泣き寝入りなんてしない。やり返すよ、ちゃんと
私の殺気を感じたのか、イシュラが私に抱き付いて離さない……
どいて、殺して……いや殺したら駄目か。こんな奴を殺したところで私の人生の損になるだけか……
「クルルっ、駄目っ、私の事は、良いから」
「私は我慢出来ない事は、我慢しない。イシュラを悪く言うなら、あの汚い口が変形するまで殴るだけ。職員さん、今からこいつを殴ります。子供の喧嘩なので見逃してくれませんか?」
「えっと、でも……」
「ははっ、こいつもしかして化け物と付き合ってんじゃね?」「はははそうか化け物にも春が来たんだなっ!」
「イシュラの悪口言うなー!」「ぼけー! かすー!」
「みんなやめてよっ!」
……証拠を残さずに消す方法を考えるか。魔石を使った魔力爆発、闇討ち、遠距離攻撃、精霊に頼む……魔物の前に放り出す、魔力病に強制的にさせる、後は……
みんな熱くなって騒がしくなってきた。
男子と女子の抗争みたいな構図になってきたな……なんか他の子が怒っていると少し冷静になれるかも。
「はははっ! 殴れるもんなら殴ってみろ! ここは国営の孤児院だ! 直ぐに騎士団が来るからお前なんか牢屋にぶち込まれるぞ!」
「だからこいつらは強気なのか。国営、か。だから何を言っても許される……訳が無いよねぇ」
「クルルっ駄目だから、駄目だから……こいつらのせいで捕まった人だっているの……だからやめて……」
やっぱり……気を抜くと、魔力弾くらいは撃ってしまいそうになる。
怒りが頂点に達しそうな状況で、イシュラが私に抱き付いて止めてくれているから……なんとか、冷静になろうなろうと心に訴えかけて……あぁ、駄目だやっぱり殴りたい。
「やっぱりイシュラ離して、こいつ殴れない」
「駄目だからっ、ほんとにっ」
「兄ちゃんっ! 来てくれたんだね!」
「何があったんだ……えっ……」
あぁ? 兄ちゃんとやらが来たのか。
黒髪に黒いローブを着た、どこかで見た事のある奴が悪ガキに連れられてやって来た。
そうか……わかったよイシュラ。
こいつらを殴ってはいけないのなら、こいつを殴れば良いんだね。
「イシュラ、こいつは殴らないから離して……初めまして、クルルと申します。このクソガキ共の親分さんで、よろしいでしょうか?」
「えっ、初めましてって……えっ、どういう、状況?」
「兄ちゃんっ、こいつを懲らしめてくれるんだろ?」
「親分さんで、よろしいでしょうか?」
「親分って……」
「兄ちゃんっ、頼むよ。約束してくれただろ?」
「……親分さんで、よろしいでしょうか?」
「……何があったんだ?」
「俺達こいつに酷い事されたんだ……お願いだよ……助けてくれよ……」
「……親分さんで、よろしいでしょうか?」
「あ、あぁ。親分、みたいなものだ──っ!」
肯定した瞬間に、殺気を当てる。
今背中に氷柱を入れられたような感覚になっているだろうね……
すまんが八つ当たりさせてくれ……友達(仮)だから手加減してあげるよ。半殺しで我慢してあげるから……
「子分の責任は親分が取るもの……そうだよね、公爵家のご長男さん」
「ぐっ、う、状況が、わからない。誰か、説明してぇ!」
「私が酷い事をしたんですよね? そこのクソガキが言っていたんじゃないですか?」
「いや……まさかクルルが相手だなんて思わなくて」
「兄ちゃんっ! ぶっ飛ばせ!」
「ほら、私をぶっ飛ばすんですよね? クソガキの言うようにやれば良いじゃないですか」
「いやだから状況が……っ!」
カサンドラの瞬きの隙に後ろに回り込んで、背中に指を付けるとカサンドラが前転して回避。
前転した時に移動して再び背後に移動。
頭に指を付ける。
「今、二回死にました。本気で来ないとクソガキ諸共撃ちますよ?」
「……俺、誰を信じたら良いかわからなくて……」
「クソな子分を信じれば良いんですよ。そして私を法で裁けば良い」
「そんな事、出来る訳ねえ」
「私は公爵家の子息とクソガキに危害を加えた者。圧倒的に不利だから簡単ですよ」
「兄ちゃんどうしたんだよ! 俺達の味方になってくれるって言ってくれたじゃないか!」
「くっ……俺は……すまねえクルル、俺は親がいなくても頑張って生きているこいつらが……悪いと思えねえ」
「「兄ちゃんっ」」
そう、私の敵になるのか。
失望したよ。
やっぱり、カサンドラとは友達になれなかったな。
殺気と魔力を混ぜて放出。
重苦しい空気に、カサンドラ含め男子達は震えて動けなくなった。
「それがあなたの優しさなら、叱る事も出来ない甘っちょろい偽りの優しさならば、私達は相容れない関係になりますね」
「ぐっぅぅ……身体が…震える……くそ……こんなに…差があるのか……」
