母の恨みを少しは晴らせたかな……
……側にいるのは、父親か? 年齢は父よりも結構年上だけれど……だとしたら、こいつが母に罪を着せた奴…か。何かしてやりたい衝動に駆られるけれど落ち着け落ち着け。
とりあえず無言でシルフィードの石を当てる……落ち着いたかな?
「はぁ…はぁ…はぁ…」
「おぉ……可愛いグニア、良かった……」
大丈夫かな? 石を離すと……
「ぐぁあっ……ぜひゅ……ぜひゅ……」
また呼吸がうまく出来ないみたい。
凄い力を込めたんだね……シルフィードの石でさえ全快しない。
「その石の力かっ? 貸せっ!」
「あっ……」
石を奪われ……父親がグニアの喉に石を当てると、再び落ち着きを取り戻した。
「はぁ、はぁ、はぁ……」
「ふんっ、これで治して回っていたのか。もう貴様に用は無い、帰って良いぞ」
「その石、返して下さい」
「は? 私に指図するのか? 金が欲しいのならくれてやる、これは私の物だ」
「知りませんよ。その石は……」
「去れと言っているのが聞こえないのか!」
「……そう、じゃあね」
話が通じないな。
まぁ、本当に何が起きても知らないよ。
その石、精霊石は資格無き者が持つと、精霊が取り返しに来る。普通じゃない方法で……
部屋から出ると、カサンドラが不安そうな表情で待っていた。
「な、なぁ……なんか騒がしかったけど」
「石を奪われました」
「えっ奪われたって……良いのか帰って」
「はい、もう会う事も無いですから。あっ、すみませーん」
さっきの母親らしき人を発見。
一応説明はしないとね。
「グニアはどうなったの⁉︎」
「父親らしき人に大事な物を奪われたので、私はもう関与しません。何が起きても知りません。さようなら」
「えっ、どういう事よ。グニアは?」
「さぁ? 精霊石をマグリット家に奪われたと、大精霊様に報告する方が大事なので失礼します」
「はぁ⁉︎ 帰ったら承知しないわよ! 来なさい!」
腕を掴もうとしてきたので、一歩下がって回避。
このままここに居たら、私もこの家を潰してしまいそうだな……母の気持ちが痛い程よく分かる。
あっ、早速大精霊シルフィードさんが来た。待っていたのかしらね。今日はポニーテール……うなじ綺麗ね。ナデナデさせてー。
『ふふふ……呼んだかしら?』
「シルフィードさん、この家に居るオッサンが母に罪を着せたんですよ。おまけに石を奪われました」
『へぇ……』
シルフィードが母親を見据えると、母親が格の違いを本能で理解したみたいにガクガク震えその場に座り込んだ。
「だ、だい、精霊……さま……」
『人間、この子から私の友好の証を奪ったのは本当か?』
「い、いえっ! 私は、知りません!」
『じゃあ、誰が奪ったんだ?』
「うっ、しゅ、主人……かと……」
『案内しろ』
おぉ……流石は大精霊。あんなに気性の荒かった人間を大人しくさせた。
やっぱり、格の違いは理解してしまうよね。精霊って神に近い存在らしいし……神って何者か知らんけれど。
「はぁはぁ……お父、さま」
「グニアっ、話せるようになって来たかっ」
再び部屋に入ると、石の力で少しずつ回復している様子……当て続ければ良かったんだね。
「あなたっ! 今すぐその石を返して!」
「はぁ? 何を言って……」
『ふぅん、お前か』
シルフィードが父親を見据えると、父親が硬直……シルフィードの存在を理解したか。
「その石は大精霊様の物よ! 今すぐ返して!」
「しかし、グニアが……」
『その石は、どうやって手に入れた?』
「……その者に譲り受けました……大精霊様! お願いです! 私の娘を助けて下さい!」
『クルル、譲ったのか?』
「ガバッと奪われて用済みだから帰れって言われたのが譲るの範囲ならそうですね」
「貴様……」
『言っておくが、私は嘘が嫌いだ。それに、汚い手で精霊石を持った時点で重罪……嘘を吐く口は要らぬだろう』
「がっ……あっ……」
「あなたっ!」
「お父……さま……なん、で」
『その娘を助けたいか?』
なんかシルフィードが悪役に見えるね。
カサンドラは渋い顔でこの光景を見ていた。悪い奴ではないから、丸く収めたかった様子だけれど……私の母の件があるから、エルリンちゃんも張り切ってシルフィードにお願いしているだろうね……ぐっじょぶ。
「大精霊様お願いです! お怒りを収めて下さいませ! ほらあなた達も何か言いなさい!」
「あっ……ちょっと、やり過ぎじゃねえかな、なんて思うんだが」
「カサンドラさん……母は力があったのでここから逃げられましたが、逃げられずに泣き寝入りしている女性は多いと聞きました。女性達の願いは、聞き入れなかったのに……そう思うと、止めるのは女性達に申し訳ないと思います」
「そりゃ、そうだけどよ……」
『クルルの言う通りね。この屋敷には、悲痛な泣き声が聞こえるわ……この娘が招いた娘にも、手を出しているようね』
