良い父娘を見せられるとムカムカする
騎士の精霊さんを先頭に聖山マリウスに入った。ナイトクラウンの街から歩いて行ける距離にあるので、軽いピクニック気分だ。軽いと言っても標高千メートルくらいの山だから結構な登山だ。
『人間が居るから先ずは頂上に登ろう』
『はーい。先ずは頂上に行くよーって面倒だからみんなに姿見せてあげて。魔力あげるから』
『は? そんな事で魔力をくれるのか? 願ってもない事だが……本当に良いのか?』
『名付けはしないからね。せっかくだからナナパパさんも私が見える様にしてあげるよ。ほいっ』
「っ……貴女が、女神ルナ、か?」
『そうそう。兄弟が多いと大変だねー。あっ、勝手にナナリーちゃんを眷属にしちゃってごめんね。神位の魔物と戦っていて手助けが必要だったのよ』
「神位の……あの迷宮核はその時の?」
『うん、獄炎の魔王が命と引き換えに神位の魔物を召喚したのよ。いやぁ凄かったよねぇー』
「あれは無理」
ナナパパに挨拶を済ませていると、精霊が姿を見せた。
ライズが可愛いと言ったが、可愛いって言うと怒るかもよ。あっ、転んだ。
精霊は私としか喋らない様子なので、みんなには精霊に話し掛けないでねと言っておいた。
『ねぇねぇ女神パレスは神種なの?』
『あぁ。旅の途中でこの地に寄ったようだが、人間達が崇めたお蔭で力が増して滞在したのだ』
『信仰があると助かるもんね。封印したのは人間?』
『いや、強い魔物が出てな……あの山に封印しようとしたが、力不足で共に封印されてしまった』
『そっかぁ……人間の為に自分を犠牲にしたのか……優しい神なのだね』
『……力を振り絞って、我にまで力を与えた……早く封印を解いて文句を言いたい』
旅の途中で信仰を得て滞在するくらいだから、力の弱い神だったのかな。世話になった人間の為に自分を犠牲にするくらいだから、恩のあるこの国は女神パレスを信仰しているのだね。
なのにナナパパは女神パレスが存在するのか聞いてきてよ……ちらっと見ると微妙な顔をしているな。そのままナナリーに視線を移すと、にへらと笑って何も考えていない。ライズは騎士精霊をじーっと見ているので、中身が気になるのだろう。
『精霊さんは封印が解けたらパレスと旅に出るの?』
『見届けられたらそれで良い。我もまたうつろう者だ』
『ふーん、精霊と神の気持ちなんてわからんけれど……一緒に旅をしても良いんじゃない? 精霊さんはずっとここに居たのでしょ?』
『神と精霊は考え方が違う。欲しい力も違う。お互いの為に寄り道をし続けるなんておかしいと思わないか?』
『それが友達だと思うよ。私なんて寄り道しかしていないから自分の用事が中々終わらないけれど、楽しいしそんな自分が好きだよ』
『……それは、よくわからぬ』
『そう? 今、寄り道をしてみんなも寄り道させている私はおかしい奴という事になるね』
『……撤回しよう。寄り道が出来る関係は良いのだと知った。感謝する』
本当は一緒に旅に行きたいくせにー。
素直じゃないねぇ。私は精霊と雑談を、ライズとナナリーとナナパパは3人で話しながら頂上に到着した。
ナイトクラウンの街が一望出来るから、生身だと凄く気持ちが良いのだろうなぁ……どうしても霊体だと感動が薄いというか、感覚が少ないから。
「ナナリー、本当に大教会に訴えるのか?」
「聖女ライザを嘘吐き呼ばわりしたのは許せません。まぁ訴えても聖女ライザと大教会が受理しないといけませんし、兄弟に何か不都合がある訳でもないので私の自己満足で終わりそうですが」
「あーナナ、受理されたら結構厳しい処分になるよ」
「そなの? 聖女が来ないってだけじゃないの?」
「うん。聖女ってランクによって国のトップと同じくらいの権力があるのよ。私は上から2番目のランクだからエイラちゃんなら国外の修道院行きじゃない?」
「10年はナイトクラウンに戻れないだろうな……」
「えーっ! 言っちゃったじゃんっ! そこまでするつもりじゃないけれど……どうせ国出るし。でもライズを侮辱したのは許せないし……」
「まぁ私は子供だからこういうの慣れてるし、気にしてないよ。ナナ、ありがとね。ナナパパさんに任せたら?」
「ちゃんと罰は与える。帰ったらナナリーと聖女ライザにも会わせないと約束しよう」
頂上からはナイトクラウンの街が一望出来て、遠くに見える山はヴァン王国の山かしら……反対側の北には街道が延びていて、ずっと真っ直ぐ行けばノースギアに着くと思う。
千年前は魔の森にはなっていないから行くのは簡単よねぇ……
『そうだ、ナナリーちゃんはノースギアに行った事ある?』
「えっ? えぇもちろんありますよっ。ナイトクラウンとノースギアは友好国ですから」
『そうなんだ。ウォーエル・レド・ノースギアには会った事ある?』