もうなんか一気に冷めて戦う気が失せたから、無視して職員さんの所へ行く。なんだろうなぁ、男の友情? 理解出来ないねぇ。
「……職員さん、ここの子を月単位で雇うとなれば幾ら必要で、どんな手続きが必要ですか?」
「えっ、前払いで……最低日当が六千ゴルドの希望月分を王都孤児院に払って貰って……身分証とサイン、契約用紙に記入が必要です」
「お金はありますので、イシュラを先ずは三ヶ月雇いたいです」
お金を見せてクルルの身分証を提示。金色だぞー控えおろー。
お金はファイアロッドで稼いだ分を持っているからねっ。お金持ちなのさっ。
「金色……わ、わかりました」
「クルル? 雇うって……」
「私の補佐として雇おうと思ってね。日雇いよりも厚待遇だから安心して」
「……うん」
「おい待て──う……あ……」
事務室へ向かおうとするとクソガキが震える身体に鞭打って私の前に回り込もうとしていたので、殺気を当てて足を止めた。
あぁ殴りたい。
このまま拳を顔面に突き出すだけで良いのに、イシュラが駄目と言うから……やっぱり闇討ちか遠距離攻撃はしよう。
その前に脅すか……
クソガキ達を対象に黒い魔法陣を二つ展開。
「なっ……クルルっ! やめろっ!」
「ひたひたと、忍び寄る影……それに怯えて、夜を過ごすが良い……魔法合成・闇への恐怖」
魔法陣が弾け、黒い光がクソガキに掛かる。ふっふっふ、今から一ヶ月、夜中にひたひたという足音を聴きながら過ごすが良いっ! おねしょ増産魔法だぜっ!
「イシュラ、荷物を纏めておいて部屋で待っていて。手続きが終わったら直ぐに出るから」
「わ、わかった……殴っちゃ駄目だからね?」
「わかっているよ。もう興味無いから、関わるだけ時間の無駄だし」
「……信じるよ?」
イシュラが孤児院の方に小走りで行き、私の様子をカサンドラは見て何か言っていたけれど、気のせいだと思って無反応を決め込む。
さて事務室へ行こう。
殺気を放つ私に話しかける事が出来る人は居なさそうだね。
「ここに、記入をお願いします」
「はい、でもどうして私のような子供でも雇えるのですか?」
「討伐者証の金色は子供でもちゃんとした地位がありますからね。一応この孤児院も利益を取らなきゃいけませんし……私の判断ですが」
「そうですか……はい、書けました。はいこれは三ヶ月分です」
「……少々多いかと」
「口止め料込みです」
「……わかりました。雇用の継続はまたこちらにて手続き致します」
手続きは終わり。簡単だったな……なにか理由はあるんだろう。国営だから色々ありそう……予想は付くね。貴族が孤児院の子を雇えば世間体が良いから、だと思う。
職員さんにお礼を言って、イシュラの部屋へ向かう。チラリと広場でカサンドラが男子達と話しているのが見えた。おや? 女子達が居ない。
──コンコン。
「イシュラー、行くよー」
「う、うん……」
「きゅるるー!」「イシュラ連れて行っちゃうの?」「寂しいな……」
幼女達がお出迎え……他の女子も居る。
どうやらイシュラがしばらく居なくなるから話しをしに来たのだろう。
流石に幼女達は連れて行けないな……エリスタは危険だし。
あっ! イシュラの髪型とリップが元に戻っている! これじゃイケメンが女子達に囲まれている絵じゃないかっ。まぁこれはこれで、良いね。
「クルル、あの人と知り合いだったの?」
「カサンドラさん? 友達でもなんでも無いけれど、同じ学院だからね。どんな様子だったかわかる人居る?」
「事情を聞き回っていましたが、私達はしゃべりたく無いので逃げて来ちゃいました」
「だから男子達だけだったんだね。みんな、寂しいと思うけれど私はイシュラの目を治したいから、しばらく私の元で過ごす事になった」
「イシュラもっと綺麗になるー」「きゅるるぅ……」
うるうるしている幼女を撫でて、少しだけ女子達と話した。イシュラの目を治したいと言ったら凄く好意的で……うん、そこの女子よ、私にポーッとしちゃ駄目だぞっ。
この件は聞かれても答えないようにするらしい。公爵家の子息と関わると良い事は無いという判断……カサンドラ人望無いな。
「カサンドラさん以外に貴族とか……王族とか来るの?」
「妹のセイラン様は、よく来てくれたけど……さっきの奴が言い寄ってから全然来なくなっちゃった」
「あぁ…なるほどね」
「きゅるるっ! アルセイア様はよく来てくれるのっ! 良い匂いなのっ!」
「そうなんだぁ……まぁ国の管理だから来るか」
アルセイアも来るのかぁ。
それならイシュラとエリスタに行く方が得策か。
……いや避けている訳では無いのだよ。
なんかさ……振られた後だから会ったら胸が痛すぎて耐えられないから……避けるというより、逃げるだねっ。私はメンタル弱々なのさっ。




