全部芋のせいだよ
コングラート公爵家……軍を纏める家や商業を纏める家などを纏め、建国以来存在している由緒ある家。法を司るオレイドス家と比べられる事も多く、コングラート家が動けば全て丸く収まると言われるほど貴族からの信頼が厚い。
コングラート家に属する者は選ばれし者と呼ばれ、全てにおいて優秀な成績を納めてきた。それ故にエリート意識が強く、才能の無い者や平民を見下すようになっていた。
そんなエリート気質が災いし、平民に溶け込んだルクナの悪ふざけの餌食になってしまった。
「ルクナは別に怒っていないわ。暗殺なんて日常茶飯事だもの。それでも謝りたいの?」
「はい、ルクナ様の気に障ってしまった事を後悔しています……このまま帰ってしまったらコングラート家の名折れ……それに暗殺など考えていない事をわかって欲しい……どうか……お願いします」
「そこまで拘る理由は何よ。どう足掻いてもルクナとオレイドス家との信頼の上を行く事は出来ないわ」
「わかっています。私は、ルクナ様の戦いに心を奪われてしまった……あれほど美しく、力強い者を見たのは初めてで、思い出せば今でも胸が高鳴るのですっ!」
ルクナに心酔しているのはコングラート家のレーハウル夫人。元々コングラートの親戚だったが、長年の想いを実らせ公爵夫人の座を得た実力者だ。
王妃は心酔するレーハウルを見て、そういえばルクナの戦いを見た事が無いなと思った。それを言ってしまうと長話になってしまうので、早く終わりたい雰囲気を出しながらルクナにレーハウルの想いを伝えて再び戻って来た。
「ルクナが時間を作ってくれたわ。わざわざ用事を潰してくれたんだから感謝しておきなさいよ」
「あぁお姉様……ありがとうございます……娘達も、同席しても宜しいですか?」
「あー良いんじゃない? ルクナは可愛い子好きだし、トラナは名乗り合った仲なら同席しないといけないわよ」
「はい……頑張ります」
「見抜かれるから頑張らなくても良いわ。それと注意事項ね。ルクナはノースギアで選民思想の貴族に酷い目に遭わされているわ。発言に気を付けないとコングラートの今後に関わるのは確実なのよ」
「肝に銘じておきますっ! お姉さま、あのぉ……ルクナ様との繋がりが欲しくて、何か欲しい物や望みなどがわかれば……」
「うーん……ルセアに聞けばわかるけれど、残念ながらルセアはルクナ側で話を聞くわ。私は一応貴女達の側だけれど、期待はしないでね。立会人はマーガレット・オレイドスだから」
「……」
緊張しながらも、コングラート家の者はルクナが待つ客間に辿り着いた。
少し肌寒い……なにか嫌な予感が巡っていたが、待たせてはいけないと思い客間の扉を開いた。
「どうぞ、お掛け下さい」
「「「……」」」
第一印象はグレイド試験での天使のような子だった。そして、再び目の前で会った印象は天使というよりも、女神と言った方が相応しい……全てを捧げても構わないと思わせる美しさと可憐さがレーハウルの心臓を貫いていった。
実際はルクナが可愛いアクセサリーを盛って神気とキラキラ全開にしているだけなのだが、それを知らないコングラート家のレーハウル、娘のトラナドール、次ハウリズンもルクナに魅了されてしまった。
自己紹介を忘れてしまうほど、ルクナは輝いて見えていた。
ただ執事だけは、恐怖に震えていた……底の見えない力に精神を落とされそうな気持ちだった。
ルクナとアルセイアが隣り合ってソファに座り、間の椅子にマーガレット、対面のソファに王妃、レーハウル、トラナドール、ハウリズンが座り、後ろに執事が控える形で場が整った。
「はいでは改めましてルクナ・レド・ノースマキナです。公爵家の皆様、私は貴族でも王族でもないノースギアの平民なので礼儀なんて知りません。無礼がありましてもご理解戴けると幸いです」
「無礼があったのはこちらの方です。この度は申し訳ありませんでした……」
「あら、公爵夫人様は何もしていませんよね? 謝る必要なんてありませんよ。ところで私を殺そうとした男2人は来ていないのですか?」
「実は……あの2人は何者かに殺されました」
「へーそうですか。では指示をした執事の方、執事さん? 執事様? マーガレットさん、公爵家の執事の方って平民が呼ぶ場合ってなんて呼ぶのですか?」
「あーどうなんだろ。ルクナちゃんの好きに呼んだら? まぁ公爵家の執事様でも良いと思う」
「では公爵家の執事様、そちらのお嬢様は私を見て大丈夫なのですか?」
「……と、言いますと?」
「私を見ると穢れるのですよね?」
「なっ……」
「そっ、そのような事はありませんっ! 言葉の綾でございますっ!」
