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嘘吐きエリスタの最後の嘘  作者: はぎま
王都学院編
19/336

挿話、アルセイア・ヴァン・シンドラ

ちょっと長くなっちゃった(゜ω゜)

 

『きったね』『病気が移る』『こっち見んなや』『はっ、お前の事好きなんじゃね?』『まじ気持ち悪い事言うなよお前殺すっ!』

『『『はははははは!』』』


 あぁ……またあの夢だ。


『早く学校に行きなさい! あなたにどれだけお金を掛けていると思っているの? 虐め? あなたが暗い顔をしているからじゃないの!』

『そうだな、虐められる方にも問題があると思うぞ?』


『そんな事言ってないで早く行きなさい!』


 孤独だった。

 これから先も、孤独……私の行く道には、何も無い。誰も居ない。居るのは私を傷付ける道化だけ。

 だから、私は、最期の言葉を書いて……自分の命を絶ったと思う。思うと言ったのは、記憶が曖昧だから……


「アルセイア様っ、アルセイア様っ、大丈夫ですか?」

「はぁ、はぁ、はぁ……大丈夫……いつもの、だから……」


「また、あの夢ですか?」

「えぇ……心配掛けて、ごめんね…リリ」


「謝らないで下さい。アルセイア様はご自身の事だけ、考えて下さい」

「…いつもありがとう。リリだって、自分の事考えて良いのよ? 友達も作らないで……この先心配よ」


「私が居る事でアルセイア様が少しでも安心出来るのなら、とても幸せです。私はそれだけで良いんです」


 私はヴァン王国という国の、王女として生まれた。

 生まれ変わったと言うべきか、いや……もしかしたら長い夢を観ているだけなのか、観ていただけかも知れない。

 だって、私なんかが王女だなんて、ブスで虐められていた私がこんなに可愛い王女に生まれ変わるなんて、笑っちゃうから。


「もう、そういう事じゃないのに。あら? その箱、なぁに?」

「あっ、これは……以前、王都を自由に歩きたいと仰っていたので……勝手ながら取り寄せた魔導具です。ファイアロッドの大迷宮で見付かった品ですよ」


「……ありがとう。見ても良い?」


 リリは、私と同い年の専属侍女。

 私が三歳の時から一緒で、もう九歳だからもう六年の付き合い……私にとって唯一心を許せる人だ。

 だから話してある……前世の記憶がある事を。

 リリは片目が特殊な目…魔眼を持っていて、目で見た事の共有が出来る不思議な魔眼。普段はその魔眼を髪で隠して半分以上顔が見えないから、もったいないなって思う。リリ…凄く可愛いから。

 リリから受け取った箱の中には、赤いイヤリングが入っていた。


「効果は、顔と魔力が一定値に変化します。だから、王都の者にアルセイア様だと気が付かれる事はありません」

「着けてみるね。あっ……凄い……リリっ! 凄いよっ!」


「気に入って貰えて良かったです。注意点がありまして…」

「うんっ! リリっ! 大好きっ!」


「あっ、うっ……」

「普通の生活、してみたかったの……リリ? 顔真っ赤よ?」


「あ、あの……そう、簡単に大好きなどと、言われたら……胸が、痛くて……」

「だって、リリの事大好きだから……ちゃんと伝えたいの」


 正直、前世は一般人だった私にとって王女なんてただの重圧だ。

 先の未来は決められているけれど、今は自由で居たい……その思いが強かった。リリだけが、私の気持ちを知っている。


 それから、このイヤリング……素朴の耳飾りを着けて王都を回った。凄かった、誰も私を王女と思わない。ただの女の子として扱ってくれる……リリは私の後方で見守ってくれるから、安心して楽しんだ。