「はいっ! もうウォーエルさんに初めて会った時なんて美し過ぎてしばらく眠れませんでしたっ! お屋敷にご招待もしてもらいましたしっ! あぁ思い出すだけでゾクゾクしますっ! あっすみません、ルナ様はウォーエルさんとお知り合いなのですか?」
『いやまぁ、聞いておきたかっただけよ。精霊さん、パレスはどこ?』
『……こっちだ』
頂上からナイトクラウンの反対側に降りて、道を外れてしばらく歩いていくと……膝下くらいの大きさの石碑があった。
これが十字に配置されていて、中心にある石碑に微かに神気を感じた。
みんなを十字の外に待たせて、しゃがみ込んで観察してみた。きっと魔物が出たのはパレスの力が限界に来ているからなのかも……これ、放っておいたらパレスは死ぬ。でもこの十字封印……何を封印したんだ? ただの魔物なら街の探索者が討伐すれば良いし……超位魔王級かしら。
『精霊さん、パレスが封印したのは悪魔か魔王?』
『あぁ……血剣の悪魔ブレイクと名乗っていた。封印は解けそうか?』
『うん。神気が無いと解けない封印だね。ちょっとこの身体じゃ足りないから本体で来て良い? 1時間くらいで戻るよ』
『あぁ、もちろんだ』
『ねぇーみんなー。ちょっと本体で来るから1時間休憩っ!』
「わーいっ」「あぁ……やっとルナ様に触れ合える」
近くに簡易アンテナをブッ刺して、召喚陣で一時帰宅した。
……本体に戻るとセイランが絡み付いていたので、剥がしていると首を噛み付かれた。
「起きていたのね」
「早いわね。せっかくぺろぺろしようと思ったのに」
「ちょっと神の封印を解くのに神気を補充してから本体で行ってこようと思うのよ。朝までには帰るよ」
「ふぅん……神気の補充は私でしなさい」
良いの? 知らねえぞ。ひぃーひぃー言うぞ。
……
……
……うむ、これだけ溜まれば余裕ね。
ぐったりしているセイランに布団を掛けて寝かせて、隣の部屋で聞き耳を立てていたローザの元へ向かった。
ノックをすると少しガタガタと音がしてから扉が開き、笑顔で迎え入れてくれたのだがすっぴんだからか目の隈が凄いな。
「最近寝ている?」
「いや……中々ね……」
「ちょっと治すよ。入って良い?」
「うんっ、もちろんっ」
部屋に入りローザをベッドに寝かせて、お腹に跨がって顔のマッサージ。頭の上の方に座った方がやりやすいが、正面を向いて会話した方が良さそうな雰囲気だった。
お肌はちゃんと手入れしているが、ストレスなのかいつもと違う。世界樹のオイルでやるかぁ……うわっ、肌は良いが顔の筋肉ガチガチじゃん。もみもみ。
「……1人で来るなんて、どしたのさ」
「……えっとね……まぁ、個人的な理由というか……ルクナに会いたかったというか……あのね、イシュラがさ、教えてくれたの…………サラ、彼氏出来たって」
「ぁー……軍も抜けたし……そう、だよね」
「気軽に会えないし……聞けないし……どうしようどうしようって……公務に集中すれば忘れるって思って頑張っていたけれど……帝都で見ちゃったの……サラと、彼……うぅっ、ぐすっ……」
サラシャさんって軍を抜ける時にザンガード家も抜けて、イシュラの為に一般人になった訳だが……元々美形でクールだけれど大好きな妹と住んで幸せオーラが溢れている女を世の男は放っておくか。うーむ、メイクとかしたら相当モテると思う。
イシュラはどうせ姉さんの好きにして良いよとか言うだろうし、良かれと思ってローザに言ったら思ったより落ち込んでしまったから悩んでいそうだし、今頃ローザがノースギアに行ったと聞いたら私にまた迷惑掛けたと思って更に落ち込んでいる状態だろう。イシュラはどうでも良いか。
ローザの涙を拭って、おでこを合わせて見つめ合った。
「気の済むまでここに居て良いからね。帝国に戻らなくて良いし、おかぁさんに書状出して貰うから」
「大丈夫……ちゃんと帰るし、話聞いて貰いたかっただけだし……ウォル様に迷惑掛けられない」
「ああ見えてローザの事は応援しているのよ。しばらく居なさい。氷神巫女と元大聖女の命令よ」
「……ありがと。ほんとは、踏ん切りが付いているというか……元々叶わぬ恋だってわかっていたし……でも、見せ付けられたら誰だって辛いわ」
「そうだよねぇ……しばらく恋はしない感じ?」
「まぁ、そうね。大学院にも良い出会いは無いし……あんな思いするのやだ」
振られる前提とか後ろ向きね。クレイルの時はモテモテだがローザになるとモテないというか覇気が強いから怖気づくよね。ザンガード家のなんだっけあいつ……イシュラの元兄貴はどう? なんて言ったら殴られそうだ。
良い女を紹介したいがみんな相手が居るからなぁ。
私はローザから見て恋愛対象外だし……
とりあえず慰める為に神気の補充をするか……
……
