魔法学校に転入したら私はモテモテ生活になるのか……
訓練場の中心へと歩きながら、大人を黙らせる為にはどうするか考える。
強過ぎる力を見せ付けて、力で黙らせられたら早いのだけれど……それが通用するのはエリスタだけだ。
「お名前は?」
「王都学院二年のクルルです。よろしくお願いします」
バラバラになった的が片付けられて、新しい的が用意された。
先ずはぶっ壊してからかな……ん? さっきと的が違う……頑丈なやつだ。まぁ良いか。
周りの大人達は私に興味なさそうにして、エルリンちゃんの話題が終わらないご様子。
「クルルさまぁー!」
「エルリンちゃんエルリンちゃん、あの格好良いお兄さんだあれ?」
「クルルさまは私の、大好きな人だよっ! みんなも応援してっ! せーのっ」
「「「クルルさまー!」」」
可愛い女の子の声援を受け、手を振って爽やか笑顔を決めておく。
「「「きゃー!」」」
なんか、気持ち良いね。
学院じゃモテないけれど、魔法学校ならモテるし…いやモテなくて良いから友達欲しい。
魔法学校なら友達も増えるかも……えっ、転入したい。
クベリアさんを見ると、駄目って顔を横に振っていた。
はいはい、とりあえずやりますよ。
どうしようかなぁ……私大好きエルリンちゃんの顔を立てて、格好良くしないと。
白い魔法陣を前方に展開して固定。
「なっ! 魔法陣……」「光の陣だと……」
その時点でざわざわし始めた。魔法陣を描くのは高等部でも一握りの人しか出来ないらしい。更に光属性なんて使える人は限られるから珍しいよね。
合わせる属性は……土属性と、土属性にしよう。
両手にそれぞれ黄色い魔法陣を展開。
それを白い魔法陣に重ねる。
「天より舞い降りし煌めきの天使よ、永遠の輝きを持つその身体で、誰よりも澄み切ったその身体で、私に光を見せて……」
「うそ……三つの魔法陣を……」「なんて逸材……」「はぁ、また成長しちゃって……」
「あぁ……クルルさま美しい…らぶ…」
「さぁ、踊ろう! 私があなたの舞台を用意した! 魔法合成・金剛天使!」
魔法陣が輝き、魔法陣から翼を持つダイヤモンドの人型が現れて……めっちゃ眩しい。
『ル……ク……ナ……』
いやぁー喋ったぁー!
「天使ちゃん、あの的を壊して」
天使ちゃんが的を見て……目からビームを放った。
……溶けたね。ドロドロに……なんか、人型を作るのは危険な気が……
『ニン……ゲンノ……オウ……コ……ロ……ス』
「わぁぁ! もう帰って良いよぉぉぉぉ!」
『……ル……ク……ナ……』
「ありがとねっ! またねっ!」
……天使ちゃんは少し寂しそうに消えて行った。
……危ない危ない。誰か殺す所だった。また別の機会で頑張って貰おう。
……なんか、静かだな。
あっ、シルフィードが隣に来て私の頭を撫でた。
そのシュシュ似合っているね。耳の横で結んでお姉さん感が素敵。憧れるわぁー。
『ふぅん、擬似的な命を作れるのね。迷宮核の影響かしら』
「最近魔法の威力が凄いんですよね」
『きっと迷宮核の力が身体に馴染み始めたのね。まだまだ伸びるわよ』
「なんか嬉しいですね。あの…撫で過ぎですよ」
『エルリンがあなたの為なら頑張るって言うから、媚び売っているのよ。将来、精霊王になれるかもしれないから』
「そうなんですね。あっ…媚びついでに、大人達がエルリンちゃんを勧誘しないように言ってくれません?」
ずっとナデナデされて心地良いんだけれど、注目されながらだと恥ずかしい。二人きりでナデナデしてくれたら甘えられるけれど。
『良いわよ。人間達よ、エルリンは精霊の祝福を得た者……人間達よりも格上の存在だ。もし、エルリンが悲しむような事があれば…私が天罰を与えよう。私は、お前達を常に見ている』
シルフィードの声が風に乗り、魔法学校を越えている気がするけれど、これで解決かな?
良かった、シルフィードが居てくれて。
「シルフィードさん、ありがとうございます」
『良いのよー。あっ、髪飾りもっと欲しいから作ってっ。眷族にあげたいの』
うんと頷くと、シルフィードは消えて行った。
多分見えないだけで、ここにいるんだろうな……今の素の感じが可愛いかった。
「クルルさまぁー! 私の為に、嬉しいですー!」
「エルリンが悲しむと、私も悲しいから」
「クルルさまぁ……」
「良い子にしているんだよ」
エルリンちゃんの頭を撫でて、クベリアさんの所に戻ろうとすると……やっぱりケバいお姉さんが居た。
クベリアさんがウザそうに手をしっしとやって、ケバ姉さんがキーキー言っているな。行きたくねぇ……中等部の男子が近寄って来た。
「おい、お前中々やるな。魔法大会には出るのか?」
「出ませんよ。忙しいので」
「そっか、魔法陣合わせるのどうやるんだ?」
「秘密ですよ」
「いや、教えろよ。俺の方が年上なんだぞ?」
「だから、なに?」
なんだこいつ、偉そうだな。
いきなり教えろとかやべえな。
「良いのかそんな態度で? 俺に逆らったらタダじゃおかねえぞ」
「じゃあ、見せてよ。魔法測定してさ」
「上等じゃねえか……」
男子が測定器の方へ歩き出した。
さて……
「クベリアさん、帰っても良いですか?」
「良いわよー」
「は? ドーエンの魔法を見ていかないの? 中等部で一番なのよ?」
「私より凄いのですか?」
「……も、もちろんよ」
へぇー……私よりも、ねえ。
小さい魔法陣を展開、三つだと目立っちゃうから二つにしよう。黄色を二つっと。
「硬く、より硬く、己が動けぬ程に硬く、いかなる力をも跳ね除け、いかなる魔法をも跳ね除け、最後に残るのは、己のみ……こっそり魔法合成・超合金鋼」
ポンっと手の平よりも小さい魔法陣が弾け、地面の中を伝って男子の狙う的に私の魔法が掛かった。
これを破れたら凄いよね。
「よし……俺の、最強の魔法……」
黒い魔法陣が現れ、黒光りしている。
「ねえクルルちゃん、意地悪ね」
「何の事です?」
私の魔法が解った人は、ごく僅か。そのごく僅かも私の方に興味があるみたいで何も言わない。
魔法学校の校長っぽい人と、魔法士団っぽい人。
「ダークネス・プレス!」
黒い力が溢れ、的を押し潰すように呑み込んでいく。
……中々強いけれど、ん? 空に誰かいる……目が、合った気がした。
そして空にいる人が、魔力を放出……
「あっ……」
的にヒビが……壊れてはいないけれど、やるねぇ……
空を見ると、誰も居ない……何者だろう?
