あぁ…どうしよう……
セイランを学院まで送り、一応討伐者ギルドに行ってみようかと思った時……見た事のある人、というか精霊を発見した。
闇の精霊王チムニーちゃん。ちゃんって言うくらいだから可愛い、白髪に少し青い肌に青い目、黒いドレスを着て黒い翼を持つ悪魔のような格好の幼女。そう、精霊王の癖に幼女だ。
黒い翼をぱたぱたさせて王都をゆっくりと飛んでいた。
多分見えるのはなぜか私だけ……だと思う。
「チム……」
待てよ、声を掛けるのは後だ。何をしているのか気になる。エルフィさんが王都で何をやらかすのか、確認しておかないと。
ふよふよと飛んで、貴族街から出て……路地に入った。こそこそ……あっ、止まって物陰から素敵な一軒家を眺めている。
物陰から眺めるチムニーちゃんの後ろの物陰から私が覗いている構図……見るからに怪しいよね。少しでも目立たないように呪いの眼鏡を装着しておこう。
少し眺めていると……ん? 誰か出てきた……おっ?
「また、会えるよね?」
「……来週、な」
「絶対、だよ? 約束……」
「……あぁ」
……なんだ、この不安と困惑と焦燥感をごった煮した感覚は。
普通の人から見たら、仲睦まじいカップル。
私から見たら、父とクベリアさんが……
なっ!
……ちゅーした。ちゅーしたぞ。えっ、どういう事? 飲み会ってオレイドス家だよね? 場所変えたって事かな……いやいやいや、だとしてもよ、ちゅーするか?
『ん? だぁれ?』
……あぶねぇ、チムニーちゃんが振り返る前に逃げ出せた。
普通……幼馴染みと言えど、去り際に口と口でちゅーなんて、しないよな。
まだ、そういう事は解らないけれど、多分、浮気って奴だ……
一応この国は重婚は出来る……出来るけれど、本妻が了承した場合のみだ。色街の女性ぐらいは大丈夫らしいけれど、隠れてだなんて……駄目な筈。母は重婚を許さないタイプだ……
どうしよう、どうしよう、私はどうしたら良いんだ。
大通りまで走って、チムニーちゃんは追って来ていない……あそこで目が合ったら、何をされるか解らないし……はぁ……
気が付いたら、討伐者ギルドに来ていた。
今日は、会えないと思うけれど……
……あっ! セリアっ! 来ていたんだっ!
「セリアっ!」
「えっ? あっ、ル、ナード……」
「あのねっ、私の悩みを聞いて欲しいんだっ。今、時間ある?」
「え、えぇ……あるわよ。私も、話があってね」
「そっか、良かったぁ……はぁ、怖かったぁ……」
「何か、あったの?」
「そうなんだ。えっと……ここじゃあれだから、いつもの場所に行こうかっ」
「……うん」
セリアと王都を出て、いつもの林へと向かう。
……今日、元気無いな。昨日の事かな……いや、まだ考えないようにしよう。それに、もう一人の尾行さんは……いつもより近いというかバレバレだ。
セリアは何か考えているみたいだけれど、私は私で頭の中を整理しなければならない。
セイランに相談したら父親のブロスサムさんに伝わってしまう……エルリンちゃんは相談にならなさそう。母に言うなんて論外だし……やっぱりセリアにしか相談出来ないな。昨日の事は置いておいて、だね。
近くに精霊は……居るかも……こっそり防音の結界は張ろう。
「セリア、昨日ね……お父さんの親友に会ったんだ。その時にね、お父さんとお酒でも飲んで一緒に過ごして欲しいって言ったんだ。ほらっ、私が悪口の机をお父さんに見せて落ち込んじゃってさ……元気付けようと思ったんだよ」
「そう、なのね。それで、何かあったの?」
「う、うん。その後ね……もう一人お父さんの旧友を誘ったんだ……女の人でね、私も仲良かったし。それでね……さっきね、見ちゃったの……その女の人と、お父さんが、その人の家から出てくるの……」
「えっ……それって……まさか……で、でもそこで飲み会があっただけかも、しれないでしょ?」
「だと、良いんだけれど……家の前でね、ちゅーしていたんだ」
「うっ……ちゅ、ちゅー……」
「私、そういうのよく解らないけれど、なんか、凄く、不安で、誰にも相談出来ないし、どうしようどうしようって思って、セリアが居て、凄く、安心した」
「ルナード……」
「私は、どうしたら良いかな……お父さんに聞いた方が良いかな? お母さんに伝えた方が良いかな?」
「それ、は……まだ、様子を見た方が、良い、かな……たまたま、だったかも、しれないし……家に帰って、いつも通りの方が……」
いつも通り……出来るかな……父の目を見るのが、怖い。
父と今まで通りに、触れあえる自信が無い。
むりだよぉぉぉ!
あっ……私が、浮気のきっかけを作ってしまったのなら、私の、せい……
「私が、余計な事、したから、かな……何も、しなきゃ、良かったかな……」
「ルナードは悪くないっ! 悪いのは……くっ、ルナード……私が、居るから……私が、全部話を聞くから、自分を責めないで……」
「せりあぁ……胸が、痛いんだ。どんな悪口でも、大丈夫だったのに……お母さんが悲しむ事を考えたら……辛いんだ」
「大丈夫。私が、居るから……おいで」
セリアに抱き付いて、少し泣いた……セリアは私の頭を撫で、大丈夫だよ…と、声を掛けてくれた。
どこかで、嗅いだ事のある香り……この香りは……いや、今、言う事じゃない。
……このまま、ずっとこうしていたかったけれど、風の精霊が来た……防音の結界がツンツンされている。
セリアから離れ、深く、頭を下げた。
「ありがとう…このまま家に帰っていたら独りで抱え込むところだった。セリアが居てくれて、本当に良かった……ごめんねっ、私ばかりっ。セリアも話があったんでしょ?」
「あっ、いやぁ、私の話は、また今度で良いの」
「なんでも、聞くよ? セリアだって、何か、悩んでいる事…あるでしょ?」
「うぅん、まぁ……」
「私は、セリアの助けになりたいんだ。いつも、助けられてばかりだから…だから、どんな事だってするし、行きたい所があったら何処にでも…迷宮でも、世界の果てだって君の為なら連れていける」
「私の方が、助けられている……私は……卑怯だ。ルナードに、嫌われたくないから、自分の事ばかり……」
セリアが泣きそうだ……今度は、私が抱き締めよう……嫌がらないから、少し強く。
お互いに、悩みを持つ者同士……きっと、セリアの方が重い悩みなのだろうな……
……セリア、ごめんね、少し君に踏み込むよ。