「そうなのですか? ねぇアルセイア、これ見てー」
「はぁ……また凄いもの作ったのね」
ルクナがモニターを出して、撮影した映像を流し始めた。
ルクナとアルセイアしか画面を見られない状態で、気になったマーガレットがモニターを覗き込んだ時映像と共に音声が流れた。
『ハウリズン様、こんな物を見てはいけません。大事な眼が穢れてしまいます。おい、これをハウリズン様の視界から消してくれ』
執事が床に正座し、頭を床に付けた時……ルクナが映像を止めた。
「ねえアルセイア、これって私に対して言ったのか、フライドポテトに対して言ったのかどっちかな?」
「フライドポテトね。子供にフライドポテトなんて与えたら駄目なのよ。昼ご飯にフライドポテトしか食べない女になってしまうわ。ねぇマーガレットさん」
「えぇ、私も娘に揚げ物は与えなかったわ。栄養バランスとお肌に悪いから。でも誰かさんのせいでフライドポテトを食べるようになったわ。誰かさんのせいで」
「確かにフライドポテトみたいなジャンキーな食べ物見せびらかしたから怒るのも当然ですよねー。公爵家のお嬢様の将来に関わるし。すみませんお待たせしました。私の勘違いだったようです」
「へ?」
「いやぁ穢らわしい者と言われて悲しかったのですが、解決しましたねっ! 次行きましょう!」
ルクナが映像の続きから再生し始めた。
死んでしまった者のところはフライドポテトを奪おうとしたのだろうと適当に流している事が異常な事だと思っているのは公爵家の面々だろう。
『きゃー、痛いっ、痛いっ、たーすけてー』
「「「……」」」
「あぁすみません、これはただの悪ふざけです」
「駄目よルクナ、怪我の虚偽は怒られるわ」
「まぁでも死んでしまったから何も言えないわね。次行って」
『孤児相手に無能ね』
「申し訳ありませんっ!」
「いやこれはルクナがジャージを着ているせいよ。ルクナは世界クソダサグランプリ優勝者よ。孤児で済んでいるだけマシよ」
「アドさん、進化させないで下さいよ。ただのクソダサ王決定戦ですー。あっアルセイアは4位だったんですよっ」
「ちょっ! 言わないでよっ! 自信あったのに表彰台にも登れなかったわ……」
「アドさん……」
レーハウルは何かに気が付いた。自分達には様付けで、他の者はアルセイア、マーガレットさん、アドさん……一種の拒絶なのではないか、そう思ってしまうほどルクナの態度が違っていた。
『目障りだから消えて』
「申し訳ありませんでした……」
「美人に言われるとゾクゾクしますよね」
「トラナはあまり人に興味が無いのよ。これは性格が出ているだけだから気にしないであげて」
「アルセイアが言うなら気にしないでおくよ。アルセイアの言う事は絶対だからねー」
「ふふふっ、私もルクナの言う事は絶対よっ。トラナ、ルクナはご機嫌だから全く気にしなくて良いわ」
トラナドールは目を疑っていた。従姉妹であり第一王女のアルセイアが普通に笑っている事に。
アルセイアが笑い掛けてくれたのは、学院に入学する前だけだった。学院に入ってから他人との差を感じるようになり、公爵家の力の強さを実感し始めた時期でもある。アルセイアには学院に入る前に、何か大事な事を言われたはずなのに、もう思い出せなかった。
「一通り検証してみましたが……マーガレットさん、私に対して謝る事ってありましたか?」
「無いわね。解散で良いんじゃない?」
「そうですね。アドさんは何かありますか?」
「リアちゃんって呼んで欲しいわ」
「いえリアちゃんはアークイリア王女のあだ名なので駄目です」
「えーアドミラリアって名前のリアってアークイリア王女から来ているの。だからリアちゃんでも良いでしょ?」
「だめでーす。流石に友達のママをちゃん付けなんてしません。仮に呼んだとして、マーガレットさんはガレットちゃんになるじゃないですか。セイランに顔面殴られますよ」
「娘が顔面殴るキャラになったのルクナちゃんのせいだからね?」
「ガレット……なんか、懐かしいわね。リズンの歳くらいにそう呼んでいなかった?」
「んーそういえばそうですね。私もリアちゃんって呼んでいましたっけ」
「じゃあリアちゃんで決まりねっ」
「アドさん、他に何かありますか?」
王妃はルクナを少し睨み、何も無かったなら終わりにしましょうと言った。
普通なら、これで解散だが……納得していない者が居た。公爵夫人のレーハウルである。なんとしてでもルクナとの繋がりが欲しいから、何も無かったでは困るのだ。
「お待ち下さいっ! 何故、謝罪を受け入れてくれないのですかっ! ルクナ様の罰が欲しいのですっ!」
