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嘘吐きエリスタの最後の嘘  作者: はぎま
ファイアロッドの大迷宮編
159/336

その言葉だけは、聞きたくなかった

 

「西塔の方へ行ったぞー! 魔法士団に連絡しろー!」

「こんな時に限って結界がいい仕事するんじゃないよ全く……えーっと出口は……っ!」


 まじかっ! 魔法攻撃が来たっ!

 私客人だよね? なんか捕まるような事した?

 風の枷のような拘束魔法を躱し、地面に近付いたら土の手が生えてきて掴もうとしてきたから上に行ったらまた風の枷が迫ってきた。

 術者は三人……風の枷を氷の刃で斬り、術者に向かってお返しの氷の檻を展開っ! 押さえ付けるっ!

「ぐぅっ!」

 一人拘束っ!

 二人目は……上かっ!


「スノーボールっ」

 空に居た術者に大きな雪をくっ付けて雪だるまの完成っ!

 重くてそのまま落ちていった。カチコチにしておこう。

 残る術者は……


「ダークチェイン」

 黒い鎖が腕に絡まる寸前で横に飛び回避した先にまた黒い鎖っ!

 はやっ! 氷の刃で……斬れねえっ!

 ギャリっと耳の痛い音が響き、堪らず後ろに飛び退く。

 高位魔道士か? ちょっと時間が掛かったらオッサンが集結してしまうじゃないか……

 術者が姿を現した……赤い髪のスラっとしたイケメン……あれ? ん? なんか見た事ある……んー?


「っ! アイスウォール!」

 後ろから凝縮された黒い弾丸っ! 他の術者……じゃない。この人、全方向から魔法を使える。


「氷属性か……珍しい」

「魔力の基点を複数扱える方も珍しいですよ。アイスフィールド」


 周囲の気温を下げていき凍り付かせる。氷属性以外の魔法は効果が弱まるから、黒い鎖のスピードは弱まるはず……あれ厄介なのよ。


「……ダークプリズン」

「上位魔法を詠唱破棄ですか」


 周囲の地面から真っ黒い鉤爪が出現。これが合わされば身動きが取れなくなるからナイフを取り出し秘剣・魔力断ちを放つ。スパスパっと……斬れねえ。魔力の密度が濃い……まぁ私の身体が小さいお蔭でなんとか一本斬れば出られるから魔力を込めてホイっと!

 ポキっ……折れたし。

 くっ格好良く対処したかったが仕方がない!

 光の魔力を込めた拳でぶん殴り、一本折ってよいしょっと脱出。


「驚いたな……殴って折れるのか……」

 イケメンはその様子を興味深そうに見ていた。

 今なら会話が出来そうかしら。


「……私を捕まえてどうする気ですか?」

「さぁ? 命令だから捕まえるだけ」


「見逃してくれたら嬉しいですね」

「こっちも仕事だから……悪いね」


「そうですか。お強いですね、私はルーと申します。あなたのお名前は?」

「……サラシャ」


 サラシャって、えっ? イシュラの姉ちゃん? 魔法士団っぽいからイシュラの姉ちゃんだよな? えっ、こんなところでこんな形で普通会うかい?

 髪が短いし化粧っ気無いし軍服だから男性にしか見えなかったよ。でも女性騎士さんは化粧していたし……いやそんな事を考えている場合じゃあない。

 早くしないとオッサン達が来るし、イシュラの姉ちゃんとなんて戦いにくいったらない。


 そもそもこの状況はなんだ?

 皇后ならこんな事をせずに最初から食事会に参加しとけよボケっ!

 むしろ昨日から接触しに来れるだろボケナス!

 テンパって思考が荒れているじゃねえかオタンコナスっ!


「あー……なんかこの理不尽には、腹立ちますね」

「皇后様だからね。きっとあなたの力を見たいだけだから、何処かで見ていると思う。大人の事情というやつだ」


 なんだよそれ。

 じゃあこれは皇后の道楽か?

