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嘘吐きエリスタの最後の嘘  作者: はぎま
王都学院編
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王都の夜は更けていく



ルクナ達が夕食を食べている頃、王都ではルクナの父リードがオレイドス家の前に居た。門番にリードが来たと伝え、待っている間緊張しながら空を見上げていた。


「……変わらない、な」


十数年ぶり、あの法律が出来てから来ていない。

最後に来た時と変わらない大きな屋敷に、少し童心に返った感覚がした。


「……リード、待っていたぞ」

「……サム、久しぶりだな」


お互いに名前を呼び合い、その場で二人同時に頭を下げた。

「「すまなかった!」」

頭を下げ、同じ想いをしていた事にハッと気が付き…二人は抱き合った。

「俺、お前に酷い事言っちまった……ごめんな」

「いや、もっと早く伝えられていたらって……後悔していた。すまない」

二人の遺恨は時間が解決したのかは定かではないが、自分達の子供が仲良くしているのに自分達は仲直り出来ないなんて…と、父親としてのプライドもあったのかも知れない。


「あら、こんな所で抱き合うなんて妬けるわねぇ」

「えっ? クベリア? なんで……」

「リード、知らなかったのか?」


「仲直りの瞬間を見ておこうと思って、ね。どうせリードは何も持たずに来たんでしょ? 代わりにほらっ」

「ははは、なんか悪いな…」


クベリアが酒等の土産をリードに渡し、三人で笑い合いながら屋敷の中へと入った。

そして、ブロスサムの部屋にて宴会の準備を始める。


「こうやって三人で集まるのって、何年振りだ?」

「さぁね。人生の半分は会っていない事は確かね」

「また、こうして集まれるのをずっと夢見ていたよ」


「うちの子に感謝だなぁ……あっ、サムにはうちの子について言っておく事があるんだ」

「合成魔導士クルル、だろ? 有名だぞ」


「いや、それもあるんだが……ルナード・エリスタってのは仮の名前で、本当はルクナっていうんだ」

「ルクナ? なんでそんな回りくどい事を?」


「事情があってな。それは言えないが、男として生きて貰っている」

「……えっ? 男として? じゃあ……」

「ルクナちゃん可愛いわよねぇ。セイランちゃんと並んだらキュンキュンしちゃうもの」


ブロスサムが、昼間に会った少年…いや、少女の事を思い出す。

あまりにも、男としての対応が完成されていた。それだけの理由があるのか、とも思ったが流石に深入りするのは控えた。

戸籍の詐称は、法に触れるのだから。


「まぁ俺が平民になったら、言うよ。色々あってな」

「そうか…まぁ、気長に待つよ」

「私にも、教えてね。学院長は知っていそうだけれど、教えてくれないのよ」


「学院長は妖精の国の有力者だからなぁ。まぁ解るか。とまぁルクナの話はまた後でという事で……乾杯するか」


三人でグラスを持ち、チンッと合わせて乾杯の合図をし、それぞれのペースで飲み始めた。


「エリスタが無くなるなんて、国としては嬉しい報せなんだろうなぁって思うんだが、実際どうなの?」

「ブルース家がエリスタの活用計画を沢山書面にして配っているから、計画通りに行けば国としては利益になるし、嬉しい報せなんじゃないか? 計画通りに行けば」

「まぁ、そうよねぇ。計画通りに行けば、ね」


観光業や農業等の活用法があるらしいが、あくまでも計画段階。

しかしエリスタには、大きな問題がある。


「計画ねぇ。毎月二回あるパレードを討伐者ギルドに丸投げしたら、計画通りに行くんじゃないか?」

「討伐者ギルドを敵に回すという事か……荒れるな」

「荒れるわねぇ。ブルース家はどうなるかしら」


「さぁな。俺は平民になるからしーらね」

「そんな事を言って、またふらっと魔物を倒すんだろ?」


「いや、俺は国を出る」

「「なっ……」」


「だから、何かあったら頼む。信頼出来るのはお前達だけだ……」

「「……」」


頭を下げたリードが、ニカッと笑いながら頭を上げ、酒を一気に飲み干した。


「よーし飲むぞっ! サムの高い酒全部開けてやるっ!」

