ナニをしていたのだろう
零組に入ると、幼女が私の寝ていたソファーでもぞもぞしていた。
じー……
「……ん……んぅ」
「……ステラちゃん?」
「──ぬわぁぁぁぁぁ!」
「わぁぁぁぁぁぁ!」
うおおいっ! ビックリするだろーどうしたんだよー。
何していたのさ。
顔を真っ赤にして学院長室に逃げて行った。
「うえぇぇぇん! 見られたぁぁぁ!」
扉の向こうから泣いている声が聞こえる……もぞもぞしていただけじゃん。なにか恥ずかしい事でもあったのか?
「ステラちゃん、どうしたんですか? 変な夢でも見たんですか?」
「うえぇっ、うえぇっ……だって、見たんじゃろ?」
「もぞもぞして寝ていただけ、ですよね?」
「……本当に、見ていないのかえ?」
「寝ているのだけ、ですが……」
「……ほんと?」
ガチャリと扉が開き、泣き腫らした顔の幼女が恐る恐る私の顔を覗き込んできたので、可愛いから抱っこしてソファーに座る。
「怖い夢でも、見たんですか?」
「うぅ、まぁ、そうなんじゃ。慰めてくれの」
「良いですよ。ステラちゃん可愛いですから」
「じゃあ、じゃあ……ちゅーしての」
「それはクベリアさんに怒られますよ」
「妖精の国ではな、友好の証としてちゅーをするんじゃ」
「あっそうなんですね。それなら大人のステラちゃんにチューしてもらいたいです」
「えっ、良いのかえっ」
ポンっと大人のステラちゃんになった。白い髪に白い肌、紅目がウルウルしている大人のお姉さん……流石は妖精というべきか、大人でも可愛い。
私がソファーに寝て、ステラちゃんの顔がだんだん近付いて……
──コンコン。
「学院長居ます……か……何しとんじゃー!」
「く、クベリア……ち、違うんじゃ!」
クベリアさんが凄い形相でステラちゃんの胸ぐらを掴み、めっちゃ怒っている。
「何が違うだこのロリババア! まだこの子は八歳だぞ!」
「だって、チューして良いって……」
「良いって言われたからするのか? あぁ?」
「うっ……うぅぅ……だって、だって、羨ましかったんだもん、セイランがチューしているの羨ましかったんだもん。わっちもチューしたいねん!」
「我慢しろや大人だろが、性教育もまだ不十分の歳だろが」
「うぅ……うえぇっ……ごめんなさぁい……」
「謝る相手が違うっ!」
「ひぅっ! ルクナぁ……許しての……どうしてもちゅーしたくて嘘付いてもうたんじゃぁ……ごめんなさぃぃ……」
「あっ、まぁ、だいじょうぶ、です、よ」
怖い、怖いよ。
私も完全にビビっている。
口調が完全にヤンキーだ、クベリアさんヤンキーだ。怖い。
プルプルしているステラちゃんに抱き付き、一緒にプルプル……
「あっ……ごめんなさい、つい、カッとなっちゃって……学院長、しっかりして下さいね。最近たるんでいますよ」
「くべりあぁ……見捨てないでぇぇ……」
「見捨てませんよ。ルクナちゃん……も、ごめんね」
「は、はい……クベリアさんって激しい、んですね」
「いやぁ、恥ずかしい限りだわ。忘れて、ね?」
「忘れるなんてとんでもないっ。私の為に怒ってくれたんですよね? ありがとうございますっ」
「ははは……まぁね。リードには言わないでね」
「言いませんよ。あっ、そうだ。今日の夜父がオレイドス家でブロスサムさんとお酒を飲む予定なんですよ。クベリアさんもどうですか?」
まぁ良い年齢だし、同窓会的な感じでどうでしょう。
昔話で盛り上がる事間違い無しだと思うけれど……
「どういう風の吹き回しかしら、あの二人が? 仲直りしたの?」
「いえ、これからです。折角なんでどうですか? 父にはクベリアさんが行く事教えませんし」
「んー……そうね。じゃあ、お言葉に甘えようかしら」
へへへっ、これで仲が元通りになれば嬉しいかな。
みんな結婚しているから、大人の会話になりそう……家の子がって……あれ? クベリアさんって結婚していたよね?
「クベリアさんってラミアライ侯爵家ですか?」
「えぇ、そうよ。私に家の力は無いからただの親戚ねー」
「……旦那さんってどんな方……ですか?」
「あぁ、彼は婚約中に亡くなっちゃってね。気が付いたら三十目前で行き遅れよ」
「酒びたりの独身貴族じゃなー……あっすまんの……睨まんでくれの……ごめんなちゃい」
「そう、だったんですね。彼氏は?」
「彼氏が居た時期もあったけれど、君は一人でも生きていけるって言われて振られるのよ……はぁ」
「……クベリアさん、モテそうですけれど……」
すぐに結婚出来そうではあるけれど、中々難しいのかね?
確かに、三十なら行き遅れか……貴族からの貰い手は無さそう……かと言って王都学院の副学院長なんて一般市民から見たら一歩引いてしまうし……詰んでいそうな雰囲気。
「モテるわよ。おじさんにね」
「……ですよね」
「別に良いのよ。結婚が全てでは無いし、気が楽よ」
「生き方は多種多様ですよねぇ」
確かに、気が楽なのだろう。
長男でも無いから家の事を気にしなくて良いし、遊び歩いても怒られないし……ほんのちょっとだけ憧れるな。
――コンコンコン。
「私、セイラン。入って良い、かな?」
「あぁどうぞー」
「あっ、学院長達もいらしていたんですね」
「仕事が多くてのっ。これからお泊まり……羨ましいのう……」
「……学院長?」
「なっ、なんでも無いのじゃ……ほれっ、クベリア仕事の話じゃろ? 行くぞえ」
「はいはい」
ステラちゃんがポンっと幼女になり、クベリアさんに首根っこを掴まれて去っていった。
……あれじゃどっちが学院長かわかんねえな。
「……ルクナ、なにかあった?」
「うん、ステラちゃんがクベリアさんに怒られていただけだから気にしないで。あの後どんな空気だった?」
「兄さんが頑張って話していたわ。私は途中退席したの、マクガレフ家に泊まるって言ってやったら羨ましがっていたわ……ふふふ」
「悪い顔しているね」
「えぇ、悪い女よ。クルルとご近所さんだから、クルルもお泊まり会に参加するんだって言ってやったわ!」
「まぁ、なんか楽しそうで良かったよ。じゃあ、行こうか」
にやにやして、嬉しそうだね。
それじゃあセイランさんをエリスタにご案内ー。




