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嘘吐きエリスタの最後の嘘  作者: はぎま
エリスタ一族は、最後に大きな嘘を吐く
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メイドさんのスカウトだったらホイホイされたかもしれないね

今日はキリの良い所までいこうかと……

 


 宿に戻り、朝一番でエリスタ領に帰る準備に取り掛かる。準備は先に済ませる派だ。

 もう退学の手続きは終わったし、今回はもう王都に用は無いけれど……行きたい所は一応ある。


 ──コンコン。

 宿の店員さんかな。なんの用だ?


「はい」

「王宮の使いの方がお見えです」


「……どのような件か聞きましたか?」

「いえ、教えてはもらえませんでした」


「わかりました、一階のラウンジに行くとお伝えください」

「かしこまりました」


 扉越しの淡白な会話が終わり、貴重品を持ち、服装を整え眼鏡を掛けて一階へと足を運ぶ。

 王宮の使い、ね。勝手に帰ったから怒られるかな。

 階段を降り一階のバーがあるラウンジへと向かうと、執事服を来た男性が私に一礼をして迎え、対面のソファーに案内された。

 ラウンジには高齢の夫婦だけなので、多少込み入った会話は出来そうだけれど……さて。


「ご休憩中に時間を作って戴きありがとうございます。私はザイと申します」

「ルナード・エリスタです、私なんかに丁寧にされると恐縮ですが、どうされたのですか?」


 十歳そこらの若造に丁寧に接する所を見ると、王子関連か……

 パーティーで見た顔だから、連れ戻しに来たか?


「第二王女殿下が是非ルナード殿と話をされたい、と」

「そうですか……それは、断っても構いませんか?」


 ザイさんが目を細め、少し鋭い魔力を発した。

 隠しているみたいだけれど、中々の手練れ。まぁ私に危害は加えないとは思うけれど、若造に向ける魔力ではないよね。丁寧だけれど……交渉は苦手なのかな。いや、この目は父親がよくしていた残業だから早く帰りたい目だ。


「……断らない方が宜しいかと思います」

「そうですよね。私を連れて来るのが仕事ですもんね。では、私はもうエリスタ領行きの馬車に乗ってしまったというのはどうでしょう」


「それは、私とルナード殿が会わなかった……という事でしょうか?」

「はい、今から出ます。王女殿下が平民の男と対話したなんて、外聞に悪いでしょう?」


 こうして呼ばれて行ったとなれば、公式な場だからね。巻かせてもらわないと。


「平民、とは?」

「もうすぐエリスタ家は貴族では無くなります。その場合、私は平民……なので王女殿下が平民になる男と対話した事実が残る、ザイさんはどう思います?」


「……屁理屈ですね」

「はい、屁理屈です。だからこそ、王女殿下の未来の為に私は行かない方が良い。他の貴族を焚き付ける燃料になりたくはありませんし」


「ほう。その歳で未来を見据えますか」

「これでも、エリスタで生き抜いた人間です」


 ザイさんの眉がピクリと動いた。

 エリスタで生き抜くとは、今は使われないが昔この国で流行った言葉。

 死と隣り合わせの状況で生き抜いた者が言う台詞だ。それだけエリスタが過酷な環境だった事を意味する。

 今は平和だよ、公式ではね。


「私の方がルナード殿と対話をしたいと思ってしまいましたね。おっと、これは内密に」

「はははっ、私たちは会っていないので、何を言っても構わないのではありませんか?」


 そこで初めてザイさんは笑った。

 これでミルル王女との会話は回避できたかな。

 ルナードとしてはもう城なんて行きたく、ないからね。

 ザイさんが懐から出した懐中時計を出し、時間を確認すると……足を組んで、少し雰囲気が変わった。

 こっちが素、かな。

 指をパチンと弾くと、結界が……これは声が漏れないようにする魔法か。


「これから平民になるのなら、ここからは敬語は不要かな。何を言っても良いみたいだし」

「えぇ、もちろん。今の方が素敵ですよ」


「ありがとう。ルナードも、地味だが格好良いぞ」

「地味は余計ですよ。何が聞きたいんです?」


 もうザイさんは仕事って雰囲気じゃなくなっていた。

 良いね、この仕事と普段のギャップがある人。落ち着いた雰囲気なのに、ちょっと悪い感じ……

 大人の男性と向かい合うと、緊張するな……やっぱりまだ私は、怖いのか。


「平民になるって、どこまで知っているんだ?」

「全部です。父は母とエリスタを離れて静かに暮らそうとしていましたから、ブルース家の話は魅力的な話だったんですよ」


「そう、か。不公平だと思ったんだが……納得しているなら、良いのか」


 簡単に言うと、私の家……エリスタ家は代々続く辺境貴族だったが、魔物が強過ぎて爺さんの代辺りから嫌気が差していた。そこにブルース家という迷宮資産に目を付けた野心家が、周りの貴族を味方にしてエリスタ家の領地をあの手この手で徐々に自分の領地にしている……もうそろそろ領地の基準を下回ってエリスタ家は解体という感じ。

