帝都にとうちゃくー
「……ばかぁ」
「ぃゃぁ……ごめんなさい……」
『ええのぉ……分体でもわっちは満足じゃぁ……』
ナニがあったかは伏せるけれど、次の日になった。イシュラって肉食系女子だからもう、ね……ばかぁ。
私の分体なんて言葉で表現したら何かに引っ掛かりそうな状態だったので、手の甲に戻した。
ステラちゃんが残念そうな顔をしていたけれど、エロルクナちゃんはリセットさせて貰います。
私が落ち着いてきたので、これからの予定を決める。
分体なら小型転移ゲートで観光出来るし、小さいものなら買い物も出来るから妖精の国は出ようと思う。
メティオちゃんに挨拶は分体で良いそうなので、そのまま出よう。
「妖精の国はまた来られるし、用事なければ出ようと思う」
「私は大丈夫だよ。ルクナとイチャイチャ出来たから満足」
『わっちも本体でイチャイチャしたいのー』
という事で宿を出て、広場の転移陣に乗り込み国境の砦へ向かった。
整列しているゴブリンさん達にステラちゃんが手を振ると、武器を掲げてお見送りしてくれた。
「ステラ様、イシュラ様、ルクナ様、行ってらっしゃいませ」
『行ってくるでの。あっ、待合室の人間を連れて行きたいのじゃが良いかの? ミィとメラというじゅるりなおなごじゃ』
「かしこまりました。では国境外でお待ちください」
砦を通り、門をくぐってバスカード家のメイドさんを待つ事にした。
イシュラは素朴の耳飾りを着用して顔を隠している。
「ところで、密入国って簡単なのです?」
『準備をしっかりすれば出来ない事もないぞえ。妖精の国は迷いの森で囲まれておるで、行きに一ヶ月、帰りに一ヶ月迷う覚悟があれば大丈夫じゃ』
「二ヶ月は気が狂いそうですねぇ。妖精も迷子になったりします?」
『妖精はならんぞえ。今頃迷い人は迷っているはずなのじゃが……帝国に入っておるのじゃろ?』
「迷いの森を抜ける方法を知っているとか?」
『いや、妖精が居ないと……あっ、そうか。手引きした妖精がおったのか』
「えっ、バレたらその妖精は裏切り者として処刑だよね?」
「そうなの? その妖精が帝国に脅されていたとか?」
『それは有り得るが、迷い人を妖精国に引き込んだ罪は重いのじゃ。残念じゃが名誉の為にその場で殺す事もあるでの』
結構厳しいのね。
それだけ妖精の国を守らなければいけない思いが強いのか。まだ確定した訳ではないけれど、ね。
裏切り者の制裁について聞いていると、ミィさんとメラさんが出てきた。
二人とも旅人の格好で、一目で女子と解らない風貌だった。
「お待たせしましたっ!」
「本当に、ご用意して戴けたのですか?」
「あー確認します? 辞典が無いと解りませんが……」
「あっ、一応辞典はありますっ。念のため確認させて下さいっ!」
買ってきた薬草を見せると、辞典と照らし合わせて確認。無事合っていたみたいだった。
「お代は金五十グラムでしたよ」
「そんなに安いのですかっ……あっ、あのお礼もしたいので、お暇があればバスカード家に来ていただく事は出来ませんか?」
「んー変な勧誘とかが無ければ良いですよ」
「そこは安心下さいっ! バスカード家は人手が余っていますからっ!」
「余っているせいで私達はくじ引きで妖精の国へ派遣されてしまいましたからねぇ……」
メラさんの目が死んでいる。くじ引きで来たのね……可哀想に。
まぁ二人を見ていればある程度どんな家かわかるし、大丈夫そうかな。
「ところでどうやって行きます? 私達は走って行こうかと思いますが……」
「えっ、走ってですか……? 隣街に魔導馬車の定期便があるのでそこまでは歩きますが……」
「あっ、じゃあそれで行きましょう。急ぎじゃないので」
それじゃあいざ帝国へ行きましょうかねー。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
ルクナ達が帝国へ到着する頃、帝国の首都では妖精の国へ行っていた者が帰還していた。
「はぁ、はぁ、片足って辛いのな……」
「生きてるだけ運が良いって。あいつはマジでヤバかったんだから……超位魔法連発してんだぞ?」
「超位魔法ってあの魔法士団長でも一分くらい溜めないと使えないんだろ?」
「……ねぇ、本当に超位魔法だったの? 超位って大規模魔法なんじゃないの?」
片腕の少女が疑問に思うのも無理はないが、赤い閃光が通り過ぎたと思ったら腕が飛んでいた。全員上位魔法なら防げる防具をしていた筈なのに……出る答えは同じなのだが、にわかに信じられないのも事実。
