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嘘吐きエリスタの最後の嘘  作者: はぎま
ノースギア編
182/336

変ではない、個性的なのだ

 

 次の日の夕方、住所を頼りに貴族街に来ていた。

 北区役所で保証人申請をした後に宿で昨日の夜からレド試験の勉強をしていたが、専門用語が多くて中々進まなかった。

 これはまじでプライドを捨ててレグセントに教わった方が良いのかもしれない……そう思ってノーザン公爵家に行こうとしているのだが、普通に迷った。

 だって似たような家多いんだもん。

 だってだって門番さん怖いんだもん。

 なので巡回の騎士さんを探す事にした。


「あっ、すみませーん」

「ん? どうした?」


「ここの住所の人に呼ばれたのですが……道に迷ってしまって……」

「見せてみろ。ノーザン公爵家か、付いて来なさい」


 ヒゲの騎士さん怖いわ。

 ビクビクしながら着いて行くと、さっき通り過ぎた場所に来た。

 あっ、ここね。

 家くっそでけえな。

 高級宿並みじゃねえか。

 何部屋あんだよ。なんか腹立つ。


「ありがとうございました」

「構わんよ。じゃあ」


 ……クールなイケおじってやつね。

 騎士さんを見送り、門番さんに身分証を見せた。


「ルクナと申します。レグセントさんに呼ばれて来ました」

「確認して来る。しばし待て」


 ……門番さんが扉の方へ行き、また戻って来た。


「確認が取れた。ようこそノーザン公爵家へ」

「お邪魔しまぁす」


 門番さんの急に雰囲気が柔らかくなるの怖い。

 案内されて門番さんが扉を開けると、ロビーに階段……一階全部が玄関という金持ちの景色だった。

「やぁルクナっ! 来てくれてありがとうっ!」

 レグセントが二階から降りてきた。学校帰りなのかブレザーにチェックのズボンの制服姿だった。第一学校とは違うから中央区の王都学院かしらね。


「……金持ちですね。恨めしいです」

「……面と向かってそんな事を言われたのは初めてだよ。正直者って言われない?」


「言われません。友達居ないので」

「……ごめん」


「今私を可哀想と思ったのなら帰ります」

「いやいやそんな意味じゃないよっ! 見当違いでごめんって意味さっ!」


 まぁそれは良い。

 早く妹ちゃんに会わせるのだ。


「今、妹さんはいらっしゃいますか?」

「あ、あぁ、案内するよ」


「お名前は?」

「モニカだよ」


「魔法をという事ですが、具体的には?」

「氷魔法が苦手というか……適性が無いんだ……色々な先生に見てもらったけど、上達しなくてさ。モニカも塞ぎ込んじゃって」


 それならノースギアでは生きにくいだろうな。クラスメイトとも馴染めないのだろう。

 母曰く、レドになれないノウドの女は他国に嫁ぐ……貴族界ではよくある話らしい。


 ──コンコン。

「モニカ、今日は凄い人に来てもらったんだ。入って良いかい?」

「……凄い人?」


 扉の向こうに、小さな声が聞こえてきた。

 辛うじて聞こえる声は元気の無い声だった。

 だが美少女の声だった。

 わかるよ美少女の声……なんたって私には美少女センサーなるものが搭載されているような気がするからねっ!


