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嘘吐きエリスタの最後の嘘  作者: はぎま
ファイアロッドの大迷宮編
145/336

誰も傷付ける訳にはいかないんだっ

 

「龍陣剣・烈空」


 腰に差した剣を抜き、瞬きの間に駆け抜け上位種エビルデーモンの首を跳ね身体を縦に両断した。

 呼吸なんて乱れずに、剣に付着したエビルデーモンの血を布で拭いてから鞘に納めてため息を一つ。

 帰ってお手入れしっかりしないといけないなぁ…のため息ね、はいはい。


『強い……強すぎ……エビルデーモンですよ……しかも一人で……一撃で……』


 イシュラはユウコの綺麗な刀技に憧れていた。そのせいなのか綺麗な剣を集めるようになり、今ではステラ邸にコレクション部屋がある程。

 ユウコもユウコで刀を集める癖があり、イシュラと二人で武器屋に行ったり私が嫉妬するくらい仲良しなのだ。


 今更だが魔物のランクは跳ね上がった。

 二番目がナイトメアリッチという上位種で、魔法攻撃を全て拳で弾いて光を纏った拳で粉砕。

 三番目が瞬殺した上位種エビルデーモン。出会ったら逃げろと言われる程に厄介で強力なデーモン種らしい。


 次はなんだろなーと思っていたけれど、なかなか次の魔物が来ない。運営は必死に会議でもしているのかね?


『えっ? 時間稼げ? じゃあインタビューしますよ? はいはい』

「イーちゃん、おいでー」

「了解」


 実況のマールさんがこちらにやって来た。

 魔法陣に魔力を送る時間稼ぎのご様子で、私達も好都合なのでマールさんの元へ集まった。

 マイクを渡されたので、これで喋れって事ね。


『魔法陣の整備の為少しお時間戴きまーす。いやぁー凄いですねー! ルーちゃんイーちゃんのお二人はタッグバトルの為に妖精国から来たんですかー?』

『いえ、用事のついでです。先日、妖精国でたまたまバスカード家の方と仲良くなりまして……その方は皇女様の薬を探しておいででした。なので私達が薬草を調達し、届けに参りました』


『なんとっ! 聞きましたか皆さん! 皇女殿下のお薬を届けて戴いた国の恩人なのにここの運営はエビルデーモンを出しやがって……あっ、失礼しましたー。皇女殿下の様子は如何でした?』