「超位魔法をレーザーみたいに撃つ技術は理論上可能だ。でも、出来るのは化物レベルの天才に限られる」
「そんなにか? 俺は危険感知無いからわかんないけど……」
「あぁ。とにかく、あいつに会ったら即逃げないと次は無い。俺たちをいつでも殺せた筈だ」
「くっ、そうだよな……早く薬を届けないと……薬草落としちまったし……」
「あぁ、準備を整えてまたチャレンジするつもりだ」
「エミリーは、また協力してくれるかな?」
「ローザの為なら、また協力してくれる。でも失敗したの謝らないと」
自分たちを慰めるように、次への計画を話し合いながら貴族街にあるザンガード家へと到着した。
ここは迷い人の支援を行っている代表的な家で、ザンガード家当主は騎士団を纏めているほど武に優れた家だ。
「あーらあんた達大口叩いて失敗したの?」
家から現れた黒髪の女性が少年達の様子を見て深いため息を吐いた。
呼んで来ると言って庭へ向かっていく様子を、片腕の少女は悔しそうに見る事しか出来なかった。
「あっ、ホクレイただいま。わりぃ、ドジっちまった」
「みんなっ! その傷は……無茶しやがって! 直ぐに治療士を呼ぶ! 待ってろ!」
庭で訓練を終えて休憩していた次期当主のホクレイが少年達に駆け寄り、焦りの表情を浮かべながら常駐の治療士の元へと走って行った。
「あー、またホクレイに怒られるなぁ……」
「そりゃ怒られるわよ。リヒトは脚を、私は腕が無いのよ」
「騒がしいですね。どうしました……えっ? 皆さん大丈夫ですかっ!?」
「あっ、メイレン……ちょっとドジっちまったんだよなぁ、ははは……メイレン?」
赤髪のショートカットが目を引く少女……ザンガード家三女のメイレンが少年達を見付け、涙を浮かべながら駆け寄ってきた。
片足の少年の手を取り、俯きながら危険なところへ行く事を止められなかった自分を責めていた。
それでも怒れなかったのは、第一皇女の為に危険を犯したという切なさからか……
そこへ息を切らしたホクレイが治療士を連れて戻ってきた。
「メコウさん、頼む……出来る限りの事をしてくれ」
「あーあ、欠損かぁ。メイドさん、応援呼んで」
「はいっ!」
家の中に入り、直ぐに治療が始まった。その様子を心配そうに眺めるホクレイとメイレンに、少年達は危険を犯した罪悪感でいっぱいだった。
少年達が己を過信し、妖精の国を舐めていたのが原因なのだが……ホクレイは疑問だった。
少年達は非公式ながらも自分と対等に戦える……帝国の将来を支えられる人材だったから。
「……何があった?」
「妖精の国でやべえ奴に襲われて……命が助かっただけでも神に感謝してるよ」
「それは、妖精王か?」
「いや、人間だった。特徴の無い顔の少年みたいな、俺たちよりは年下に見えた」
「そうか……まだまだ世界は広い……無茶だけはやめろ。しばらく休め、でないとメイレンも悲しむ」
「……でも」
「ローザの事は俺がなんとかする。元はと言えば俺が騒いだ結果だ……すまない」
「いやホクレイが謝る事はないぜ。油断してたんだから……えっ?」
「レンジ? どうした?」
「……来た。奴だ……追ってきやがった……」
「まじかよ……」
「うそ……まさか、私達泳がされて……」
危険感知を持ったレンジと呼ばれたの顔がひきつり、震えながら帝都の門の方に顔を向けた。
今出会ったら、確実に殺される。そう思う程の覇気を全身で感じてしまった。
「……みんな、屋敷に避難してくれ。来たら俺がなんとかする」
「わっ、私も頑張りますからみなさんは避難をっ!」
それは単にいたずら好きな龍人が、少年達に向けて覇気を放っただけなのだが……
「ここが帝都です! では早速バスカード家へ向かいますっ!」
「スーちゃん様、イーちゃん様、ルーちゃん様、長旅お疲れ様でした。おもてなししますね」
「はーい。イーちゃん、さっき悪いことしたでしょー」
「えー、ルーちゃんそんな事してないよー。興味無いしー」
『覇気は駄目じゃろ。今頃ビビっておるぞ』
「スーちゃんは隠れないのですか? 誘拐されますよ?」
『んぁ? そうじゃの』
バスカード家のメイドに引率されて、ルーちゃんと呼ばれた他人事な銀髪の少女と、イーちゃんと呼ばれた身内以外どうでも良いと思っている赤髪の龍人と、変態妖精姫が帝都入りしてしまった。