「うわー最低。こいつ最低。下の付属物じゃねえか、グニアは知っているの?」
「……うぅ……知り、ません」
『この娘は知らないようね、どうして欲しい?』
「まぁグニアは更生の余地有りで治してあげて下さい。問題はこの男なので、全ての悪事を認めないと元に戻らないようにしてあげて欲しいのと、出来るだけ長く苦しめるようにしてください……あと、下の機能は要らないですね」
『了解、風の契約』
「──! ──!」
「あなたっ!」
シルフィードがオッサンに契約魔法を施した。声を失い、動きも制限されている様子で、もがもがしている。
どうなるか知らないけれど、これで悪事が公になれば母も喜ぶかな……いや悪事を公に出来る口は無いから、契約を無理矢理解かない限り生きたまま苦しむ形になりそうだな。
ふっふっふ、でもでもこれで終わりじゃあないのだよ。私の計画の為に生きていて貰わないと困るのだ。
その計画はまだ先だけれどねっ。
「じゃあ、帰りましょうか」
「お、おう……」
「クル、ル様、ありが、とうござい、ました」
そうだ、グニアに言っておかないと。
「グニア、君の悪口は私にも届いていた」
「……っ、すみ、ません、でした」
「君に悪口は似合わない。広めるのなら、君の好きなものを広めておくれ」
「好きな、もの……」
「いつも素敵な服を着て、髪型だって毎日変えて、みんな真似をしているだろう? 悪口なんかより、素敵な事を広める能力は人一倍だ。私はそこが素直に凄いと思うよ、私はお洒落に疎いから」
「見て、いて……下さった、のです、ね……」
「王都のみんなが、君の好きなものを身に付けていたら、素敵だと思わない?」
「っ、はいっ、思い、ます」
グニアは友達多いから、流行とかの先にいる事も多い。
羨ましい限りだよ、毎日お洒落して、話題の中心にいて、今回は私にしか被害が無かったから少し道を逸れただけと思っておけば良いし。
私は優しいからねっ。まぁ実は打算もあるけれど……
グニアがよろよろと私に近付いて来た……寝癖が気になるから直すように手を当てて、手を離す。んー、寝癖がぴょこんと直らない。なでなで……治らんな、まあ良いか。
「君には、それが出来るんだ。そう思ったら、悪口なんて詰まらないでしょ?」
「はいっ、はいっ……もう、言いま、せん」
「一応、ルナードに会ったら謝ってね。難しかったらセイランに相談してみて、ルナード嫌い同士仲良く出来ると思うから。じゃあ」
「あのっ、もし、謝ったら、お友達に、なって、貰えます、か?」
「うん、良いよ」
「あり、がとう…ございます…」
よしよし、これでルナードの悪評は終息を迎える。
あっ、一応直接謝って貰いたいから学院には行くか……王都の様子も見たいから来週も学院に通うか……?
シルフィードは私の頭を撫でて消え……もう用は無いので、逃げるようにマグリット家を出た。
「俺さぁ、セイランに報告するんだけど……そのまま伝えた方が良いか?」
「ん? 良いんじゃないですか? みんな治りましたし」
「だってさ、完全に最後のグニア嬢……クルルに惚れてんじゃん」
「恐らくそうですが、一過性な感情じゃないですかね」
「……いやぁ、それは無いぞ。その年であれだけの口説き文句を言える奴なんて見た事ねえし……セイランの機嫌が絶対悪くなる」
「別に口説いていませんよ。ルナードの悪評を無くしたいだけなので」
ため息吐かないでよ。
私の中であれが最善なんだから。
「まぁ……もう少し学院に通っても、良いんじゃないか?」
「そうですね。王都の様子を見たいので、少しだけ通いますよ」
「セイランを悲しませたくねえからさ……出来るだけ、通って欲しいかな」
「休校はするなという事ですか……学院の生活次第ですかね。ルナードは、孤独ですから」
「……セイランなら、孤独にさせねえよ」
「セイランに言っておいて下さい、急に学院生活を変えられると、地味で孤独なルナードが困ります、と」
「あいつ頑固だからなぁ……一応言っておく」
「では、お疲れ様でした。失礼します」
「えっ、家に寄って行かねえか? セイラン待っているぞ」
「いえ、夜までに帰らないと親が心配しますので、また明日とお伝え下さい」
さらばだー。
親は心配はしないというか、最近気が付いたけれど……エルフィさんが精霊を通じて私の動向を母に伝えているみたい。だから私が一人で王都に行っていても安心……な訳ねえだろうがよぉ……寂しいから私が見える精霊にしてよー。
……エルフィさんって流石はエルリンちゃんの母親というくらいの激しい性格だから、私が何を言っても無駄なんだよなぁ。ドラちゃんに食べられそうな私を撮影してニヤニヤしていたし……エルリンちゃんが私の監視…いや見守りを引き継いでいる最中だから、時折精霊が見える。
シルフィードの子供らしき幼女が、私のあげた髪飾りでツインテールにしていて可愛い。でも私に見つかると隠れちゃうから余計寂しいんだよ。




