可愛いを維持しながら戦うのって大変なのよ
聖剣の戦乙女……身長を遥かに超える純白の聖剣ルクナカリバーに、上位以下の魔法を無効化する純白の軽鎧ルクナアーマー、光属性を増幅するルクナティアラ、後は飾りの純白の翼ルクナウィング。
翼が飾りのせいで飛べないけれど、結界に乗れば飛んでいるように見えるのだ。
『あぁ……綺麗……これは聖女ライザの、力なのでしょうか……』
私は聖女ではないし、聖女にはなれない。
聖女は教会の試練を突破し基準を満たした者に与えられる称号だ。
試練を受ける気の無い私には、聖女は無縁。
「悪いけれど、これは加減が難しい。そーれっ!」
空中に設置した結界を飛び、三メートル超えの剣を担ぎながらダーグニスの元へ駆け叩き付けるように振り下ろす。
ダーグニスは後ろに後退し躱そうとしたけれど、即座に作った結界を蹴って突きに変更。
白い軌跡を輝かせながら突進し、防御した腕に突き刺さった。
『ぐっ……これは、たまらん……』
『ルーちゃん選手……いやルーちゃん様の見事な切り返し! なんと空中を走っています! なんと美しいっ! 天使様みたいですー!』
突き刺さっただけで終わらないよ!
聖剣から光のエネルギーを腕に送り込む!
傷口から白いヒビのようにエネルギーが侵食していった。
ダーグニスの顔が歪み、その隙にイシュラが上空から両手に持った剣を振り下ろした。
「龍陣剣・烈光」
──ギャリッ! 背中を斬ったはずなのに硬い鎧を斬った音が響いた。
眷属の暗黒騎士が防御し、イシュラを狙うように構えた。
防御特化なら厄介だ……っと魔力の乱れ。
「来るよっ!」
『死ね、唸れ業火』
──ゴォォォオ!
ダーグニスの後方が火の海と化した。
闘技場の結界にヒビが発生するほど、激しい炎だった。
「もう一撃! よいしょー!」
『ぐっ……』
隙だらけなので腹に一撃お見舞いしてやった。
斬り傷が白く輝き、光に侵食されていく。
イシュラは、まぁこのくらいなら大丈夫だろう。
炎は精霊ちゃんが居るから。
「あー、熱いなぁ。ありがとね」
炎の隙間から紅いエネルギーが迸り、ボンッと炎が晴れた。
炎の中から深紅の鎧に深紅の仮面を着用したイシュラが現れ、深紅の剣に残った炎が吸収されていく。
『これはっ! イーちゃん選手が変身しましたー! 赤い! なんだか凄く格好良いです!』
『ふははっ、面白い。叫べ、炎葬』
「うん、食べて良いよ」
イシュラが剣を掲げると、黒い炎が吸収されていく。
深紅の剣からオーラが溢れ、輝きを増していった。
更に追撃を……うわっ、ダーグニスが口を開き、黒いエネルギーが……
「くっ……ルクナシールド展開!」
大剣をシールドに変形して黒いエネルギーを防御!
うわぁぁやばぁぁい!
押される押される!
ふんばれ私!
「ごめん中断! フォトン・ブレイズ!」
イシュラのフォトン・ブレイズがダーグニスの後頭部に直撃。
危なっ、顔の向きが少し上に変わったから助かっ……
「ばかー! 下だよ下ーー!」
「あっ……くっ、ごめんコイツの相手する!」
観客席の結界が貫通する!
ったく魔法士団の奴ら結界強化しやがれ!
上向きになった黒いエネルギーの衝突点に身体を滑り込ませ、ルクナシールドで防御!
「んぎぎぎぎ……結界脆すぎ……」
ビキビキ……と結界にヒビが……まじかよ。
イシュラさん暗黒騎士と戦っていないでちょっと助けて。
ぐっ、チラ見したな。あれは私ならなんとかなるよの眼だ……
う……まずい、攻撃しないと。
でもルクナシールドを弱められない……何か、何か。
……あっ、翼あったわ。
仕方がない可愛いは諦める!
翼を六つの槍に変換!
ダーグニスの目を狙ってみるも一つ二つと弾かれる。
でも下から高速回転させた槍がアゴに突き刺さった。
その瞬間黒いエネルギーが緩んだ……今だ!
「ルクナランス展開!」
ルクナシールドの中心を尖らせて伸ばす!
足下の結界をダーグニスまで一直線に伸ばし防御しながら突進!
エネルギーを四散させて全力疾走!
貫けぇー!
『ぐっ……ナメるな』
っ! 下からアッパーカット!
躱せないっ……結界を展開してもバリンバリンと割られる。でも緩んだ隙に拳を踏み台にジャンプ!
ダーグニスの真上に来た所でっ!
槍を剣に変換!
「──ルクナカリバー!」
──ザンッ! 角をぶった斬った!