 私が家を継ぐ気が無いと言うのが一番の要因だけれどね。

 嫌だよ、むさい男達に囲まれて魔物討伐の日々なんて。

 私は、可愛いものに囲まれていたいのさ。


「領地が減る度に両手を上げて喜んでいましたね。ここでしか出来ない話ですが」

「全くだ。平民になったら、どうするんだ?」


「一応気が向いたら働きますよ。学院に行く意味も無いですし、働くとしたら討伐者になるか、探索者になるか、ですね」

「そうか。もしよかったら、俺の所……暗部に来ないか? 騎士団長をぶっ飛ばしたんだろ? 強さは十分だ」


「ハンデ有りでしたがね。暗部ですか……何をするんですか?」

「護衛が主だな。偵察もするし、暗い依頼もある。素質がありそうな奴をスカウトしているんだが……どうだ?」


 暗部か……地味なルナードにはピッタリの職業だな。

 でもなぁ……それなら女子として社会に出たいんだよ。

 可愛い子とキャッキャウフフしながら仕事したり買い物したりしたいのだよ……女友達が欲しいんだよ。それは暗部じゃ出来ないのだよ。


 憧れのメイドさんになりたい願望はあった……

 洗練された佇まい、可愛い制服、可愛い女の子……荒くれなおっさんがひしめくエリスタとは違う生活がしたかった。実家にメイドさんが居なかったから尚更なんだ。

 城のメイドなんて花形、私の理想だ。

 でも……私にはやるべき事があるから到底無理なんだよなぁ。


「保留でも良いですか?」

「良いぞ。いつでも待っているさ。ところで、その眼鏡…魔導具か?」


「はい。素顔は有名なんですよ」

「へぇ、見せてって言えば見せて貰えるか?」


「良いですよ。もうすぐ隠す必要は無いので」


 周りを確認、誰も、見ていないかな?

 スチャっと呪いの眼鏡を外し、また戻す。

 私の素顔を見て、完全に硬直していた。

 本当にこの眼鏡の機能だけは素晴らしいな。迷宮産のアイテムで、地味な顔に変わる。残念な呪いが付与されているけれど、常に顔を変えられていられるなんて権力者が喉から手が出る程に欲しがるよね。

 因みに強い魔法を使う場合は壊れるから眼鏡を外さないといけない。まあ上位の魔物が居ない限りは下位でも充分だよ。

 この前壊したがなっ。


「……ははは……まじか。合成魔導士クルル……エリスタ一族だったのか」

「じゃあ、失礼致します。また話をしたかったらエリスタに来て下さい。いつブルース領になるかわかりませんけれど」


「あぁ、今度視察の護衛で初めてエリスタに行くから、その時にはお手柔らかに」

「視察……了解しました」


 視察か、また領地が減るんだな。早く平民にならないかなぁ。

 少し寂しいけれど、領主が変わるだけでみんなが居なくなる訳じゃないし。


「ところで、俺にそんな大事な事を言っても良いのか?」

「はい、私は人を視る()は確かなので」


「……なるほど、ますますお前が欲しくなった」

「あら、プロポーズですか?」


「何言ってんだ? 男には興味無い」

「ふふっ、では帰ります」


 さぁ、帰るか。立ち上がり、一礼するとまだ話し足りない様子で見ていた。


「ちょっと待て、本当に今帰るのか? もう定期便は無いぞ」

「帰りますよ。私、学院は実家通いだったので」


「実家? それこそ何言ってんだ? エリスタ領は定期便で片道一ヶ月……まさか……伝説の……」

「はい、走って数時間で着きます」


「走って着くのかよ! てっきり転移魔法かと思ったわ!」

「何を言っているんですか? 古代魔法なんて使えませんよ、私は」


 何言ってんだ合戦をしている場合ではないのだよ。

 そろそろザイさんの様子を見に誰か来そうだから、カウンターでもう帰る旨を伝えて宿を出る。

 すっかり夜だな。

 まぁ、夜中にエリスタに着いたら討伐者のオッサンに出くわす危険があるので、明け方に着く速度でのんびり帰ろう。


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