『いえお会いしていません。バスカード家の方に薬草を渡したので、私達の役目は終わりですよね? 会える身分でもありませんし』


『あっ、えーっと失礼しました。それにしてもイーちゃんさんはお強いですねぇっ! エビルデーモンを単身撃破出来る人初めて見ましたー!』

『ルーちゃんを守る為なら、エビルデーモンくらい余裕ですよ』


 エビルデーモンが何の基準か知らんが、とりあえず凄いらしいからどや顔しておいた。

 私は何もしていないのだがなっ。

 それ以前に呪いの眼鏡着用だから地味コンビなのよね。


『じゃあルーちゃんさんは戦わないんですかー?』

『五戦目で戦ってみようと思っていますっ。整備はまだですか?』


『魔力の補給に時間が掛かるみたいで、もう少しお待ち下さいっ。それにしてもお二人は妖精族って言われないと全然解りませんねー。見分け方とかあるんですか?』

『イーちゃんは見分けが付きませんね。あっ私は人間ですが、帝国にとって少し特殊な人間だと思います。先祖が有名なので』


『ご先祖様? あー凄い気になりますねー。教えて戴けるんですかー……は?』


 ここが良いタイミングなので、呪いの眼鏡を外してマールさんに素顔を見せた。

 どうせ知り合い居ないし、素顔を見せても問題無いだろうから。

 マイクを切って、マールさんにだけ聞こえる声で囁いた。


「私の先祖は、聖女ライザです」

『えっ……らぐごほっ!  ごほっ! げほっ! えっ、えっ、えっ、本当ですか?』


「はい、証拠もありますが聞きたいですか?」

『はいっ! 是非っ! えっ? 整備終わった? 今良いとこ……ちっ、終わったら絶対教えて下さいねっ! というかめちゃくちゃ可愛いですねぇっ!』


『ありがとうございます。イーちゃんも実は超イケメンで素顔を隠していますが、諸事情で明かせませんのでご了承下さい』

『なんとっ! ルーちゃんは超美少女でした! マジで可愛いっ! 本気で可愛いっ! お持ち帰りしたいっ! 流石は聖女ライザの子孫ですねぇっ! ……あっ』


 くくっ、言って良いよ。自分で宣言するの恥ずかしいから。

 凄いざわめきが会場を支配し、平謝りするマールさんに気にしていないと手を振っておいた。


「ここの運営は聖女ライザの子孫を殺そうと強力な魔物を出してきますが……お偉いさんに知られたらどうなりますかね?」

「……ルーちゃんさんがこれを理由に帝国を出たら、処分は免れないでしょうね。私も含め……」


 マイクを切って、ため息混じりに笑うマールさんはそれも仕方がないという雰囲気だ。

 まぁ私は良い人なら味方になるし、悪い人なら切るだけ。

 マールさんが戦う場から出ていき、イシュラに地味顔で可愛いと褒められたけれどイケメンで言ってくれないとキュンが出てこんぞ。


「違う意味で荒れる闘技場だよねー」

「ふふっ、子孫らしくライザみたいに帝国荒らして逃げれば? あっ、あれクィフォンスさんの胸ぐら掴んでるのって皇女かな?」


「あっ、どうだろね。素朴の耳飾りしてるからそれっぽいけど、薬が効いたのかしら?」

「あー薬草自体の効果は薄いけど、私の魔力込めておいたからしばらくは走れるくらい元気になるよ」


「滋養強壮龍の魔力……なんか効きそう」

「滋養強壮龍の生き血の方が効くらしいよ。飲んでみる?」


「うーん……ユウコさんで実験してからね」

「絶対怒るしょ。次の魔物来るよ」


 闘技場の中心の光り方がちょっと変わった。鈍い光というか、邪気を含んだ光……

 現れたのは、エビルデーモンよりも一回り大きなデーモン種。赤黒い体躯に歴戦のヤギのような顔、ねじ曲がった角から発せられる邪気は魔王種にも似ている。

 解析すると……業炎のダーグニス。

 んー……超位っぽいな。

 業炎……ライズが倒したのって獄炎の魔王だったな。

 でも獄炎の魔王とはちょっと違うからなぁ……親戚ってやつかしら?


『ココは、ナンダ? 我ハ、ナンダ? だが、コレダケは解る、アレガ敵』


 運営は本気で私達を殺す気だな……でも何故こんな魔法陣から超位の魔物が出せる?


「イーちゃん、魔法陣変わった?」

「あーそうだね。魔物の身体の一部である程度復元出来るみたい。これ下位だけど魔王種じゃない?」


「あーやっぱり? 二人でやらないと怪我しちゃうね」

「じゃあよろしくね、聖女様」


「任せんしゃい。お金が掛かっているから頑張るよ」


『……あの、なんですかあれ……エビルデーモンの比じゃない……えっ? 了解です……えーっと、特別ルールになります! これに勝てば全勝! 負ければ三戦勝利までの扱いになります! ブーイングはやめてっ、悪いの運営だからっ』

「ふざけんなー!」「あんなの勝てる訳ねぇだろ!」


 そりゃ荒れるわな。

 こんな迷宮の主みたいなの見た事無いでしょ。

 そいじゃあ聖女らしく、魔王に対抗する光を示そう。

 白い魔法陣を三つ展開、一つに重ねると詠唱が頭に浮かぶ。


「光絶えぬ神殿に安置されしひとふりの聖なる刃、この刃は悪しき者を滅する希望の光……」

『コノ光……聖女……ワレは、勇者に、……っ』

「隙だらけだよっ! 龍陣剣・烈光」


 重ねた魔法陣を増幅、立体魔法陣の方法で形を変えていく。

 ダーグニスが私に注意を向けた時、イシュラが低姿勢から跳ねるように飛び上がり、光を纏った剣で斬り付ける。

 ギャリッ! と爪で受け止められ、側面から殴られた。

 上手く膝と肘で防御したけれど、結界まで飛ばされた。

 ダーグニスが殴った拳を開くと、赤黒い炎が出現した。


『消えろ、ダークフレイム』

「おっと危ない」


 イシュラが躱すと結界に当たり、案の定結界が溶けて穴が空いた。

「ひぃ……やべぇぞ」「逃げるぞ!」

 それを見た観客が逃げていく。

 逃げないのは、私達に三勝か全勝か賭けた人だろうか。

 おや? 同じ鎧を着た人や魔法士やらが入ってきた。騎士団と魔法士団か? 邪魔すんなよー。


『あれ? これってすっごく危ない? 皆さーん、逃げても換金は今日中ですからねー』


 イシュラが背後からダーグニスに斬り掛かるが振り向き様に直ぐ対応。

 爪に防がれ、イシュラが悔しそうに下唇を噛んだ。


「……欠けた。うぅ……修理に十万……」


 泣くなし。

 新しい剣買えば良いじゃん。

 ダーグニスが足元に黒い魔法陣を展開した。


『眷属召還』


 魔法陣から、黒塗りの騎士が現れた。

 あれは倒さないとダークフレイムで空いた穴から出るかもしれない。

 そうなったら大変だ!

 私達の賭け金がどうなるかわからない!

 イシュラ! 最優先で殲滅だ!

 もう少し……もう少しで、出来、たっ!


「この刃と共に私は神の光を纏い、全ての悪を絶つ道標となろう! 魔法合成・聖剣の戦乙女!」


 立体魔法陣にぴょいっと飛び込む。

 それに遅れて黒い炎が上がったけれど、もう遅いよっ。


 そうそう、聖女ライザが何故歴代最強と云われるか。

 元々聖女とは人々を導き、人々を癒し、邪悪なる存在を退ける力を持った存在。

 人々を奮い立たせ、勇者を剣として魔王と立ち向かうその様は、他力本願……げふんっ、守り守られる象徴として描かれる。


 対して聖女ライザはそれを根本から覆した。

 先ず勇者をボコボコにして力を示し、先代聖女のプライドをバキバキにする破邪の魔法を使いこなし、誰も守らず誰にも守られずに魔王を単身ぶっ飛ばす十歳の女の子というお転婆どころではない存在だった。


 それ以来聖女ライザとは、戦う女子の代名詞。


「やっぱりルーちゃんは凄いねぇ。かっこいーねー」

『ヴァルキュリア、だと……聖女ではなかったのか……遊んではいられない……』


 白い翼が広がる純白の鎧を身に纏い、光輝く大剣を担ぐ八歳の女の子は、聖女ライザの伝説をより濃く彩り帝国を揺るがす存在になるのかしらね。

 因みに背中の白い翼は無詠唱の光の翼。可愛いの為だけのただの飾りだ。


「うん、可愛い。早く美人になりたいなーっと」


 悪は退治させてもらうよっ!

 お金の為に!

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