片方の角が無くなってダーグニスの魔力がかなり減った。
今だっ、落下しながら肩、腕、腹、脚と斬り刻み、ついでに暗黒騎士の頭を狙って……
「ルクナハンマー!」
──ドンッ! 頭を潰す。
「ごめんありがと!」
「イーちゃんアレやるよっ!」
「好きだねー、りょーかい」
ダーグニスが怯んでいる隙にイシュラの手を取り、氷の階段を作成し駆け上がる。
目指すは闘技場の真上。
『ちょこまかと……全て焼き付くしてやろう』
「はっはっはー! もう無理だよ! 特殊効果発動! 四肢封印!」
『ぬっ、なんだと!』
私が斬った斬り口が光輝き、白い鎖が飛び出した。
ジャラジャラと斬り口の鎖同士が絡み付き、ダーグニスの動きを封じた。
「ルーちゃん、魔力充填完了だよ」
「ほいほいっ! マジックブースト!」
「そんな事したら加減出来ないしょ」
「良いの。あんな召還魔法陣無くなれば良いから。よろぴくっ」
イシュラの魔力を増幅させ、吹き飛ばないように後ろから身体を結界で固定。
下からみたら白い翼の深紅の騎士に見えるかしら。
イシュラが両手を龍の顎のように構え、ダーグニスに向けて溜めていた魔力を解放した。
「ドラグ・フォトリラニティ」
カッ! と、会場に直視できない光が溢れた瞬間……ドォォォォ! と耳が破壊されるかってぐらいの爆音が響いた。
『──グァァァァァァ!』
きーん……何か叫び声が聞こえてきた……
至近距離だから耳、痛い。
目も痛い……狭い場所でやるもんじゃあないねー。
よくもまぁこんな高密度のエネルギーを出せるよね。龍人ってのがスペック違いすぎて頭おかしくなるというか……あっ……
イシュラの手が魔法に耐えきれずにボロボロだ……ちょっと調子に載りすぎな……反省。
回復しよう。
「ごめん、増幅し過ぎた」
「良いの良いの痛いだけだから。それよりこれ、怒られない?」
真下には、円形の大穴。
ダーグニスの魔力は感じないから、倒したっぽい。
「闘技場内で戦ったから良いんじゃない? 一応足場くらいは作るか……ストーンブロック、ほいほいほいほい」
岩をポイポイ表面に乗せ、重い魔物が乗ると落ちる巨大落とし穴状態にしてみた。
うん、良い感じ。
『……あー、あー、終わった……? えーと、ルーちゃん様とイーちゃん選手が立っているので……勝ちで、良いよね? よしっ、タッグバトル最終戦ルーちゃんイーちゃんが勝利しましたぁぁぁぁ!』
──ウォォォォオォ!
「「「ルーちゃん! ルーちゃん!」」」
「「「イーちゃん! ルーちゃん!」」」
歓声が気持ち良いわね。クセになりそう。
はいはいありがとうありがとう。手を振って一礼していると、実況のマールさんが実況席から出てきて恐る恐る近寄ってきた。
マイクを渡されたのでインタビューね。
『早速インタビューしたいと思います! ルーちゃんイーちゃんのお二方……す、凄かったですねぇ……』
『ありがとうございます。ところで超位の魔物とか反則じゃないですか?』
『えっ……超位? いやまさかそんな有り得ませんよ。召還は上位のみですから』
『私達魔眼持ちなので解るのですよ。業炎のダーグニス、聖女ライザが倒した獄炎の魔王よりも前の時代の魔王ですよね? さっき思い出しました』
『え……運営どうなの? ……ほんとに上位? 誤魔化してもバレるよ?』
『そういえば……ダーグニスの身体の一部は教会本部が保管していた筈ですが、ここの召還材料に使われるって事は帝国預かりになったのですねー。ライザの時代はダーグニスの一部を浄化する聖女の試験があったみたいですよー今はどうか知りませんがー』
『へぇー! 聖女ライザの事もっと聞きたいですー!』
『良いですが……歴史の教科書変わっちゃいますよ?』
宿の近くの書店で聖女ライザの本を見付けたので読んでみたのよ。
生い立ちから聖女になるまで等々良い感じに書かれていたから、帝国は聖女ライザを自国の所有物にしたかったのだろうね。
手に入らなかったから、魔王を倒して役目を終えて去ったみたいな美談になっているけれど。
『あー聞きたいっ! 聞きたいけれど時間がなーい! っという事で豪華景品は闘技場の応接室にてお渡しします! 後で案内しますので控え室にてお待ち下さい! 今一度ルーちゃんイーちゃんへ拍手喝采をー!』
はいはいどうもどうも。
観客席に手を振り、出口から出て控え室へ……向かわずに変装しながら賭け金の精算所へ早歩きで向かった。
地味変装に加え、変装魔法で髪色も変えて空気になりながらスルスルと人混みを突っ切る。
「イーちゃん、急ぐよ」
「りょーかい」
目指すは精算所。
豪華景品よりもお金が先だ。
豪華景品を受けとる時に話が長くなったら、賭け金が無効になるのは避けたい。
皇女はもちろん騎士団や魔法士団っぽい人も居たし、教会の人間とか居たら話が長いどころか城とか教会とか城とか教会に連れ去られてしまう。
まぁまだそうと決まった訳ではないから、お金さえ貰えれば話しは聞くけれどねっ。