今日は、駄目な日だ
「今の私はルナード・エリスタです。クルルではありません」
「あっ、ごめん隠しているのか。じゃ、じゃあルナード……エリスタ? エリスタ一族か?」
「はい、エリスタ一族です」
「噂は本当だったのか。なるほどな……で、なんでその眼鏡してんの? 俺そういうの解るんだよ」
「理由はありますが、恥ずかしいからと言っておきます」
「ははは……顔と実力を隠して学院生活なんてどんな主人公だよ。なぁ、いつもあんな感じなのか?」
「いえ、今回が初めてで困惑していました。いつもは陰湿な虐めで済んでいたのですが、クルルの時にルナードの名前を出してしまって……逆恨みされてしまいました」
「そりゃぁ……難儀なもんだな。なるほどね……グニア嬢がクルルに惚れてって感じか……」
まぁ、大体そんな感じ。
グニアンの事は気にすんなって言われたけれど、また口撃されるのは間違いない。
今頃陰口を広めているだろうし……
他の組からの悪評もあるから、ルナードの肩身が狭すぎるぞ……どうしよ。
「はぁ……必要無い、か。実際そうなんですよね……学院長からは手を抜けって言われているし、エリスタから通っているせいで遅刻地味眼鏡が浸透して友達なんて一人も居ないんですよ。笑っちゃいますよね」
「……えっ、エリスタから通ってんの? 滅茶苦茶遠いじゃん! まさか転移……」
「日の出前に起きて、走って通っているんですよ……酷い親ですよね」
「いやいやいや、おかしいおかしい……走ってなんて俺でも無理だ……いや、なんか、哀愁が凄いな……仕事に疲れたおっさんみたいだぞ」
「あっ、そうだ。ルナードはセイランに無茶苦茶嫌われているんですよ、凄くないです?」
「あいつルールルールってうるさいもんな……わかるが凄くはねえ。俺みたいに嫌われるのは簡単だ。ってかさ、言えば良いじゃん。ルナードはクルルだって」
「これ以上セイランに嫌われたくありませんよ。あっ、噂をすればなんとやら」
図書館裏から移動していると、青い髪を一つに結んだ女子が向こうから歩いて来た。
私とカサンドラを見るなり、酷く嫌そうな顔を浮かべて私を睨んだ。
「ようセイラン、ご機嫌そうだなっ」
「ご機嫌に見える兄さんの目はおかしいと思います。ルナード・エリスタ……あなた、グニアに酷い事を言ったみたいね……さっき聞いたわ」
「……いや、私は」
「おいセイラン、逆だぞ。ルナードがあいつらに責められていたんだ」
「……グニアは、酷く泣いていました。話を聞く限り……ルナード・エリスタ、あなた……最低ね」
「……っ」
蔑むような視線を向けられ、何も言えなかった。
セイランが図書館に向かい、私は反論する事も出来ずに立ち尽くした。
最低……か。胸が痛いよ。
「……セイランには、俺から言っておくから」
「いや、良いんです。流石に、ルナードだとしても、最低はキツいですね……はははっ、まじキツい」
「……ルナード。す、捨てちまえば良いんじゃねえか? その眼鏡」
「母との約束ですから、捨てはしませんよ。じゃあ、帰ろうと思います。さっきは、ありがとうございました」
「良いのか? セイランの所に行かなくて……その、今なら誤解を解けるかもしれないし」
「そうかも知れませんが、今、セイランの目を見たら…私は泣いてしまいます。ははっ、知らず知らずに、私はセイランを大切に思っていたのかも知れません……」
「……なんか、俺も辛くなってきた。明日、来るよな?」
「……どうですかね。私はこの学院に必要無いので、必要とされる場所に行くかもしれません」
「何処に、行くんだ? 教えて欲しいけど」
「そうですねぇ……ファイアロッドの大迷宮辺りでしょうか」
ファイアロッドの大迷宮。第一層以外は難易度超位のエリスタで有名な観光地。
火属性推奨で、魔法使いが居ないと第一層すら突破出来ないとされていたが、魔法使い以外も入れるようにファイアロッドという魔導具で力押しした結果、魔法使い無しで第一層を突破した。それ以来、ファイアロッドの大迷宮と呼ばれるようになった……って歴史の教科書に載っているくらい有名な迷宮だ。
「それは……無謀じゃねえか?」
「私なら、大丈夫ですよ。絶対に」
「そ、そうか。ファイアロッドの大迷宮か……俺、用事があるから帰るな」
「あ、はい…」
カサンドラは帰って行き、一人になった。
すれ違う女子がひそひそしている……グニアンの噂、か。
どの道誤解を解いてもルナードは肩身が狭い。別にそのまま退学しても良いし、一度学院長に迷宮に行くと言おう。
チラチラと見られながら四階へと上がり、零組の扉を開けると、幼女がサボってゴロゴロしていたので抱っこしてソファーに座った。
「明日から迷宮に行くので、しばらく休みますね」
「そうかえ、親には言うたかの?」
「いえ、これから言います。駄目と言われたら家出するので、どの道休みます」
「じゃあ、わっちの分体を持って行くのじゃ。保護者は必要じゃろ」
「……そうですね。ありがとうございます」
「まぁ、若い内に色々やっておく方が良いじゃろ。わっちも分体でアズぴょんに言っておくでの…何処の迷宮かの?」
「ファイアロッドの大迷宮です」
「ほほっ、ファイアロッドかえ……分体が第三層まで案内出来るぞえ」
幼女も行った事あるのか。まぁ観光名所だし、あるか。
今ではファイアロッドを持って第一層を回るツアーもあるくらいだし。
「じゃあ、帰りますね」
「早いの。まぁ分体で話は出来るで寂しくなったら言っての」
小さい幼女が鞄の中に入った。
これで一人でも寂しくない、ね。
ルナードはしばらく休業にしよう。ルナードはセリアに会う時だけだね。
眼鏡を外して、学院を出る。晴れ渡った空が何故か憎かった。
「……帰ろう」
今日の出来事が頭の中でグルグル回る……ため息しか出ないよね。
はぁ……親に今日の事を言おうか悩むなぁ……怒りそうだし。
「クルル?」
言わないと駄目だよなぁ……母が怒ったら何をするかわからないし……
「クルルっ」
「うあっ! びっくりした……あっ」
セイランさん、こんにちは。さっき振りですね……さっき……さっき……最低……
「どうしたの、ボーッとして……」
「あぁ……考え事を、ね……あっ、そうだ、しばらく、休むから」
「えっ、しばらくって……」
「ごめんね、ごめん……」
「あっ、ちょっとっ! ……もぅ」
顔を見られないや。
思った以上に、ダメージがでかい……最低、最低、最低、あぁ……駄目だ。
落ち着いたら、謝ろう。
今の私は、もう駄目だ。
気が付いたら、走っていて……王都を出ていた。
「はぁ……なにやってんだ、私は」
……帰ろう。




