国はエリスタが居なくなったら、誰に頼るのかな
父はいつも新人討伐者が使うような安物の剣を使う。
剣を極めたら、安物だろうが業物だろうが関係ないという理論らしい。
きっと節約癖が付いているから良い剣は使いたく無いんだね。
でもよぉ、娘の為に良い剣を渡したいという気持ちは無いのか? この剣ボロボロじゃねえか。
『キシャー!』
っと考えている暇は無い。今の内に解析をしないと……
「解析の魔眼」
魔眼……実は魔眼を持っている。いつの間にか出来るようになっていた……きっと迷宮核の効果だと思う。
名前や効果、性能だったりその時によるから視えるものは決まっていないけれど、カマキリはデスシックルという名前。こういう場合は解明の魔眼と言っても良いんだけれど……解析らしいよ。
指で小窓を作らないとうまく視えないから戦闘中は不便だし、地味眼鏡着用中は使えないから制限が多い。能力的に魔眼にランクがあるとしたら、私の魔眼は下位の中でも下かな。
まぁでも私にはこれがある。
青い魔法陣と白い魔法陣を合成させて剣に固定。
「魔法合成・清流光剣」
ボロボロの鉄の剣が青白く光り、三メートルの長剣に変化。
私にとって、こうやって軸さえあればボロい武器でも問題は無い。魔法剣という魔法の分類ではある……多分。
という事で剣を水平に構え……横凪ぎに振るうとカマキリに向かって斬撃が飛んで行った。
『シャー!』
流石は上位の魔物。両手の大鎌を振り下ろすと……
――ガキィ! と耳に響く音を響かせ、斬撃は四散。
その隙に氷魔法で階段を作成。駆け上がって真上から赤い魔法陣を向けた。
「フレイムランス」
細長い炎がカマキリに着弾。
挑発だからダメージは無いだろうけれど、もうひとつ黒い魔法陣をその場に固定して即後退。
来たっ、カマキリがジャンプして大鎌を振り、黒い魔法陣がカマキリに重なった。
『キシャッ!』
「掛かったね。ブラインドカース」
闇魔法で盲目の呪いを付与。視界は塞いだ。
フレイムランスで周囲の温度を上げたから、熱感知と魔力感知は出来ないし、音さえ立てなければ私の場所は解らない。その音も、氷の階段の崩れる音で掻き消されるから……攻撃し放題なのだ。
「ひっさーつ!」
あっ、調子に乗ったらこっち見た。
ちょっと移動……よし、ひっさーつ!
青い魔法陣と、白い魔法陣を清流光剣に重ねる。
「天より光の雫が落ちた……ただひたすらに、真っ直ぐに、一直線に、大地を貫く。合成剣技・天海の雫」
魔法陣が剣に吸い込まれ、青白い剣が輝きを増した。
あとは、斬るだけ。
カマキリに向かって振り下ろすと、上空から青く光る針のような短剣がカマキリの脳天から突き刺さり……大地に消えて行った。
そこから一気に距離を詰めて腹に一閃。見事に身体が上下に分かれた。
うん、良い感じに決まった。
やっぱり接近戦は苦手だなぁ、汁が飛び散るからきちゃないのよ。
「ルクナ、お疲れ様」
「うん、でも剣折れちゃった」
「予備があるから気にしなくて良いぞー」
予備?
……良い剣じゃねえか、それ寄越せし。
私がピンチになって間一髪で助ける父親みたいなのをしたかったのか?
母が居る時は格好付けようとするから有り得る……きゃー格好良いとか言われたかったのなら残念だったな。
私が目論見を潰してやろうっ!
「お父さん、なんでボロボロの剣渡したの?」
「えっ? たまたまじゃないか? あっ、あれって迷宮跡じゃないか?」
「そうねぇ。こんな攻略の仕方を見つけるなんて、流石私達の娘ね!」
「ふーん、まぁ良いや。じゃあっ、あれ貰って良い?」
「もちろん良いわよっ」
「どんな力になるかな?」
私の質問から逃げた父が山のあった場所に虹色に光る石を発見して、渡してくれた。
父と母が見守る中、迷宮の核に魔力を通す。
……あっ、属性ゲット。
「やった、土属性の適性」
「ふふっ、おめでとう」
「さぁ、帰ろうか」
月に一、二回は魔物の氾濫が起き、私達家族が魔物を殲滅する。
他の討伐者は、これの後片付けの報酬に回収した魔石や素材はお持ち帰りできるから、大体私達に任せるんだよね。
なんたって早いし安全だから、王都の軍隊だったら死人が出ているくらいの規模でもこうやってほとんど一撃で終わったりする。王都は数年に一回くらい弱い魔物の氾濫があるんだってさ……王都は数年に一回の氾濫の為に沢山のお金を掛けて訓練して、こっちに来るお金なんて無い。そりゃ嫌気が差すよね。
魔物の氾濫を抑えたら、本来なら結構なお金が入る。
でもお金が来ないのは、オレイドス公爵家が作った法律のせいだ。
『ヴァン王国法第九百条・魔物の氾濫が起きた際は、騎士団や討伐者ギルドと連携し合同で対処する。各連携が無く少人数で対処出来る場合は魔物の氾濫とはならない』
爺ちゃんの代で出来たこのたった一つの法律のせいで、国からエリスタに回るお金はかなり削られた。予算を削る為にエリスタの魔物の氾濫を無かった事にして、王都の軍備拡張をしたらしい。
これがきっかけで、エリスタ一族は国の為に働くのに、疲れてしまった。
実際お金の為じゃなくて、誰も死なせたくないから爺ちゃんは一人で魔物の氾濫を抑えていただけなのに……お金もほとんど領民の為に使って、贅沢なんかしていなかった。税金払えなくて借金も出来て……
最期は、命と引き換えに魔物を封印した。
私は今でも、国を救った英雄の墓に来ないこの国の王を許せない。
これが、エリスタの日常だけれど、こんな日常があるから、王都は平和なんだろうね。
王都の平和とは違う歪な平和で、もし私達家族が居なくなったらどうなるんだろうなんて思う。
きっと、王都は壊滅しそうだな……なんて。
ふふっ、どうなるかなぁ。