「へっ、あっ、ど、どうだ見たか!」
男子が私を見ているけれど、興味は無いのでクベリアさんに意見を聞こう。
「クベリアさん、今の誰です?」
「……飛行魔法を会得している者は少ないから……きっと、カサンドラ・オレイドスかしら、ね」
「カサンドラ・オレイドス……セイランの兄、です?」
「ええ、彼はよく授業を抜け出しているから。大精霊の声に反応したんでしょうね」
「そうですか……」
確かに、魔法の才能に愛された天才というだけある。
他人の魔法を増幅させるなんて、普通出来ない。
強いんだろうな。
まぁセイランと関わっている以上、いずれ会いそうだけれど、セイランはなんか性格が合わないと言っていたな……あっ、面倒なのが来た。
「おい、これで魔法の合わせ方を教えてくれるんだろ?」
「教える訳ないじゃん。壊れていないし今の自分の力じゃないでしょ?」
「はぁ? 俺の実力に決まっているだろ。測定不能だから俺の勝ちだな、教えろ」
「そもそも、魔法陣を同時に複数出せなきゃ話にならないよ?」
「じゃあそれも教えろよ」
「やーだ。時間の無駄だね」
「ねえドーエン君、そんな頼み方では教えてくれないわよ」
そうだそうだー。
そもそもこんな奴に教える訳ないじゃん。
「いやいや、こいつが教えてくれるって言ったんですよ?」
「言っていないじゃない。君が勝手に話を進めているだけよ。言っておくけれど……これ以上関わるつもりなら、知らないわよ」
「約束を守らない方が問題だと思いますよ」
しつこいなぁ……
イライラしてしまう。
永遠にハゲる呪いでも付与してやろうか?
こういう時は……黒い魔法陣と黒い魔法陣を重ねる。
「魔法合成・偽りの力」
「な、なにしやがった!」
「魔法陣を合わせたいんだよね? 教えてあげたよ。ではさようなら」
「待てよ! んあ? なんだ? この、みなぎる力は……ははっ、凄え」
力に気を取られている間に離脱。
偽りの力は、何回か思う通りの力を得られる。この場合は魔法合成……ただ、己の力に見合わない力を使った場合、代償がある。
魔法学校を出て、クベリアさんが巻き込んでごめんと謝って来た。別に仕返ししたから大丈夫だよ。
「ね、ねえあれ大丈夫? 何したの?」
「教えてあげたんですよ。魔法合成を何回か使える方法を」
「何回か? 嫌な、予感がするのは気のせい?」
「気のせいでは無いですね。素直に頼んでいれば考えてあげたのですが、あれは無いです。なので、ちょっとした悪戯を仕掛けました」
「それは、聞いてもいいかしら?」
「はい、不釣り合いの力を使った場合、一回につき十回の罰が与えられます。恐らく五回で効果は切れるので、五十回の罰です」
「五十……どんな、罰なの?」
「魔法を使う度に服が弾けてパンツ一丁になります」
つまり、あの男子は五十回パンツ一丁にならないと普通の生活に戻れない。
もちろん、偽りの力を使わなければ罰は無い。
ふっふっふ、五十回も服が破けるのが先か、心が折れるのが先か……楽しみだのう。
「気の毒だわ……謝って来たら直してあげてね」
「嫌ですよ。五十回服を弾けさせれば良いだけですよ? ちゃんと新品の服を五十着弾けさせないと倍になりますがね。それにまた私の前に現れたら同じ事をしますし」
「いや……思春期にパンツ一丁公開処刑なんて……」
「「「きいゃぁぁぁあぁ!」」」
「「……」」
……早速服が弾けたみたいだな。
視察の立場で勝手に魔法を使った挙句にパンツ一丁……良い処罰を期待しよう。
私の敵になったらどうなるか身をもって知るが良い…はっはっは。
「……一応副学院長という立場だから、見てくるわね」
「じゃあ、戻っていますね」
クベリアさんと別れ、学院に戻る途中で……
「よう、そこの少年。ちょっと良いか?」
黒いローブに身を包んだ年上の男子に声を掛けられた。
さっき、空に居た人……カサンドラ・オレイドス。
黒髪なんて、珍しいな。