ずっと心は不安定だ
週末……王都に行こうとした所で、母に纏わり付かれた。
先日の一件以来、母が私にベッタリで正直邪魔なのだ。
父は毎日しょんぼりして目障り……いや間違えた、うじうじして面倒くせえんだよ。俺が悪いんだアピールがウザいし、ジメジメしてキノコ生えそう。
ちょっとやり過ぎたと後悔しているんだよね……でも謝ったらまた面倒だからさ……いやほんと、困った親だ。ちょっと喧嘩していたし……
私も困った子供だよっ。
「るくなぁ…行かないでぇ…」
「学院には行かないよ。友達に会いに行くの」
「やだぁ…お母さんも行く」
「いや、付いて来ないで。いや泣かないで」
「るくなぁ……」
「お母さん、大好きだから、ね? あっ、セイランが家に来たいって言っているんだ。今日、良いかな?」
「うんっ。待っているねっ!」
大好きという魔法の言葉で、なんとか家を出られた。ちょっとこれは考えないといけない。母が纏わり付き過ぎて家事とか疎かなんだよなぁ……
王都に到着。
昼頃だから、何か食べようかな……討伐者ギルドで軽食でも食べよう。呪いの眼鏡を装着っと。
「おぉ……なんか凄いなぁ……」
依頼ボードの探し人の欄にクルルの名前。
それがずらーっと。
こんなにクルルさんが居るのかね?
いやいや似たような依頼ならまとめろし。
えーっと、依頼主は、貴族や商家…おっ、ミカのリューメイ家だ。
目的は、なんだろねー。
まぁ良いや、カウンターで軽食を頼んで椅子に座り、人の流れを眺めながら揚げた芋を食べる。うん、うまい。
「……あの、ルナード」
「ん? やぁセリア。浮かない顔をしてどうしたんだい? 悩み事なら相談に乗ってあげるよ。とりあえず、出よっか。あっ芋食べる?」
王都を出て、いつもの林に歩いていく。
その途中で、セリアは立ち止まって泣きそうな顔で私を見ていた。
どう、したのかな?
「ねぇ、いつから、なの? いつから、虐めにあっていたの?」
「虐め? あぁ、もう広まっているんだ。もう解決したから気にしなくて良いよ」
あいつ、口が軽いんだな。
あいつ、えーっと、あっ、名前知らねぇじゃん。人の名前訊いておいて名乗らないし口が軽いとか……
セリアに心配掛けてしまったじゃないか……くそっ。
「解決? 本当に解決したの?」
「うん、親に話したし、私はもう学院に行かないからね。そもそも私には不釣り合いな場所だったんだよ」
「そんな事、ないよ。だって……」
「ありがとね。まぁ、良いんだよ。私には、居場所が無かっただけだから、新しい居場所を自分で見つけに行くんだ」
「ルナード……」
「生きる世界が違うだけ。この一年で、私は色々学べたから、それで良いの。そうだ、今度迷宮に行くんでしょ? ファイアロッドの大迷宮」
「えっ、う、うん。日数が掛かるから希望者だけなんだけれど……一応申し込んだわ」
「そっかぁ。もしかしたら会えるかもね。私も行くんだ」
「ほんとっ? 嬉しいっ…あっ」
やっと笑顔になって、少し安心した。
でも直ぐにその笑顔は消えた。そうだよね、素顔で行くなら、私には会えない。
「別に無理して会わなくても良いんだよ。私は二層以降に居ると思うから、会えないと思うし」
「そっ、かぁ…あっ、あのさ、この国の事、どう思っている?」
「えっ、いきなり何さ」
「いや、どう思っているか知りたいの」
「んー……好きか嫌いかと言われたら、嫌いだよ」
「そう、なんだ。どう、して?」
「グラン・エリスタって知っている? 私の爺ちゃん」
「いや、知らないわ」
そういえば爺ちゃんをよく知っている人に、会った事は無いな。
「超位を超える、神位の魔物を…命と引き換えに封印した英雄なんだ」
「神位……? この国に、現れたの?」
「うん、三年前にね。国に報告もしてある。でも、命を落として国を救った英雄の墓に、この国の王族は未だに来ない……私は、それがどうしても許せないんだ」
「……」
「グラン・エリスタが何て言われていたか、教えてあげる。嘘つきエリスタ…だよ」
「嘘…つき?」
「たった一人で、魔物の氾濫を殲滅出来るなんて有り得ない。そう、言われ続けた。この王都に住む、エリスタを知らない貴族達、そして王族にね」
「……でも、本当、なんでしょ?」
「もちろんだよっ。グラン・エリスタは、私の英雄だ。嘘つきなんかじゃない」
「……私は、信じる」
……なんか、嬉しいな。信じてくれるのか。
「……ありがとう。なんか、少しだけ気が晴れた」
「うん、なんでも言ってね。友達なんだからっ」
「うん……わかった。じゃあ……なんかあったら言うよ」
「絶対よ?」
なにか、秘密にしている事を言おうとしたけれど、言葉が出ない。友達なんだから、か……その言葉だけで、満足している自分が居る。強がってみたけれど、救われてしまった。
皮肉なものだな……エリスタは嘘つきなんかじゃないと言っているのに、嘘の顔で生活して性別も嘘つきで、最後には大きな嘘をつく予定なんだから。
「セリアも、何かあったら言ってね。力になれると思うから」
「うんっ。あっ、そうだこの前のありがとう。借りが出来たわね」
「あぁ……セイランの?」
「そうそう、えーっと、クルルって男の子に頼んだんでしょ? 彼にもお礼を言いたいんだけれど……紹介してもらえる?」
「んー……難しい奴だから、会えないと思う。依頼ボード見た?」
「えぇ、彼凄いわね。噂が巡って巡ってみんなの話題によく上がるわ……有名人よね」
「そうだね。中位の氾濫を殲滅しただけで英雄になれるんだ……流石は都会だよね……」
「彼は、何者なの? 教えて?」
気になるよねー。
今話題の人だから、私は。
教えたいけれど……ね。
「クルルは……ただの魔法使いだよ」
「ただの魔法使いな訳ないじゃない、あんな凄い魔法見た事ない……」
「セリアも居たんだ、あの場に」
「あっ、う、うん。つい見に行っちゃったの」
「ふふっ、お転婆だね。クルルは本当にただの魔法使いだよ。少し特殊な魔法を使うだけで、他の子供と変わりない。不安定な心を持った奴さ」
「友達……?」
「そう、友達というか……私が居るからクルルが居るし、クルルが居るから私が居る……まぁ、親友みたいな存在だ」
「へぇー……なんか嫉妬しちゃうわね。そんな親友が居るなんて」
セリアにだって、居るだろうに。
本当に、私とセリアは似ている。
もう一人の自分が居て、顔を変えて、友達が居ない。
あと、二年、か。
もしかしたら、あと二年で終わる関係……か。
「セリアにだって居るでしょ? 親友みたいな存在」
「──っ」
つい、こんな事を言ってしまう程、私の心は不安定だ。
察してしまったかな……もう一人のセリアが居る事がバレていて、クルルはルナードだって。
「……今日はもう、帰ろうか」
「……うん」
多分、これでもう会えないんじゃないかって……思う。
その方が良い、ルナードはあと二年で死ぬ予定だから。
はぁ……言ってしまった後悔はしていないよ。
いずれ、わかる事だし。
言ってしまえば、二年後も会えるかもって……思えるかもしれないから。




