お姉ちゃんお兄ちゃんっ
いつものカフェに到着し、三人で着席。私の隣にセイランが座り、私の前にイシュラが座った。
すると既に友達と居たグニアがやって来て、イシュラをじーっと見て首を傾げた。
「クルル様…あの、この方は?」
「イシュラだよ。話したじゃん」
「えっ?」
「……どうも、イシュラです」
「あっ、失礼しました。グニア・マグリットです」
グニアが動揺するのも無理はない、今のイシュラは赤髪に黒い眼帯のイケメンだから。違うテーブルから見たらダブルデートに見えそうな感じだねっ。
「……ねぇクルル、ちょっとイシュラの隣に座ってみて」
「ん? なんで?」
「あっ、座ってみて下さいっ! お願いします!」
まぁ良いか。
イシュラの隣に座り直すと、グニアが私の座っていた席に座ってキラキラとした目で私とイシュラを見た。
「「……ふへっ」」
今変な笑い方したよね。
にやにやを隠しきれなくて口を手で抑えている……ねぇなんなの? 教えてよー。
「グニア」「セイラン様」
その固い握手は何さ。
ふーん、もしかしたらイケメン二人に喜んでいるのかい?
周りの女子達も私達を見て両手で口元を隠して嬉しそう。
女子率百パーセントだな……年代は初等部から中等部が主で初等部低学年は私を……高学年より上はイシュラを見ている率が高い。
「イシュラ、私に合わせてみて」
「えっ、何を? なんかみんな見てる…怖いんだけど……」
「私達は、みんなから見たら格好良いみたいなんだ。行くよ」
「えっ、ちょっと……」
とりあえずセイランに向かってウインク。
「ぐっ……いきなりしないで」
胸を抑えて苦しそうにしていたので、羨ましそうに見ていたグニアにもウインク。
「あぅっ……胸が、キューってなっています……痛いです」
「イシュラ、こんな感じ」
「こ、こう?」
あっ、眼帯だから目を閉じただけにしか見えない。
うーむ……イシュラの場合は……ちょいちょいと手招きして耳元で指示。
「「……良い」」
耳打ちしただけで嬉しそうにしちゃ駄目よ。
女子達からもため息が……これは、イシュラにモテ期が来たのか?
イシュラがセイランとグニアを見て……
「セイラン、グニア……いつもクルルと仲良くしてくれて……ありがとな」
イシュラの微笑む姿に、背景の女子達が……「「「きゃー!」」」……と黄色い歓声をあげ、セイランは私達を眩しそうに見て、グニアは両手で顔を覆って……「これやばい…イケメン兄貴とか無理…直視出来ない…」……何かぶつぶつ言っている。
「「……お兄様」」
お兄様……ほう、クルルに兄が出来たという訳か。
イシュラは微笑んでいるけれど、微妙な感情が見える。
「イシュラお兄ちゃんっ」
「……なんか嫌」
耳元で、後でお姉ちゃんになってね…と、囁くと嬉しそうに笑顔になって頷いた。
私がクルルの時はお兄ちゃん。
ルクナの時はお姉ちゃん。
逆でもありがたい。
お兄ちゃんとお姉ちゃんになってくれる……これは……かなり嬉しいかもしれない。
「イシュラ……私を捨てないでね」
「何言ってるの? それはこっちの台詞」
嬉しいから半尻くらい椅子をずらして近付こう。
それにしてもイシュラの空気を読む能力は高いね。
私みたいに男子として生きても問題なさそう。
「じゃあ本題に入ろうか。私はイシュラとエリスタに行くんだ。イシュラの目を治したいから」
「目を、ですか。お兄様は病気なのですか?」
「うん。呪いに近いものだから、エリスタに連れていって詳しく診てから治そうと思ってね」
「そうなのですね……セイラン様? どうされました?」
難しそうな顔をしてイシュラを見ている。何か思い付いた?
「いや、うちの兄さんを追い出してイシュラお兄様をと思ったんだけれど、難しいわね」
「追い出したらあの人が私の所に来そうだから嫌だよ。セイランはあれで我慢して」
「嫌よ。私もイシュラお兄様が良い」
「わっ、私もイシュラお兄様が良いですっ!」
「だめー、私のお兄ちゃんなんだから二人は元々の兄で我慢してー」
駄目だよ。イシュラは私のお兄ちゃん兼お姉ちゃんなんだから。
私のだよっ。
「クルル…なんか、変な感じだね。そんなに兄になって欲しいの?」
セイランとグニアがうんうんと頷いて、イシュラが肩を竦めた。
つれない感じが様になるねえ。
「ところでどうしてセイランと初対面だったの?」
「あぁ、私は窓から見ているだけだったから」
「院長が出ちゃ駄目って言ったの?」
「いや、王都に来たばかりの時に……色々言われて、怖くてさ。来客の時は部屋に居たんだ」
「……誰に言われたの?」
「男子達……年上だったし、もう居ない。学校か何処かに行ったみたいだけど」
「そっか……一応名前を訊いても?」
「……確か、ドーエン…かな」
ドーエン……ドーエン……何処かで聞いた事があるような。
一応覚えておくか。
セイランとグニアは城でパーティーがあるらしく、準備の為に名残惜しそうに帰っていった。
パーティーねぇ……母が教えてくれたのはノースギアの形式。作法も踊りも。ヴァン王国式も似たようなものだけれど、詳しくは知らないからセイランに教えて貰おうかな。
「イシュラ、これから帰るけれど忘れ物とか無い?」
「無い、かな」
よし、行くか。見ていた女子達にウインクをして、黄色い歓声を背にお代を払ってカフェを出ると、黒塗りの馬車が前を通った。城の方へ向かっていて、白い馬の目がキラキラしていて可愛い。
因みに魔導馬車といわれる物は馬が居ない。なのに馬車とか言っている辺り、本来の名前は馴染まなかったのだろうと思う。
そんな事を考えていたら、馬車が止まった。
うん、嫌な予感がする。
「イシュラ、行くよ」
「うん……あっ、降りてきたよ」
「お待ちになって! あなたクルルよね!?」
馬車から降りて走ってきた同世代の女子……見た事があるような、無いような。黒塗りの馬車だから、上級貴族な筈。オレイドス家とは違う公爵家とか?
