ファイアランスっ」
「ん? 多分……あっ」
あの蔦の塊、ボスじゃね?
ファイアランスが到達し、勢い良く燃え出した。普通よりも燃えるなぁー。
「なんか、凄い燃えるね」
「みんな火属性に弱いからね」
「なんか落とした」
「ドロップアイテムだね」
「それなに?」
「迷宮の魔物が一定確率で落とすアイテムだよ。強い魔物ほど良いものを落とすかもってやつ」
イシュラが燃え尽きた蔦のそばへ行き、落とした物を拾ってきた。
えーっと、緑の歯車?
何かに嵌めるのか、解析しよう。
……名前はそのまんま緑の歯車? なんだろう。
一応収納しておこうかな。迷宮特有の仕掛けとかあるし。
あっ、魔物。
「あっ、これ出来そう。ファイアウォールっ」
「えー、すごー」
近付いてきた魔物が炎の壁に激突し、燃え尽きていった。教えがいがあるのは良いけれど、教える事が無くなったら怖いよね。
それから魔物を倒しながら魔石を回収してを繰り返し、第二層への転移陣に到達した。相変わらずキャンプが設置してあるな。
きっとパーティーよりも大きなクランに所属する人達が大半で、下っ端とかが採取等をしてクランの資金集めをしていると思う。
「同じくらいの歳の子も居るんだね」
「大きなクランだと子供でも受け入れるらしいし」
噂をすれば、こっちを見ていた子が近付いて来た。ショートカットの皮鎧を着た女子で……歳はイシュラくらいかな、ファイアロッドを二本背中に背負っている辺り、一層を拠点にしているんだな。
「ねえあんた達どこのクラン?」
「私達は無所属だよ」
「あっ、そうなの? ファイアロッド持ってないけど魔法使い?」
「うん、観光で来たんだ」
「どこから来たの?」
「王都からねー」
観光と言っておけば勧誘は減る。ここら辺はわかっているみたいで勧誘はされなかった。
それにしておっさんばかりの所で女子が居ると大丈夫かななんて思うけれど、余計なお世話か。
「王都かぁー行ってみたいな。あっもしかして二層に行くの?」
「うん、少し見たら帰るんだ」
「えっ、じゃあ王都の話聞かせて? 私ミクっていうの」
「ちょっと待ってね。どうするイシュラ」
「ん? 良いんじゃない? 私たちも来たばかりで知りたい事あるでしょ?」
「それもそうか。じゃあ外で会ったらで良いかな? あっ私はクルルだよ」
「私はイシュラ、よろしく」
「う、うん。よろしくねっ、イ、イシュラっ」
……ふむ、イシュラが微笑んで挨拶するもんだから、ミクの顔が赤いじゃないか。イシュラが微妙な顔を浮かべている辺り、察してしまったのね。
ミクに手を振って別れ、イシュラの脇腹を肘でぐりぐりしながら転移陣に乗り、第二層に到着した。
「イシュラ、私を捨てないでね」
「何言ってのさ。私なんかルクナに依存してるんだから」
「不安なんだ。つい最近父親の浮気現場を目撃してさ……その後好きな人に振られてさ……」
「……それは、災難というか、残念というか……」
「それに、最近精霊に監視されているせいか安心出来ないというか……」
「精霊? アースさんは、精霊王なんだっけ」
精霊が居ると、なんか心に壁を作ってしまう。なんでかはわからないけれど、なんとなく。
見渡す限りの砂漠の中心で、イシュラにギュッと抱き付くと、そっと頭を撫でてくれた。なんか、安心するな。
「ごめんね、私ばっかり。イシュラだって辛い事とかあるのに」
「私は慣れっこだから。ルクナの、支えになりたいし……」
「イシュラぁ……ありがとぉ……」
「ルクナを振るなんて、その人は見る目が無いね」
「……まぁ、お互いに事情があったからさ。仕方がないんだ」
「それでも、じゃない?」
「……もう一度、告白して駄目だったら諦める。機会があれば……ね」
「……そっか、応援……するね」
日を追う毎に、セリアの事が頭から離れなくなってきた。
諦めなければならないのに、ね。こんなに好きになってどうするんだ私よ。
忘れよう忘れようって思うほど、セリアと過ごした時間が愛おしくて、泣けてくる。
はっきり言ってくれたら、諦められるのに……
「はぁ……ありがと、もう大丈夫だから」
「いつでも言って。私はルクナの為ならどんな事だってするから」
「もぅ、私だってイシュラの為に頑張るよ」
「……うん」
イシュラも元気が無くなってきてしまった。これじゃあいかんな。
気持ちを切り替えよう。
……よし、なんとか……んっ?
「地震……?」
ゴゴゴゴ……と地の底で唸るような地震が起きている。浅い揺れだから意識しないと感じないけれど……
「真下、から?」
「あっこれまずい。イシュラ、走るよ」
「う、うんっ。揺れが……」
揺れが大きくなってきた。
砂で走りにくいけれど、頑張らないとっ。
イシュラの手を引いて、身体強化を施し全力で走った所で……
『──キシャキシャキシャキシャ!』
地面から大きな口が飛び出し、どんどん上に伸びていく。
……上まで上がりきった所で、地震を発生させた主が現れた。
黄色い肌にブヨブヨした皮膚には毛が生えて伸び縮みしていた。
君は……ワームちゃん。
アースが居ないから私達を敵と認識しているのか……おーい、私の事忘れたのかー?
「ワームちゃーんっ! 私だよー!」
『キシャーーー!』
あっ、駄目だ。
完全に敵判定。
しゃあなしに、やるか。