 アホらしい。

 騎士達が続々とやって来た……はぁ、どうなっても知らねえぞ。


「理不尽には、理不尽で返すのが一番だと思いません?」

「この状況を覆せる理不尽ならね。あと十秒で百人集まるぞ」


「ふふっ、ふふふっ……皆さん、死にたくなければ心をしっかりと持って下さいね」


 光を空へと打ち上げ、城よりも高い光の柱を立てた。


「っ、結界展開! 攻撃魔法だ!」

「あーあ、せっかくローザ皇女とカノン皇女と皇帝が築いた信頼を簡単に壊しましたね」


「サラシャ隊長! 凄い魔力です! 攻撃許可を!」

「駄目だ! 相手は子供だぞ!」


 光の柱は、ここに私が居ると知らせるだけのもの。

 今か今かと待っている彼女を呼べば、勝負は一瞬で決まる。

 今呼んでしまったらどうなるかわからないけれど……呼ばなかったら絶対に怒られる。

 めちゃくちゃ腹立つから姿を見せない卑怯な皇后が謝りに来るまで、全部無しだ。

 帝国が一気に嫌いになった。


「イーちゃん、殺しちゃ駄目だよ」

「……龍気解放」


 ──ズンッ! と、今までの比にならない重圧が支配し……アイスフィールドが粉々に砕け散った。

「ぁっ……ぐっ……なん、だ、と……」


 一瞬で、騎士達が崩れ落ち……赤い鎧の騎士が私の前に現れた。深紅の剣から放たれる赤いオーラが、不安定な心のように揺らめいていた。

 死んではいないと願いたいけれど、まずい……予想以上に、イシュラが怒っている。

 精霊装具の剣を抜いた状態で現れるという事は、近付いたら容赦なく殺す宣言でしょ……

 だめだめ、帰ろう今すぐ。


「イーちゃん、ありがとう。妖精国に帰ろ?」

「……ぁ」


 目元だけ隠す赤い仮面のせいで全ての表情は見えないけれど、イシュラの視線の先には覇気に当てられ苦しそうなサラシャが居た。

 ……再会と呼ぶには、状況が悪かった。

 大事な人を捕まえようとする人間の先頭に自分の姉が居たら、私だったらどうするだろう。


「あー、えーっと、もう充分だから帰ろ?」

「……姉、さん」


 イシュラがサラシャの元へと歩き出した。

 一歩、また一歩と足を進めるイシュラは、なんだか遠くへ行ってしまうみたいで、こころが痛かった。

 私に会うまで、イシュラは必死に生きていた。酷い言葉を言われようと、酷い扱いをされても独りで耐えてきた。

 耐えられたのは、優しい姉の記憶があったから……でも、イシュラの様子が明らかにおかしい。

 イシュラに触れると、火傷するくらい熱い……

 戦うのは駄目だ……止めないと。


「はぁ、はぁ、くっ、なんて魔力……」

「……ルクナの敵は、私の敵。誰だろうと……誰だろうと」


「ぐっ、息が……」

「もう良いからっ! 帰ろうっ! ねぇって!」

「大丈夫、大丈夫だから」


 イシュラの前に立ち塞がって、イシュラの眼を見る。

 泣きそうじゃねえか……無理しやがって……全然大丈夫じゃないよ。

 もう、帰ろう。また落ち着いたら会いに来よう……そう言おうとしたところで……


「くっ、ぅっ……化物か……」

「──っ」


 思考が停止して、血の気が引くような、鼓動が早くなるような……

 後ろから、聞きたくない言葉が聞こえた。

 イシュラから涙が流れ落ち……覇気が消え去った。


「イシュ……ぅぅうううっ」


 イシュラの涙で……私の頭は真っ白になった。身体が勝手に動いたというか……気が付いた時には、私はサラシャを殴っていた。

 視界がぼやけて、私も泣いていたと思う。


「やめ、て、ルク、な……」

「言うな! 言うなよ! そんな事っ……あんたにだけは……」

「ぐっ、人間では、ないだろう?」


 サラシャの胸ぐらを掴み、また殴ろうとしたところで後ろからイシュラに腕を掴まれた。

 ミシミシと腕の骨が軋むくらい、力加減が出来ていない……


「もう、良いから……あり、がとう」

「でもっ、でもっ!」


「良いの。私はもう、人間じゃないし……帰ろ、っか」

「うぅぅ! ごめんね……私が調子に乗ったから……」


「ルクナのせいじゃない」


 イシュラが私を抱き抱え、出口に向かって歩き出していく。

 もう、どうしたら良いかわからない。

 また騎士達が現れ……イシュラが再び覇気を放ち歩き出した時、妙に静かになった気がする。

「ぅっ、ぅっ、ごめんね、イシュラ……やっと会えたのに……」

「良いの良いの。会えたから良いの……」


「っ……ら、な?」

 聞こえてしまっていたか。イシュラが立ち止まって、振り返った。

 振り返ったから私もサラシャの顔が見えたので睨み付けて、睨んでいる私に気が付いたイシュラに目元を塞がれた。睨ませろ。


「……」

「……まっ、て」


 どれくらいの時間、振り返っていたのかは覚えていない。

 そして何も言わずにまた歩き出した事にほんの少しだけ安堵した。

 そんな自分にも、腹が立ったよ。


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