うーん…悩みの多いお年頃だ
零組の教室で、さっきセリアに言った事をソファーに寝そべりながら考えていた。
言うタイミングが合っていたのだろうか、言わない方が良かったのか、なんて、ぐるぐるぐるぐる頭を回る。
セイランが入ってきて、ソファーに寝そべる私のお腹の近くに座った。
「はぁ……」
「……どうしたの?」
「さっき、友達にさぁ……はぁ……」
「もぅ、どうしたのよ」
私の頭を撫で、心配そうに顔を覗き込んだセイランのほっぺをツンツン……
「セイラン、私の悩みを聞いておくれ」
「もちろん良いわよっ」
嬉しそうにしないでおくれ。
そりゃ好きな人に悩みを聞いてなんて言われたら嬉しいけれどさ。
「ルナードには、一人だけ友達がいるんだ」
「あら、私は違うの?」
「クルルとは関係無いルナードだけの友達って事だよ。お互いに、素顔と本名を知らないんだ」
「素顔と本名? 本名ならわからなくも無いけれど……もしかして相手も同じ眼鏡を?」
「眼鏡じゃないけれど、似た魔導具だね。お互いに顔も知らないのに、妙に気が合ってさ…毎週会っていたんだ」
「前に言っていたわね。討伐者ギルドの友達……喧嘩したの?」
「喧嘩じゃないんだ。話の流れで、クルルの話題になってさ……遠回しにクルルはもう一人の自分だと言った」
「……そう、それで、なんて言われたの?」
「……何も。私が、君ももう一人の自分が居るでしょ? って言ったから」
「……それで、この関係が終わるかもと思っているの?」
セイランさん、君は心が読めるのかい?
察しが良すぎて怖いわよ。
うん、と頷くと少し呆れた顔をされた。何さ、友達が沢山居る人には解らない悩みだよ。
「お互いに、解っていたんだ。顔も名前も知らない、もし知ってしまえばこの関係は終わるかもって」
「なんか、不思議ね。信頼し合っているのなら、全部話す事はしないの?」
「怖いんだよ、凄く」
「私も、あの時…ルクナが居なくなったらって思ったら…凄く怖かったの。勇気を出して、本当に良かったって思っている」
「勇気…か。確かに、私に足りない言葉だよ。ありがと」
「うん、ルクナが少し元気になって、私も元気になっている……気持ちは繋がるの。だから、多分だけれど、その友達も勇気を出せないんじゃ、ないかな? 伝えるなら、遠回しにじゃなくてハッキリ言った方が良いと思う、よ」
セリアも、勇気が出せない…か。そうなのかも知れない。
「セイランのお蔭で、勇気が出せそうだ。ちゃんと彼女に言おうと思うよ……お互いに本当の顔で会おうって」
「良かったぁ……ん? 彼女? お、女の子だったっけ?」
「そうなの。あっ、この学院の四年生らしいよ」
「あっ、そうなんだ……兄さんと一緒ね」
「そうそう、セイランの声が出なくなった時に教えてくれたのは彼女なんだ。知り合いの妹を見てやってって言われてさ。セイランと仲良くなれたのも彼女のお蔭かもね」
「そうだったのね……私も、お礼を言いたいな。兄さんの知り合いだから、聞いてみようか……な……」
「ん? セイラン? どうしたの?」
セイランが硬直し、眉間に皺が寄ったので眉間に指を当ててぐーりぐり。
どうしたのー? 今日エリスタに行くの反対された?
悲しい事でもあった? どうしたのー?
「知り合いの、知り合い……その後兄さんは……嘘……本当に?」
「どうしたのさ」
「ルクナ、やっぱり勇気はいらないわ。お互いに知らない方が友達でいられると思う」
「いやいやいや、いきなり何さ。私の決意を蹴らないで」
「女心を考えると、言わない方が良いわ」
「私も女だよ」
「ルクナは男でいる時もあったから勘が鈍っているのよっ。そうっ! 言っちゃ駄目よっ! うんっ!」
「えー、もう決めちゃったもん」
「駄目よっ。言わないでっ!」
「……ははーん、もしかして、女の子だから嫉妬しているの?」
大丈夫だよ。セリアに恋愛感情は無いから……多分。
「そう、嫉妬……嫉妬しているわ。顔を隠しているのよね? ルクナみたいに可愛いか美人に決まっているっ! あれには勝てない……いや、嫉妬が凄いから言っちゃ駄目っ」
「別にセリアが美人だとしてもセリアだからねぇ。そんなに必死にならなくても……わかった、言わないからそんな怖い顔しないでよ」
「セリア……ほんと? 本当に言わない?」
「うん、今はね。その内言うとは思うけれどさ」
「じゃ、じゃあ言う時は私に言ってねっ」
「はいはい、あっ今度セイランが会いたいって言っておくね」
「言わなくて良いっ! 本当に、兄さんに言うから、大丈夫」
「そう? じゃあカサンドラさんに任せるよ。あっ、そうだ……アルセイア王女ってどんな人?」
「ぶっ! ごほっ、ごほっ!」
「えっ、大丈夫? 気管に入った?」
なんかセイランの調子が悪いね。兄貴と喧嘩でもしたか?
よーしよーし、背中をさすってあげよう。
「はぁ、はぁ、ありがと、いきなりなにその質問?」
「えっ、だってさぁクルルの時にアルセイアの警護って奴に会ったんだよ。面倒な癖に口軽いんだ、あの机を見せてやったらセリアにまでルナードが虐められているって伝わっていてさ……心配掛けちゃったんだよ。そんな部下を持つアルセイア王女ってどんな奴なんだろうってさ」
「ごめん、頭が混乱している。えーっと、アルセイア様の警護……きっとリリさんね」
「うん、多分。半分以上顔見えない人」
「あっ、うん。リリさんで間違いない。リリさんに、あの机を見せたのは……あの時?」
「うん、帰りに怪しい奴って言われてさ。クルルの学生証のついでに机を見せたんだ」
「あー……まぁ、そうよね。うん……アルセイア様は……とても優しい方だから」
「優しいだけ?」
「兄さんが一目惚れするくらいには凄く美人よ。それに、とても綺麗な魔法を使うの」
「綺麗な魔法? どんなの?」
「まるで、生きているみたいな、綺麗な魔法なの。私の周りはみんな憧れているわ……もちろん私も」
「へぇー、ちょっと興味が湧いた」
綺麗な魔法、ね。
気になるな。
「もし、アルセイア様なら……ルクナの王族嫌いも直るかも、ね」
「それは無い無い」
「クルルだったら、仲良く出来るかもしれないじゃない」
「んー、もう手遅れかな。リリって奴に国を憎んでいるって言っちゃったから」
「もぅ……ばか」
「セイランには迷惑掛けないから、安心して」
「そういう事じゃないのっ。うーん……ちょっと兄さんに用事があるから行ってきて良い?」
「やだー。駄目ー。それなら私も行くー」
「えー、ルクナ可愛い。すっごく可愛い……」
「なに? チューしてくれるの?」
セイランが居なくなったら私は一人になるじゃないか。
幼女が扉の隙間から羨ましそうに指を咥えて見ている……仕事しなさい。