 それから一ヶ月経って、学院で魔物の討伐をすると聞いた。王女も例外ではない。

 魔物……討伐出来なかったら、馬鹿にされるかもしれない。前世の記憶が、頭を過った。

 予習をしなきゃ……そう思ってリリに相談したら、一度経験してみようという事になったけれど……


「リリ……どうしても来てくれないの?」

「……はい。私が側に居ると王女だとバレてしまいます。アルセイア様なら、直ぐに出来ますよ」


「……わかった」

「誰か付き添いを頼めたら良いのですが……この事がバレたら大変なので……」


 そうだ、バレて父の耳に入ったとしたらこの魔導具は没収されてしまう。

 一人でやらなきゃ……でも、怖いなぁ。

 とぼとぼと大通りをあるいて、討伐者ギルトで情報でも見よう。どんな魔物か知りたいし……

 恐る恐る討伐者ギルドに入ってみると、意外と綺麗な印象。

 あのボードを見れば良いのかな?

 ……隣の地味な眼鏡の子が邪魔だな。こんな子も来るの?


「ねぇ、私も見て良い?」

「あっ、すみません」


 退けてもらい、ボードを見る……うん、見方がよく解らない。

 そうだ、今の子に教えて貰えば良いか。


「……あなた、討伐者なの?」

「ええ、一応……な、なに?」


 ……なんだ、この違和感。

 年齢に合っていないサイズの眼鏡、リリみたいに魔力を抑えている。


「本当に討伐者?」

「うん、これ討伐者証」


 ルナード・エリスタ……エリスタは確か、名前だけの貴族って聞いた事がある。まぁ、身元はしっかりしているか。ルナードなら、リリも怒らなさそうだし。


「……ふぅん、ちょっと来て」


 教えて貰おうとテーブルへ歩いたけれど、付いてこない。


「……来なさいよ」

「いや、いきなり来てって言われても…」


「手伝って欲しいのよ」

「何を?」


「それを今説明しようとしていたのよ!」

「短気は損気って言うよ」


 なんだこいつ。話し掛けちゃったから最後まで話をしないといけないけれど、面倒そうだ。


「地味な癖に面倒な奴ね……良いから来てよ。お願い」

「今のしおらしい感じが可愛いね」


 本当に、なんだこいつ。

 素朴の耳飾りの効果は、男に見向きもされない。だから可愛いとか今まで言われる事は無かった。

 顔、ちゃんと変わっているよね?