……
……うっ、頑張り過ぎてお腹一杯な感覚だ。
やばい、本体でも薄く光るようになってしまった。女神っぽいからみんなは喜ぶだろうがこれじゃ恥ずかしくて外に出られんよ。
ちょっと時間が掛かってしまったので、ローザにバイバイして直ぐにライズ達の元に戻った。
「お待たせー」
「ルナさまっ! いつにも増して神々しいですっ!」
「えっ、ルクナの身体なんか光ってない?」
「……」
「いやぁ神気を補充し過ぎるとこうなるのよ。夜とか目立つから出歩けないのよね」
「くくくっ、目立つねーってかすごっ、今日めっちゃ良い匂い」
「ルナさまぁ……くんかくんか……はぁ〜……」
「……」
「えー結構匂う? 世界樹の葉で作ったオイルを使っていたからしゃあないか。ほいじゃあちょっと待っていてね」
「あの、ちょっと良いか? 女神ルナはナナリーをあちらの世界に連れて行って何をさせるんだ? 父親として、聞いておきたい」
「危険な事はさせないと約束するよ。あっちで私は姫より凄いお嬢様だから生活の保証は今以上にするつもりだし、学校にも通える環境があるから安心して。少し経ったら映像魔導具を送るし、あとは……そうだ、ナナリーちゃんの代わりにはならないけれど神剣を一本この国に納める。鬼族のメイラさんと剣を作る約束をしているから、ちょっと待っていて」
「それなら、安心か。女神ルナ、此度はナナリーを受け入れてくれて感謝する。実は諸外国からの縁談が多くて悩んでいたんだ。親として、まだ世界を見せてあげたかった」
良い父親だと思う。どこぞの浮気したクソ野郎とは大違いだ。まぁナナパパは一夫多妻だからなんとも言えんが、ちゃんと子供を想っているのは好印象だ。
父親として、会ったばかりの私に頭を下げてくれるだけですげえ良い父親だよほんと……ナナリーもナナパパを抱き締めてお礼を言っているが、これ以上は良い父娘を見せ付けられている私の精神力が保たない気がする。
「だから帝国遠征も許したのね。でもそこまで言うのはナナリーちゃんだけなの? 他の兄妹は?」
「もちろん他の子供達も大切には思っているが、ナナリーは経営や発明など沢山助けて貰ったんだ。名産品も沢山出来たし、財政が良くなったのは間違いなくナナリーのお蔭。俺はナナリーに恩を返したいんだ」
「そっか、大事な娘なのだねぇ……大事な娘ねぇ……良いなぁ……ライズ、言われた事ある?」
「ある訳ないじゃん……良いなぁ……ナナ、私達には辛い光景だから見せ付けないで」
「いや、気まずいからそれ思っても言わないでよ……わっ、私は母親とは仲悪いからお相子だよっ!」
「そなの? 優秀過ぎてナナパパがナナリーちゃんばかり構うから他の兄妹共々嫉妬されたとか?」
「うっ……そう、です。いやぁ……勉強も一番を取らないようにしたり馬鹿な振りして抑えてはいたのですが……国の財政が良くないと知ってから私がここに居る意味はこれだって勝手に思って暴走した結果、国民の圧倒的な支持と引き換えにお父様以外の家族に嫌われました……命も狙われそうになったので帝国に向かったのですよ……はぁ……」
「それに関しては俺にも責任があるんだ……親というものは難しいと実感したよ。はっはっはっ」
感情なんて抑えられるものじゃないからね。嫉妬は多いと思う。頭が良くて強くて国の財政を立て直した美少女なんて嫉妬されない方がおかしい。おまけに女神の騎士にもなるとか嫉妬が天井突き破って大きな木になっていそう……エイラが怒る理由もわかる気がするよ。
それならもっと嫉妬される事をしてあげたいと思うのは私とライズの共通の認識だろう。
「ライズ、どうする?」
「とりあえず女神の封印を解いたのはナナにして、今後ナイトクラウンが繁栄するのはナナのお蔭って国民に教えてあげた方が良いかもね」
「えっ、ちょっ、変な事しないで下さいよぉー……もう実家帰れなくなりますってー」
「ふむ、じゃあ大魔法で国中に届くように声を届けるか。一緒に台本作ろー」
「わーい。楽しそう」
「……お父様、どうやらルナ様のご機嫌を損ねてしまったようです。責任取って下さい」
「え……俺がか?」
「ナナリーちゃん、とりあえず記念写真でも取ってあげるよ。はーい撮るよー……はい、家族写真って良いよねーあっ、そういえば家族写真って撮った事ないや。ライズは?」
「あると思っていたら驚きだよ。私は映らせてもらえなかったから私の居ない時に家族が写真を撮っていたよ。ナナ、家族写真撮れて良かったね」
「……いや、ほんと泣きそうになるんでそのノリやめてくれません? あっ、精霊さん待っているので早く終わらせてご飯食べましょっ! ルナ様にナイトクラウン名物を食べていただきたいのでっ!」
はいはい。じゃあやるので離れて離れてー。
よし、始めるか。




