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嘘吐きエリスタの最後の嘘  作者: はぎま
王都学院編
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絶対大丈夫な特訓……

 

 誘拐されてからは、しばらく家に引き篭もった。外に出ようとすると身体が震えて、怖かったから。

 それでも、母が一緒の時は頑張って出られた。父と一緒だと無理だったから、まぁ…落ち込んでいたな。

 いつも母にくっ付いて、離れたくなかった。


「ルクナ、勇気が出る魔法を教えてあげる」

「魔法?」


「そう。落ち込んだ時、悩んだ時、辛い時、一歩踏み出せる魔法よ」

「へぇー、教えて教えて」


「絶対大丈夫。そう言って、お腹の底から力を出すの」

「うん? 絶対、大丈夫!」


 お腹の下に力を溜めて絶対大丈夫と言うと、ポンっと少ない魔力のようなものが放出され、気分が良くなった気がした。


「あら……凄いわね。もう出来ちゃった」

「んー? 出来たの?」


「えぇ、ルクナはお母さんに似て魔法の才能があるのね」

「じゃあっ、じゃあっ! 魔法教えて?」


「うーん、どうしようかな……少し早いけれど、お父さんに強くなりたいって相談してみる?」

「うんっ! あっ、お父さーん! 私、強くなりたいっ!」



 これが、きっかけだった。

 次の日から……地獄のような特訓の日々が、始まってしまった。

 辛かったけれど、目標はあった。

 目指す強さは、爺ちゃんだ。

 私がいつか、証明してやるんだ。爺ちゃんの凄さを。



 ♀×♀×♀×♀×♀



 父と母の特訓……今思えば、特訓の範囲から逸脱していたよ。

 特訓は、エリスタの者は誰も近寄らない魔の森という場所にて行われていた。

 怖い魔物が居るらしいけれど、私はここが心地よくて好きだった。

 近くに爺ちゃんの墓があるせいかな。


「ルクナ! 魔力の制御が落ちているわよ!」

「もぅ! 限界!」


「限界が来ても!」

「絶対、大丈夫!」


 母の特訓は魔力制御と魔力操作が主だった。

 魔法を覚える前に、基礎を重点的にやることで威力が全然違うとの事。無駄が多いと魔力が減ってしまうので、魔力が直ぐに尽きる。尽きた時、合言葉みたいにお腹に力を入れて絶対大丈夫と唱えると、何故か大丈夫で……絶対大丈夫さえ無ければお昼からゴロゴロして過ごせたのに。と、絶対大丈夫が嫌になっていた。


「ルクナ、踏み込みが甘い。そんなんじゃ父さんは斬れないぞ」

「はぁ、はぁ、休憩、したい」


「ルクナには、休憩よりもあれがあるじゃないか」

「絶対、大丈夫!」


 父の特訓は実戦形式。ただひたすらに戦う。

 武器はその時の気分に合わせて何種類も置いてあり、長剣、短剣、大剣、弓、槍、斧、体術、鞭、槌、刀、投擲などなど様々……斧とか持てなくても、絶対大丈夫と唱えると、何故か持てるという……絶対大丈夫さえ無ければ家で編み物やお絵描きをして過ごせたのに。と、絶対大丈夫を憎み始めていた。


「ルクナ! 良い感じよ!」

「……つらい」


「辛い時は!」

「絶対、絶対……世の中には、絶対なんて存在しない」


「あなたっ! ルクナが悟りを開いたわっ!」

「なんだって! もう次のステージに移行か!」

「……」


「流石は私達の可愛いルクナ!」

「父さんと母さんは鼻が高いぞっ! はっはっは!」

「……」


 そんなこんなで五歳から七歳まで特訓に明け暮れ、時には母と迷宮の核を取りに行ったり……父と魔物を狩りに行ったり……結果、気が付いたら……上位の魔物を倒せるようになっていた。

 この頃には、外に出るのが怖いなんて全く思わなかったから……感謝すべきなのだろう。いや、お裁縫とか料理とか習いたかったよ……


「ルクナ、よくやった。これで一人前……自分の身は自分で守れるな」

「お父さん……私、頑張ったよ……」


「そうだ……一つ、言い忘れていた事があった」

「……なに? 大事な事?」


「ルクナは明日から、ルナードとして王都の学院に通うんだ」

「ほえー、学院かぁ……ん? 明日?」


 明日から? 魔の森から王都なんて……普通は間に合わない。

 この時の私は、その普通の感覚がおかしかったと思う。


「明日。十時に入学式だから、五時に起きれば……いや、四時くらいに起きれば大丈夫だ!」

「四時ね、はいはい……って言うとでも思ったかぁぁぁ!」


「ぐばぁ!」

 まぁ普通にキレたよ。

 早く言えし。

「ルクナ、強くなったわね…お母さん嬉しい……ん? 明日?」


 放物線を描く父を見て、嬉しそうに泣く母。

 四時って、もしかして走るの? なんていう不安は的中。

 父と母はどこまで私を鍛えたいんだと……きっと、心配が無くなるまでは鍛えたいと思うんだろうけれど。


 思った通りというか…学院に通うから特訓が無くなると思ったけれど、そんな甘いもんじゃ無かった。


「爺ちゃん、明日から……学院だって、お父さん、酷いよね……」


 金ピカな爺ちゃんの墓の前で、父の愚痴を言うと、爺ちゃんが笑ったような気がした。



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