「……自己紹介するわね。セリアよ」

「ルナードだよ。よろしく」


 その後は、軽く話して一緒に魔物を倒してくれる事になった。

 頼りなさそうだけれど、いざとなればリリが居るし…大丈夫でしょ。

 いや……実際は大丈夫じゃなかった。


「はぁ、はぁ、はぁ……」

「うん、おめでとう」


「あり、がとう」


 なんとか、なんとかゴブリンを殺した。でも、駄目だ……身体が震える。命を奪う事が、こんなにも辛いなんて……自分で自分の命を奪った癖に……私は、臆病者だ。

 ルナードが私の肩に手を当てて、絶対大丈夫…と呟くと、何故だろう……震えが止まった。


「ところで、どうして魔物を討伐したかったの?」

「実は、今度学院で討伐訓練があって……予習したかったのよ。いざ魔物を倒せなかったら恥ずかしくて……」


「じゃあ、三年生か。感想は?」

「最悪。こんなに辛いだなんて……という事は、ルナードも学院に?」


「うん、一年生だよ」

「一年……弟と一緒……はぁ、自分が情けないわ」


「命を大事にしている証拠でもあるよ。慣れてしまうと感覚が麻痺しちゃうし」

「……なんか、あなた凄いわね」


 凄いなぁ……私なんか王女という肩書き以外に取り柄が無い。

 ルナードは私よりも大人だなぁ。


「学院では秘密にしてね。私は学院で地味な生活を送っているから」

「ふふっ、もちろんよ。あの……もう一つお願いして良い?」


「良いよ。私もお願いがあるんだ」

「じゃあ年上として先に聞いてあげるわっ」


「セリア、才能あるから……良い魔法を教えたいんだけれど……どうかな?」

「魔法?」


「うん、私は言ったよ。セリアは?」

「あぁ……あの、私は、その……と、ともだちになって、欲しいな……って」


 折角、一緒に魔物を倒してくれたから、見守ってくれたから恩返ししたい。

 なんだろう、変な気持ちだな……また会いたいと思っている。


「……」

「いや、嫌なら良いのっ。忘れてっ」


「うん……なる」

「えっ?」


「友達、なる」

「……ほんと? へへっ、よろしく」


 前世でも、今世でも、友達なんてほとんど居なかったから、嬉しかった。

 ルナード、初めて笑った……なんか、心が温まる。


「こんな地味な奴と友達になりたいなんて、セリアは変わり者だね」

「私も地味だから、なんか親近感?」


「ははっ、なにそれ」

「別に良いでしょ。よろしくっ、ねえねえ魔法ってなに? 教えてくれるの?」


「うん、実は水魔法も使えるんだ。セリアに教えたいんだけれど……こんなのとか?」

「わぁっ……」


 綺麗な魔法……水の鳥が、木を真っ二つにして……ルナードの肩に乗った。こんなに素敵な魔法も、あるんだ……

 ルナードは色々な事を知っていた、学院で学ばないような魔法の事や魔物の事。

 気が付いたら時間を忘れていて、待っているリリに申し訳無かった。


 連絡を取り合う手段は無い。

 だから週末に会えたら一緒に過ごす事を約束した。




「アルセイア様……確認の為視せて下さい」

「うっ……わかったわ」


 あの後一応、リリに今日の事を視せる事になった。

 隠していた魔眼と目を合わせる……

 ……こうして目を合わせると、リリが私の記憶の断片を視る事が出来る。逆も出来るから、お互いにあまり隠し事が出来ない。

 本当に視せたく無い事は視られないけれど、リリに隠し事はしたくないから……


「アルセイア様……私は激しく嫉妬しています」

「なっ、なんで?」


「ルナードは、アルセイア様を感動させました……凄く、悔しいんです」

「いや、あの魔法は、感動するでしょ?」


「だから悔しいんですっ! なんなんですかあの魔法制御はっ! 化け物レベルですよっ!」

「そ、そんなに?」


「だから少しルナード・エリスタを調べてみます」

「えっ、駄目よ。ルナードにバレたら友達辞めるって言われちゃう。折角綺麗な魔法を教えてくれるのに……」


 リリが泣きそうに眉毛を下げて、落ち込んでいる……そんなに、悔しいのかな……私は凄いとしか思わなかったから……


「悔しいです……私にはあんな制御は出来ない……」

「……それなら、リリもルナードに習えば良いのよ」


「私も、ですか?」

「私はお茶会やパーティーで毎週は会えない。だから私が行けない時だけリリがセリアとしてルナードに会って」


「えぇっ! 無茶ですよっ! 顔と魔力が同じでも仕草や喋り方でバレます!」

「うん、だから……特訓しましょ? 折角記憶を共有出来るのだから、ね?」


「きっと直ぐにルナードにバレますよ」

「バレたら、二人で謝る。もう決めたの。リリもルナードにあって欲しいから」


 馬鹿な事だって解っている。

 でも、リリも会えば解るから。

 ルナードは、他の子と違うから……また会いたくなるって。



 次の週末……私は昼から城の立食パーティーに参加しなければいけなかったから、リリがルナードに会いにいった。

 どうなるかな、バレたかな? って気になって気になって仕方がなかった。

 だからパーティーの内容はあまり覚えていない。学院で同じ組の人が居たけれど、リリの事を考えていたから話す事も無かった。

 リリ……予定よりも、遅いな。

 休憩室でため息を吐いた時……リリが戻って来た。

 無表情だけれど……なんか、嬉しそう?