「そうっ、モニカの一個上で僕より凄い氷魔法を使うんだっ。モニカを見てもらおうと思って」

「……どうせ、にぃに目当てで来ただけでしょ。放っておいて」


「そんな事無いって。昨日レドの試験で会ったばかりで頼み込んで来てもらったんだっ。会うだけでも良いからっ、お願いっ」

「……いい、帰ってもらって」


 ふむ、兄妹ってこんな感じで会話するのか。

 身近にあったセイランとカサンドラの殺伐とした会話が印象的過ぎてね。セイランさんは句読点代わりに殺すとか消えろとか平気で言うやべえ妹だから。

 にぃにって可愛い。もう一度言うが、にぃにって呼ぶの可愛い。


「レグセントさん、私は必要無いようなので帰ります」

「まっ、待ってっ! せっかく来てもらったのに直ぐ帰すなんて出来ないよっ! 会ってもらえるようにするからっ、お願いっ!」


「では十秒以内にお願いします。1、2、3……」

「あぁぁモニカっ! お願いだっ! 開けてっ! ルクナが帰っちゃうっ!」

「……」


「……9、10。時間切れです。それでは失礼します」

「くっ……」


 くっ……って泣きそうなのウケるのだが。


「……」

「……ルクナ? 帰らない、のかい?」


「あぁレグセントさんの反応が面白くてこの後どうするのか期待していたのですが、普通でしたね」

「ふ……普通? け、結構酷い事言うね」


「は? 普通が酷い? 普通にもなれない、普通に友達が出来ない人はどうなるのです?」

「そういう意味じゃないっ。普通が嫌いなだけだっ!」


「どうして普通が嫌いなのです?」

「え? どうしてって、なにも特徴も無いって事だろ? 普通の生活ってつまらないじゃないか」


「わかっていませんね。普通に過ごせる事がどんなに幸せか……私は親と一緒に街を歩く事さえ出来ませんでしたよ」

「……」


 ふんっ、やっぱりおぼっちゃんとは話が合わん。

 いざ帰ろうとした時、ガチャ……と扉の鍵が開いた。

 ゆっくり扉が開き、隙間から覗いた青い瞳と目が合った。

「……変な眼鏡」

 そう言ってパタっと閉まって、中から笑い声が聞こえてきた。


「……モニカ?」

「くくっ、にぃに、くふっ、変な眼鏡と喧嘩してる……変な眼鏡に、ぐふっ、言い負かされてる、くくっ」


「……」

「モニカちゃんは私の勝ちだと言っています。なのでこの勝負は私の勝ちです」


「僕は、負けたのか……」

「にぃに負けたっ、変な眼鏡に負けたっ、くくく……」


 笑われてんぞ。

 私も笑っておこう。はっはっはー!

 なんか知らないけれどめっちゃ悔しそう……


「なんで悔しそうなのです?」

「だって、負けは負けだろ……」


「そうですね。じゃあ満足したので行きますね」

「あぁ……」


 カチャッとまた開いて青い瞳が覗いたので、レグセントに見えないように眼鏡を外してウインクすると、パチパチと瞬きをして私をじーっと見詰めていた。


「モニカちゃん、次は私だけ入れてくれる?」

「……うん」


「ふふっ、ありがと。じゃあね」

「ま、待って」


「ん?」

「明日、待ってる」


 やった。

 笑顔で返して眼鏡を掛け直し、レグセントを見ると明らかに不機嫌だ。

 私が妹ちゃんの心を開いたのが悔しいかい? ほっほっほ。


「モニカちゃんに招待されたので、明日また来ます」

「……わかった」


「では失礼します」

「……ルクナ、僕は君の事を知らないけれど、これだけは分かる……僕たちは相性が悪い」


「今更気が付いたのですか? 私は最初からわかっていましたよ」

「くっ……また明日なっ!」

「くくっ、にぃに悔しがってる……」


 しっしとされたので、後ろ手にバイバイをして無駄に広い玄関に降りた時……貴族服のオッサンが入ってきた。

 レグセントの父親、ノーザン公爵……かな。


「おや? 息子の友達かい?」

「いいえモニカちゃんのお友達のルクナと申しますっ! 今日はモニカちゃん調子が悪いようなので明日また伺いますっ!」


「おぉモニカの友達かっ! わざわざありがとう」

「いえいえ、では失礼しますっ!」


「元気な娘さんだな……変な眼鏡だが」


 ちゃんと上に聞こえる大きな声で元気よく答えた。

 好印象で良かったよ。

 でも変な眼鏡って聞こえてんからな。

 母はこの変な眼鏡で10年過ごして来たんだぞ?

 10年だぞ?

 そんな娘のメンタル舐めんなよ。

 変だと言われようが掛け続けてやるからな。


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