悲願は、もうすぐ叶いそうな気がするんだ
「いっぱい食べてねー」
「ありがとうございます。なんか、懐かしいな……この感じ。家政婦さんとか、居ないんですか?」
「居ないわ。エリスタを生き抜ける人は少ないから。カサンドラ君は、将来家を継ぐの?」
「俺は……まだわかんないです。妹の方が向いているし……さっきの見たら、なんか、世界は広いなって……」
「二人とも格好良かったでしょ?」
「はい、凄かったです」
「カサンドラさん、一番強いのはお母さんなんですよ」
「そ、そうなのか?」
「さっきのは一分掛からないですね。お母さんは効率が良すぎなんで」
母の魔法は、反則というか、ばーんで終わる。ばーんで。エルフィさんも居るとばーんずどーんだね。
和やかに晩御飯は終わり、もう暗いのにカサンドラは帰ると言い出した。
危ないぞー。
「ルナード、送ってあげたら?」
「いや、俺が送って……」
「お父さんは駄目。じゃあ、行ってきます」
落ち込む父を背景に、母はにこやかに見送られて家を出た。
エルリンちゃんがこっちを見ている。少しムスッとしているな……ボソッと今度王都でデートしようね、と呟いたら目がハートになった。
「悪いな、送って貰って」
「純粋に危ないですから。じゃあ、飛んで行って良いですよ。付いて行くので」
「いや、俺も走るよ。なんか寂しいし」
「じゃあ行きましょうか」
「あのさ……なんでクルルの母さん変な眼鏡してんだ?」
「私と一緒で恥ずかしがり屋なので」
王都に向かって夜道を走っていく。
道なんて舗装されていないからカサンドラは走りにくそうにしていた。
「クルルは、オレイドスを憎んでいるのか?」
「憎んでいないと言ったら、嘘になります。だから出来るだけ関わらないようにしていたんですがね……」
「悪い……ほんとに……セイランに、エリスタを見せてやりたい」
「そうなると、ルナード・エリスタはクルルだと解ってしまって、今まで隠していたなんて最低とか言われたらどうしてくれるんですか? ガチ泣きしますよ」
「いやぁ……まぁ……それはあるかもしれないけどさ……いずれはバレるんじゃないか? クルルとルナードが学院に居ない訳だし……」
「じゃあ言っておいて下さい。ルナードとクルルは一緒って伝えて反応を教えて下さい」
「いや、それは自分で言えよ。大事な事だろ」
「大事にはなりますが大事にはしていませんよ。バレたらその時はその時って言いますし、どの道四年生くらいで学院は辞めます」
「えっ、本当に辞めちゃうのか?」
「前々から決めていました。だから、伝えて良いですよ。それで終わる関係なら、それまでです」
頑張って友達になっても、時間が経てば会わなくなるし、国を見捨てる一族が公爵家のお嬢様と仲良くなんて、ね。
カサンドラは、小さくわかったと言って、少し考えるように黙った。
「このペースなら、着くのは朝になるか?」
「そうですね。休憩しますか?」
「いや、帰ってから寝た方が良さそう。ついでに俺の家に来てくれよ」
「ついでのついでにセイランに会えって言うんですよね?」
「そうだよ。会ってくれよ」
「私から会いに行くのは、セイランは嫌がります。なので、零組に会いに来てと言って下さい」
「……ありがとう。俺に出来ることは、なんでも言ってくれ」
「はい、特に求めるものはありませんね」
仕方がないから、サクッと会って終わろう。会いに行ったら素性を探られて残念な感じだし。会いに来てもそうなんだけれど……
まあ良いか。多分、ルナードはもう一組には行かないし。
在籍だけしていれば良いんだ……幼女に裏で色々やって貰えば良い。
「あの、さ。オレイドス家が作ったあの法律……あれが無ければ戻ってくるのか?」
「いえ、元々私達家族は国を出ようとしていました。もう何処かに家を買うらしいので、準備万端ですよ」
「そ、っか……俺が法律を変えられたらって、思ったんだけど」
「オレイドス家が法律を変えようとしても、早くて二年。それに予算が浮くあの法律を、国が無くす訳ありませんからね」
「もう、手遅れ……か。エリスタ一族が居なくなったら……この国はどうなるんだろうな」
「仮に四年後私達が消えたら、あの法律以来やっと……エリスタで魔物の氾濫が起きるんじゃないですか?」
「……沢山の人が、死ぬのかな」
「そうでしょうね。エリスタ一族は誰も死なせたくないから、己を犠牲にして戦い続けました。実際、お金とかどうでも良いんですよね……あんな奴らを守る為に、戦うのは疲れたというだけです」
学院は国の縮図……私が受けた仕打ちは、そのままエリスタが受けた仕打ちと似ている……と、父は言った。ったく、厳しい親だ。陰口を言われる事をわかった上で可愛い娘を学院に行かせるなんて……そのお蔭で、国を守ろうなんて思わなくなったけれど、ね。
もちろんもちろん父の事はどんどん嫌いになっているぞっ。
「……俺が、口出しできる問題じゃ……無いな……根が深い」
「今度、王都の近くで魔物の氾濫が起きたら楽しみにしておいて下さい。魔物の氾濫じゃ、なくなりますから。まぁ、タイミングが合えばですけれど」
「……あー……大変な事に、なりそうだな」
「はい、クルルという人物が王都の危機を救った、でもそれは魔物の氾濫ではない……いやぁ、楽しい事態になると思います」
「……国の英雄に何も恩賞が無い、か。恩賞を与えたら法律違反……どう、なるんだろうな……想像付かねえ」
「その時は、参加します? 二人なら、少人数ですよ」
「ははは……考えておくわ」
王都の近くで魔物の氾濫起きないかなぁ。最高の嫌がらせはエリスタの……いや私の悲願なんだよ。
この国の王族は、まだ爺ちゃんの墓に来ない。
来させてやるからな。
幸い、王都周辺には私の魔力を点在させて、いつでも解るようにしているから。
親に怒られるのは、覚悟の上だよ。




