素顔の扱いには慎重にならないといけないのだけれど、ね
「これは色付きリップと言って、最近王都に入って来たばかりの品ですっ」
「口紅とは違うの?」
「はいっ、唇の乾燥を防ぐ物に色が付いているので少し違います。これなら子供でも唇が荒れずに色を乗せる事が出来るのですっ」
「へぇー、ねぇねぇやり方教えて?」
「喜んでっ!」
ご機嫌なグニアに色付きリップを塗って貰った……淡く色が変わるから自然な感じ。ほうほう、子供には濃ゆい化粧は似合わないから淡い色の化粧が流行っているのね。
なんか他にもジャラジャラ出て来た……すげえな。
「これは何?」
「これはまつ毛をクルンとする道具ですっ。やってみますねっ」
「えっ、痛い……まぶたひっくり返されているみたい……」
「ルクナ様……綺麗な瞳ですね……青い瞳に吸い込まれそうです……」
「お母さん譲りの眼だから好きなんだ」
「……一度、お会いしてみたいです」
「うーん、予定が合えばね」
「あら、アズさん忙しいの?」
「うん、忙しいみたい」
私が発案したとは言え、みんな忙しそうで寂しいのよ。
母は実家を拠点に活動しているから尚更。
その後グニアに色々道具を貰った。
予備まで貰ってしまって……これからはお洒落に気を付けようかな。
「ルクナ、明日も来る?」
「うん、グニアに魔法を教えてあげたいんだ。グニア、明日も来てね」
「はいっ!」
ばいばーい。また明日ー。
楽しかったなぁ……
……ん?
帰り道、ぼーっと王都の大通りを歩いていると少し変な魔力を感じた。
自分の魔力を頑張って抑えているようだけれど、上手くいかなくて困っている感じ。
悪い魔力ではないし……ちょっと気になるな。方向は貴族街だけれど……クルルじゃなきゃ騒がれないから見に行ってみよう。
貴族街……領地を持つ貴族の王都での拠点みたいなものかな。だから豪華な家が建ち並んでいて……もちろんエリスタ家の拠点は無いよ。
少し歩くと大きな家に到着。何家かは解らない……解析ー……うん、解らないね。ぐるっと回ってみると庭で赤髪の男子っぽい人がうずくまって下を見ていた。あの子だなぁ……男子っぽいけれど、女子にも見える。
「あのー、大丈夫ですか?」
「……」
チラリと私を見て、また下を向いた。
少しだけ顔が見えたけれど……顔の右側に包帯のようなものが巻かれていたな。焼けただれたような部分が見えたけれど、訳ありっぽいような……
「痛いなら、治すよ?」
「……構わないで」
「そう言われても、魔力を抑えきれないのを見ていると気になっちゃうし、治させて欲しいな。あっ、私はルナード、一応貴族の端くれだから怪しい者じゃないよっ」
「……」
柵越しに話し掛けると、ゆっくりと立ち上がって私の所に来てくれた。年上、かな。十歳よりは上に見えそうな、セリアの一個上くらいか同じくらいか。髪で顔を隠す所はリリに似ている……男子に見えるけれど女子だな。私も男子の振りをしているから解るよ。
服装は作業着みたいな、庭師か清掃系の服……
「じゃあ治すから、私の手に触れて」
「……」
「お代なんて取らないから、早く」
「私…汚いから」
汚い? どこが?
仕事で少し手が汚れているくらい気にしないし、転んだら魔物のウンコが手に付くなんてよくあるから。
「ほら、早く。サボっていると思われちゃうから」
サボるの言葉で少しビクッとし、私の手に触れたのでガシッと握って魔力を通す。
「……暖かい」
これは、やっぱり魔眼持ちだ。それに私よりもかなり強い魔眼。
焼けただれた右目が魔眼だから、上手く魔力が放出されずに身体に負担が大きいのか。
彼女の魔力を外に出して、右目の辺りに光魔法の回復を使ってみた。少し、良くなったかな。
「これでしばらくは大丈夫。じゃあまたねっ」
「まっ、待って。あの、ありがとう……凄く楽になった」
「いえいえ。あっ、お名前訊いても良い?」
「イシュラ。本当に、ありがとう。治療院に行くの我慢しててさ……辛かった」
「それなら、また辛そうだったらここに来るから」
「あっ、私…ここで働いている訳じゃないの。日雇いだから何処に派遣されるか解らなくて……」
「それなら……今日は何時までお仕事?」
「多分…もう少しで終わるかな……」
「待っているから……うげっ!」
遠くに見えるのは一組の女子達じゃあないですか。見たことあるから間違い無い。
チラリと見えただけだから、まだ気が付いていない……でもどうする……近付いて来ているぞ。
ルナードだと解ったら大変だ。眼鏡を外すか? でもイシュラに素顔が……いや一組女子にルナードが居ると解る方が面倒だ。
少しイシュラを盾にして顔が見えないようにしていると、イシュラが少し振り返って微妙な顔をしていた。
「……知り合い?」
「……うん、彼女達に凄く嫌われているんだ。だから討伐者ギルドに来てっ。約束だよっ」
「わかった……えっ……」
「ごめん、なんとか察して」
人差し指を立てて秘密だよーと言いながら眼鏡を外す。
ルナードって言わないでね、お願いだから。
「清掃の方、どうしたの? 終わったのかしら?」
眼鏡を取った所で、先頭の一組女子がイシュラに話し掛けた。という事は一組女子の家かしら。因みに私はまだイシュラを盾にしている。ごめんよ。
「い、いえ……少し体調が悪い所をこの方に助けて貰いました」
「ふぅん、体調が悪いのに来たの? 困るわ……ね……クルル様っ!」
目が合った。どうもクルルです、素顔で失礼します。
イシュラは空気を読んでくれている……後でお礼に飴ちゃんをあげよう。
とりあえずこのまま立ち去るのはまずいか、イシュラに悪いし。
でも柵越しって気が楽だよねー、いつでも逃げられるから。
後ろの一組女子も私の顔を見て硬直していた。まぁこの前授業にお邪魔したから覚えているか。
「すみません、この方がうずくまっていまして……悪く言わないで貰えると嬉しいです」
「い、いえっ! 悪く言うだなんてとんでもないっ! しっかり働いて戴けて満足ですわっ! おほほほほっ」
こんな口調だっけ? いつも私を汚物オブ汚物を見るみたいな目で見る癖に。
一歩後ろに下がる。帰るよアピールをしておかないと。
「お騒がせ致しました。では……」
「お待ちになって! 今、みんなでお話をしていましたの。良かったら、来てくださらない?」
「あなた様の家に入ったとなれば、私の親が手土産に悩んでしまいます。お心遣いありがとうございます」
「そんなっ、手土産だなんて考えなくてよろしいの。みんなも来て欲しいわよね?」
うんうんと、他の女子も頷いているけれど、嫌だよ。精神力がもたんし。
微笑みながらまた一歩下がり、一礼して背を向けて早歩き。
呼び止める声がしたけれど、振り返ると面倒だから逃げよう。直ぐに角を曲がって、貴族街を抜けた。
はぁ、危なかった。
人目の付かない所で眼鏡を掛けて、討伐者ギルドに到着。思わず討伐者ギルドに来てって言った事を後悔しつつテーブルに座って、揚げた芋を注文した。セリアは来ないだろうな……会ったら会ったで少し気まずいけれど。