「ちょっ、まじやめろっ! それは駄目だっ! うおいリードぉぉぉぉ!」

「……ふふっ、やっぱり、変わらないわね」


こうして、久し振りの出会いは終わり……


「ぅぁぁ、もぅ、飲めなぃ……りーどぉぉ……てめえころす」

「あーあ、サムのやつ酒弱いなぁ」

「ふふふ、そうねぇ。私も久し振りで結構酔っちゃったみたい。ごめん、家まで送ってくれる?」


「あぁ良いぞ。じゃあ行くか。サム、またな」

「おおぅ、またなぁぁ、次はぁぁ、来週に来やがれぇ」

「じゃあ来週また高いお酒を奢ってもらいましょ?」


ブロスサムが水を飲みながら、明日は早いから帰れと手を振り、リードとクベリアも手を振りオレイドス家を後にした。

クベリアの家は貴族街から出て直ぐ……夜の街を二人で並んで歩きながら、思い出話に華を咲かせていた。


「サムったら嬉しそうだったわねー、顔を合わせる時はいつも難しい顔してさ……」

「あぁ、なんか謝ったら全部洗い流されたっていうか、なんで今まで会わなかったんだろうって後悔しちまった」


「意地っ張りなんだから。私なんか理由も知らずに置いてけぼりよ? 酷いと思わない?」

「いやぁごめん。なんか、若かっただけだから」


「何よそれ。まぁ、良いわ。こうしてみんなで会えるなんて思わなかったから……ルクナちゃんには感謝しかない」

「自慢の娘だからなっ」


「その自慢の娘を男として生きさせて、どういうつもりかしらね」

「うぐっ……なんていうか、返す言葉も無い……」


「それで? あの子は将来どうなるの? あの魔法は、異常よ……普通じゃない」

「……まぁ、だろうな」


ルクナの話題になると、リードの歯切れが悪くなった。それに気が付かないクベリアではなく、教えなさいというようにリードの腕に胸を当てて睨み付けた。


「いくらなんでも強過ぎる。あんな小さな身体で無茶な訓練をしていたら、早く死ぬわよ」

「……あいつは、親父に憧れていた。だから親父に追い付くまでは、止まらない……恐らく、あと数年で親父を抜く……ははは、馬鹿だよな。俺、見届けたいって思っているんだ」


「はぁ……大馬鹿ね。あっ、ここよ。とりあえず入って」

「あっ、いやここまで来れば……」


「何言っているのよ。私とあなたの仲でしょ? お茶くらい出させなさい」

「……わかったよ」


貴族街を出た先の住宅街にある一軒家に案内され、リードはリビングのソファーに座り、お茶を淹れるクベリアの後ろ姿を眺めていた。


「良い家でしょ? 前の持ち主は田舎に行くからって譲り受けたのよ」

「そう、だなぁ。でも一人暮らしだと広くないか?」


「まぁね。独り者の特権の贅沢、かしらね。どうぞ」

「ありがとう。この先、結婚とかはしないのか?」


「しないわ。別に旦那が欲しい訳じゃないし、好きな事も出来るし、お金もある……あっ、でも欲しいものはあるのよ」

「欲しいもの? なんだ……っ! ちょっ、クベリアっ!」


クベリアがソファーに座るリードの膝の上に座り、顔を至近距離まで近付けた。

当然、リードは動揺し…ソファーから離れようと仰け反るが、クベリアがもたれかかって離さない。


「欲しいもの、当てたら離してあげる」

「飲み過ぎだぞっ、何考えてんだっ」


「当ててよ。あと、昔みたいにリアって呼んで」

「……そんなの、わかんねぇよ。今まで一緒に居た訳でもねえのに……」


「ふぅん、わからないなら離さない。でも……リアって呼んでくれたら教えてあげるわ」

「……わかったよ、リア」


クベリアが妖しく笑いながら、仰け反るリードに抱き付き……


「欲しいものは……子供よ」

「……なに、する気だ」


「ルクナちゃんが、私をお母さんみたいって、言ったの。嬉しかった……でも、もし、私がリードと結ばれていたら、ルクナちゃんの母親は私だったかも…って思ったら、なんか、悔しくて……」

「り、リア? だからと言ってだな……」


「だからね、私、思ったの。あなたの子供が欲しい…って」

「やっ、やめろっ」


「身体は……正直なのになぁ……ふふふ」

「だっ、駄目だっ…んぅぅっ」


クベリアがリードの唇を奪い……夜が更けていく。



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