「ただいま戻りました」

「リリっ、どうだった?」


「……バレていると思います。でも、彼はそれに触れませんでした」

「それは、どうしてかしらね? 言いそうな性格なのに……」


「あと……彼も、顔を変えていると思います」

「えっ、そうなの?」


「はい、あの眼鏡は魔導具です。耳飾りと同じ感じがしました」

「……気に、なるわね」


「はい、なので……お互いに素顔を知らない友達…という事になります」

「ふふっ、なにそれ。変な関係ね。ルナードに会ってみてどうだった?」


 リリが目を閉じ、少し考える仕草をした。

 仲良くやれそうかな?


「彼は…本当に七歳なのですか?」

「えっ、どういう事?」


「あまりにも、大人びています。初等部であんな態度を取れる男子がいるのかと思いました……完璧なのですよ……男としてというか人として……不覚にも、ドキドキしてしまいました」

「……なんか、凄く気になる……私に見せて」


 リリがドキドキ? 初めて聞いたわ。

 もちろん直ぐに魔眼と目を合わせた。

 地味な顔のルナードが、魔法の操作を教えてくれている……

 ん? どこにドキドキ要素が?

 ……リリ、さては見せない気ね。


「「……」」


「リリ、見せなさい」

「……申し訳ありません。恥ずかしいので勘弁してください」


「駄目よ。私とリリの二人でセリアなのよ? 見せなさい。見せないと……次ルナードに会った時にまた同じ事してって言う」

「くっ……わ、わかりました」


 再び、リリの魔眼を見詰める。

 ……頭に情景が浮かんできた。


『上手く…出来ないわ』

『焦らず、ゆっくりね。水球を維持して、そのまま……少し形を変えて』


『こう? あっ……』

 ──パァン!

 水球の維持に失敗して、ルナードが水浸しになった。

 頭から水を被ってぽたぽたと水が滴り、リリが慌ててハンカチで拭こうとして、ルナードが断った。


『私は火属性が使えるから、直ぐに乾くよ。もう、セリアは帰る時間じゃないかい?』

『ご、ごめんなさい……乾くまで、居るから。少しくらい帰るのが遅れても大丈夫だから』


『そっか……それなら予定よりも少し長く君と居られるね』

『……どうして、怒らないの? 水浸しになったのに……』


『君の手は、魔力経路が少し荒れている……これは凄く努力をしている手だ。私は、努力をしている人を怒るなんてしないよ。ほら、手貸して』

『……』


 リリが俯きながら言われるがままに手を出すと、ルナードがリリの手を取って魔力を通し始めた。

 ルナード……優しいな。えーリリ良いなぁ……


『あぁやっぱり……毎日許容範囲を超えた魔法の使い方をしているね。魔法を使う度に少し痛いでしょ? 治しておくから』

『ありがとう……あぁ、温かい……』


『焦って訓練しても逆に悪くなるからね。どうせ次に会った時にも無理な訓練をしていそうだから、また治すよ』

『……うん。でも無理なんて……』


『無理なんてすれば良い。生きてまた会えるのなら、どんなに魔力がボロボロになっても治してあげるから、気の済むまでやれば良いよ』

『そんな事……初めて言われた』


 ……ルナードが恥ずかしそうに笑って、治療は直ぐに終わった。

 その後は、ルナードの服が乾いて解散……今に至る、か。

 リリの顔が赤い……本当に恥ずかしいのだろう。


「リリ、確かにルナードは完璧ね」

「はい、今もドキドキしています」


「……ルナードの事、好きになった?」

「えっ? いや、それは、ないです。アルセイア様が一番ですから」


「……じゃあ、セリアはルナードの事、好きかしら?」

「……そうですね、好きだと思います」


 リリ、まさか……本当に好きになった?

 いや、リリに限ってそれは無いか。まだ恋愛なんて意識しない歳だし。

 私は、前世の記憶がある分もっと大人にならないと、駄目な気がするな……でも、お互いに本当の顔で会えたなら……嬉しくて好きになっちゃうかもね。





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