今は子供だから、一緒に居られるのかもしれない
ルナードになって討伐者ギルドに顔を出してみると、セリアがテーブル席に座っていたので対面に座って地味顔を眺める。
今日も地味だな。
「ねえルナード、今日は虫に挑戦してみようと思うの!」
「がんばー」
「もっと驚いてよ。私が虫に挑戦するのよ?」
「そんな地味顔で言われてもねぇ……」
「はっ、地味男に言われたくないわね」
「それもそうか。そういえば私たち地味カップルで有名なんだよ」
「ははっ、照れるわね」
「そうだねー」
お互いの素顔は知らない。お互いに顔を隠している事は解っているけれど、それには触れない。触れたら、この関係が終わりそうで……セリアもそう思っていると思う。
学院では遭遇していない、学年が違うし、きっとセリアは学院では素顔で過ごしているから。
本当のセリアには、ルナードは近付いちゃいけない。学院の友達なんて沢山いるだろうから地味な男と友達なんて、ね。
お互い顔も名前も知らないのに友達なんて……なんかおかしくて、だからこそお互いに素で話せるんだけれど……実は、セリアは、二人いる。
二人というか、セリアは二回に一回は誰かと入れ替わっているんだ。
話した内容は一緒だし、話題も変わらず一緒だし、魔力も顔も話し方も一緒。でも、違うセリアの時がある。
きっと共通の魔導具を使って私に会っているんだろうけれど……それを聞いても、もう会えないんじゃないかって、不安になってしまう。
「早速行きましょ」
「うん、今年も実地訓練あるんでしょ?」
「まぁね。去年はルナードのお蔭で恥をかかなくて済んだし、アクアバードの他にも出来るようになったわ」
「ははっ、どういたしまして。でもセリアなら私が居なくても出来たと思うよ」
「買い被りすぎよ。私はそんなに強くない」
「強くないと言えるのなら、エリスタでは生き残れるね」
エリスタから学院に通っている事は伝えてある。半信半疑だったけれど、いつか一緒に行ってみたいと言ってくれた。
それはどっちのセリアだっただろうか……
王都から出て、ゴブリンを倒した林に向かう。今日は尾行があるから、最初に会ったヘタレの弱セリアかな。尾行が無い時は、違うセリアの時だ。
恐らく、尾行している人がもう一人のセリアだと思うけれど、どうだろ。
「……あのさ、噂で聞いたんだけれど……エリスタの領地が減っているって、本当?」
「本当だよ。最近どんどん減っているんだ」
「……そっか」
「珍しく心配してくれるのかい?」
「まぁね。友達の人生が変わるかもって思ったら……」
「領地が無くなっても、平民になるだけだよ」
「相変わらずね……平民になったら、どうするの?」
「討伐者として働くか、旅行にでも行くかなぁ……」
「そっか……ご両親は?」
「親は私を置いて二人で旅行に行くんだって。呑気なもんだよ」
父と母は領地が減る度に喜んでいる。全く、変わり者だよね。まぁ気持ちは解るよ、月に何回かは魔物の氾濫が起きるし、特に仲の良い人もお隣さんくらいだし、荒くれな討伐者が多いし、王都の調査官は融通効かないし、借金も返し終わって迷宮のお宝を溜めてお金に困っていないし。
「あのさ……もし、私が雇うって言ったら……いや、忘れて」
「……セリアのお世話は苦労しそうだね」
「別にお世話して貰いたい訳じゃないわ。もういい、この話は終わり」
「はいはい、ほら芋虫だよ。倒して」
「……ウインドカッター」
ウネウネと動く芋虫を、遠くから風の刃で斬り刻む。
ぶしゃっと体液が飛び出して、セリアが顔を青くして後退り……虫は嫌いだからなぁ。
「よく出来ました。魔石を出したら終了だよ」
「……むり。きもい」
「殺しておいて放置? 芋虫を食べる虫がやって来るよ」
「それも嫌ぁ……ルナード、お願いぃ」
「まぁ仕留めるだけ進歩したから、良しとしようか」
「ぅぅ……ありがとう」
無理して討伐しなくても、良いのに。
私に見限られるのが怖いのか、プライドなのかわからないけれど、魔物を倒せなくてもセリアの事は好きだ。
もちろん、もう一人のセリアも好きだよ。
弱セリアの付き合いだとしても、形だけでも、地味な私と友達になってくれているんだから。
「……」
「……何しているの?」
「土属性の練習をしていてさ……出来た」
「人形? 地味な顔ね」
前に手に入れた土属性の適性で、石人形作りに挑戦していた。最初は人の形をした何かだったけれど、今では上達して売り物レベルなのだよ。なんたって色付きだからねっ! 頑張ったよ!
「セリアを作ってみた。地味でしょ? あげる」
「あぁ、うん、ありがと……」
「あっ、いらなかったら捨てて良いけれど、私が見ていない所で捨ててね」
「ばっ、捨てる訳ないでしょ! 大事にするわ。あのさ、もう一つ……作ってくれない?」
「うん、良いよ」
石を魔法でねりねりして、地味顔の人形を作成。
顔がほとんど線と点だから直ぐ出来るね。ついでに私の地味人形をプレゼント。
こんな地味人形でも喜んでくれるなんて、変わり者だな。
「へへっ、ありがと。もし、他の人が頼んでも作ったりするの?」
「気分によりけり、だね。嫌いな奴には作らないし」
「そっか、ルナードは友達居ないから当分作りそうに無いね」
「はっ、セリアに言われたくないよ」
「はははっ、それもそうか」
この関係は、いつまで続くのだろうか。
歳を重ねれば重ねる程、お互いに、無理が出てくる。
今だって、セリアは身代わりを使わないと私と毎週会う事が出来ない。
そんなに無理をして会おうとしなくても、私はセリアを嫌いになんてならないのに。
「上達したら、また押し付けるから貰ってね」
「あら、期待しないで待っているわ。あっそうだ、アクアバード三羽出来るようになったわよっ」
「ほう、見せてもらおうか…その自信満々の魔法とやらをっ!」
「はっ、そう言われたら自信は無いわっ!」
はぁ、どうしてだろう。
大人になったらセリアにもう会えないかもって想像するだけで、胸が痛いんだ。
だから、その時が来るまで、セリアに魔法を教えようと思う。私には、これくらいしかしてあげられないから。