「ハウル、馬鹿な提案をしないで。この映像が氷神巫女の目に触れたらどうなるかわからないわよ」
「くっ……しかしっ! 我らがルクナ様に無礼を働いたのは事実! 何も無かったのなら……何も出来ないじゃないですかぁぁ……」
「……ルクナ、レーハウルは私の親戚で当主になった弟と結婚したの。幼い時のアルセイアとも遊んでくれて……ごめんなさい、アークイリア王女の家系に免じて、協力してくれない?」
ルクナが王妃を睨んだ。台本通りにしやがれという視線を王妃は潤んだ目で返すが、ルクナは早くアルセイアと出掛けたいので眉間にシワを寄せた。
その時、ふとハウリズンの姿が目に入った。これだけ時間が経っているのに嬉しそうに足をパタパタさせてルクナをずっと見ていた。初等部にも入っていない年齢なのにこれだけ大人しいのは凄いなと関心していたが、少し見詰め合っていると、ハウリズンが嬉しそうに口を開いた。
「ゆうれいさんっ」
「……」
「リズン、その話は帰ってからね」
「ゆうれいさんだもん」
「わかったから、帰って話を聞いてあげるから大人しくしていて? 良い?」
「やっ! 言ったもんっ、ゆうれいさんって、言ったもんっ!」
「リズンっ」
「あぁ良いんですよ。少しお話しましょう。お嬢様は、私に似た幽霊を見た事があるのですか?」
「うんっ、夢でねっ、あのねっ、ともだちになったのっ」
「へぇー……その幽霊さんは何処に居ました? お城とか? 学院とか?」
「んー? わかんない。でもおへやに来てくれるのっ。でもリズンのへやじゃないの、でもおへやなのっ」
「そっか。あの、こちらのお嬢様は幽霊の夢をよく見られるのですか?」
「えぇ……実は私も幼い頃に同じような夢を見ていまして……トラナも同じなんです」
「私も、幽霊と遊ぶ夢を見ました。顔は覚えていませんが……」
「アドさんは見た事あります?」
「私? まぁ、見たような見ていないような……ルセアは見た?」
「……そういえば、見ました。お城で笑う幽霊の子……」
「……侍女さん、一応王子とミルルちゃんにも聞いてきてもらえますか? 幽霊の女の子の夢を見た事があるか」
「はい、少々お待ちくださいませ」
侍女が出て行き、ルクナは悩むそぶりをしながら今は居ない友……アークイリア王女の事を考えていた。
子孫に幽霊の夢を見させて、何かメッセージでもあるのか……と。
「……その幽霊さんのお名前は、わかる?」
ハウリズンは首を傾げて思い出そうとしていたが、どうしても思い出せなくて泣きそうになっていた。
ルクナは腕を組んで考えていると侍女が戻ってきた。ミルルは見た事があると言い、王子は今でも見るらしい。ルクナは一瞬嫌そうな顔をしたが直ぐに元に戻して順番にアルセイア、王妃、レーハウル、トラナドール、ハウリズンを見て「あっ……」と何かに気が付いたように声を上げた。
「ルクナ? どうしたの?」
「ちょっと耳貸して。ここで仮説を一つ。リアちゃんってコングラート家に嫁いだから、コングラートの血族はみんな私を好きになってしまうっていう仮説を立てたらなんか色々合致するのよね」
「えーなんか操られているみたいでやだ。私は自分の意思でルクナを好きになったわよ」
「アルセイアは私の素顔を見ていなかったから、自力で好きになったと思う。王子とミルルちゃんは私の素顔を見た瞬間に好きになったじゃん」
「あー、初対面でプロポーズされたんだって?」
「サブイボ凄いから言わんで。好きの大小はあれど、好意的に見られているのは事実でしょ。アドさんも会う度に優しくはなっているし」
「そこだけ声大きくして私が優しくないみたいに言わないで」
「つまりルクナはコングラートの血筋にモテるって事ね」
「原因はわからないけれど、そういう事かしら。優しいアドさん、アークイリア王女の日記ってどこにありますか?」
「コングラートよ。私物は全て旧家にあって、魔剣もそこで見付かったの。因みに魔剣研究はコングラート家が主導しているわ」
アークイリアはルクナが千年後から来たと知っている。だからこそ、何かメッセージがあるのではないかと思っていた。
ライズ・エリスタの記憶を見た事と同じように、アークイリアも自分を見付けて欲しいと言っているのではないか……
「わかりました。では後日……その旧家に遊びに行ってもよろしいですか?」
「っ、はいっ! 是非っ!」
ルクナはコングラートの好意は、呪いのようなものではないかと推測した。
だから呪いのせいで王子なんかに好かれてしまった……アークイリアのせいで。
とりあえず過去に戻ってアークイリアに理不尽な文句を言いに行こうと心に決めていた。