じゃあ学年が一個上の女子かな?
綺麗に髪を纏めたザ・お嬢様って感じの女子だ。
「……どうするの?」
「逃げるのは得策じゃないから、なんとかやり過ごす」
「……任せるよ」
「ありがと。はい、如何しましたか?」
「呼び止めて悪いわね。あなた達は、お城で行われるパーティーに参加するのかしら?」
「いえ、しません」
「……噂で聞いたけれど、学院に通っているのよね? 王都学院に所属しているのなら参加出来るパーティーなの」
「そうでしたか。しかし、私のような身分の無い者には縁の無い話ですよ」
「本当に、平民なの? 一体何者なの?」
クルルは平民の設定だよ、一応。
学院所属と言っても貴族関係者じゃないと参加は出来ない筈。
招待状なんて無いし、そもそも行かないし……あっ、一応クルル・マクガレフだから貴族を飛び越えて国のお客様じゃん。マクガレフの探索者カードを見せ付ければ、チヤホヤされそうだねっ。
「この国で活動している一般人です」
「一般人……ね。私、あなたの事を詳しく聞きたいのよ。私と一緒に参加してくださらない?」
「それは……」
「貴方にとっても良い事しか無いと思うわ。私はコングラート家だから」
コングラート公爵家……オレイドスと双璧を成す名家か。軍を管理するラミアライ家の上の位置する貴族と軍の纏め役のような存在。クベリアさんの実家……ラミアライ家が分家だとすると、コングラート家が本家みたいな感じだったか。
「これから行く所がありまして、パーティーは難しそうです」
「あら、何処に行くの?」
「マクガレフ家です」
「……マクガレフ。なるほど、大魔導士の弟子だったのね」
「いえ、違います。魔法は母に習いました」
「それなら是非お会いしたいわ。招待状を送るから、家は何処に?」
「ふふっ、母に招待状を送ったら国民に石を投げられますよ」
「……どういう事?」
名前も知らないお嬢様に近付き、小声で……「私は死神の子です」と伝えると、目を見開いて硬直した。
その隙にイシュラに行くよと目配せし、早歩きで立ち去った。
呼び止められない所を見ると、死神を恐怖の対象と認識していたのかな。
それなら好都合。
王都で死神の子として認識されてしまえば、魔物の氾濫を対処すればするほど国に嫌がらせが出来るってもんだ。
「クルル、なんて言ったの?」
「あぁ、母の素性を明かしただけだよ」
「有名人?」
「うん、死神って呼ばれていたんだ」
「死神? なんか格好良いね」
「……格好良いって言ったの、イシュラが初めてだよ」
国民の英雄になってしまったら、国は困る筈だし。
今の内に死神は誰も殺していないと宣言出来れば、私は表舞台から身を引くけれど……
「えっ、なんか悪かった? ごめん」
「いやいや、嬉しかっただけ。格好良い、か……確かに、死神アズライナって強そうだし格好良いね」
「二つ名って憧れるなぁって思って」
「二つ名? 私は合成魔導士ってのがあるよ」
「えー良いなぁ。私も強くなれたら二つ名付くかな?」
赤髪黒眼帯のイケメンだから、赤きなんたらとかかね。
「じゃあ私が鍛えてあげるよ。魔力操作が上手くなれば魔眼の為にもなるし、遠慮しないでね。お姉ちゃん」
「……クルルにお姉ちゃんって言われると嬉しいな」
私もお姉ちゃんが出来て嬉しいよ。
でもどうするかなぁ。このままマクガレフ家に居候は図々しいというか……イシュラの眼は私が治したいから、拠点はファイアロッドの宿にしようかな。マクガレフ家は住所を借りるだけにした方が良さそうだし……まぁ、エルフィさんは気にしないし大丈夫でしょ。
「しばらくは一緒に暮らすから、私も嬉しいよ。そうそう、ちょっと耳貸して」
「ん?」
王都を出て、街道から逸れた芝生に座り、遮音結界を張りながら、耳元でこれからの説明をしよう。
だって、精霊に聞かれると困るから。
なんで困るかって……なんでだろう……なんとなく?




