王都の討伐者ギルドへ
「うわぁ…流石は王都。物価高いなぁ」
週末に討伐者ギルドという場所に来ていた。
王都周辺や地方の魔物を倒して報酬を得る場所。
倒した証の他に素材を売ったり魔石を売ったりするんだけれど……
王都はオーク一匹三千ゴルド…エリスタなんて五百ゴルドだぞ……
他にもオーガ一体…一万ゴルド。おかしいおかしい……エリスタは二千だよ。
どうなってんの?
「ねぇ、私も見て良い?」
「あっ、すみません」
地味な女の子が隣に居たので、避けて考える。
うむぅ、エリスタで討伐してこっちに持ってきたらお小遣い稼ぎになるかな…いや、ズルは駄目か。
「……あなた、討伐者なの?」
「ええ、一応……な、なに?」
なになに、近い……
じーっと見られている……
「本当に討伐者?」
「うん、これ討伐者証」
「……ふぅん、ちょっと来て」
初対面の人に来てって言われてもなぁ…
テーブル席の方に歩いて行ったので、少し待ってみる。
途中で止まって、引き返してきた。
「……来なさいよ」
「いや、いきなり来てって言われても…」
「手伝って欲しいのよ」
「何を?」
「それを今説明しようとしていたのよ!」
「短気は損気って言うよ」
「地味な癖に面倒な奴ね……良いから来てよ。お願い」
「今のしおらしい感じが可愛いね」
睨まれた。
だってさぁ、地味な顔だしさぁ、なんか私と一緒で顔を隠しているんだもん。その赤いイヤリング、地味顔にするイヤリングでしょ?
怪しいじゃん。
まぁ、人の事言えないので付いていく事にした。
カウンターでジュースを頼んで、テーブルに腰掛け向かい合う……お互い地味同士だから変な感じ。
きっと相手も同じ事を考えているんだろう。
「自己紹介するわね。セリアよ」
「ルナードだよ。よろしく」
「早速話だけれど、一緒に魔物を倒さない?」
「何の魔物?」
「何でも良いわ。魔法は使えるけれど、魔物に放った事が無いのよ」
「そうなんだ。それなら良い、かな」
「ほんとっ? じゃあ早速行きましょう?」
「うん、ジュース飲んでからね」
オレンジジュースを飲みながら、セリアとお互いについて話してみると、なんかセリアは貴族っぽいな。学院一緒だったりして……学年は違うけれど、三年か四年かな。
「ルナードはどんな魔物を倒せるの?」
「王都に出る魔物くらいなら倒せるよ」
「ふーん、期待しておくわね」
「セリアはどんな魔法が使えるの?」
「私は……風と水、かな。ルナードは?」
「私は……火、かな」
私が使える属性は、火、水、氷、光、闇、無……あと細かい分類の魔法。迷宮の核で沢山適性が付いたから、まだ増えると思う。
ジュースを飲み終わり、セリアと一緒に王都を出る……なんか、付けられているな。セリアのお付きか?
「先ずはゴブリン辺りが良いわね!」
「ゴブリンは森まで行かないと居ないよ。ここら辺だと……虫かな?」
「虫は嫌!」
「いや、虫って言っても魔物だし」
「じゃあ、ルナードがお手本見せて」
「お手本ったって王都周辺は小遣い稼ぎの子供が多いから、魔物は少ないよ。街道から外れて林まで行くけれど良い?」
頷いたので、街道を外れて草原の奥にある林に向かった。
昼間って魔物少ないからなぁ……あっ、デカイ芋虫居た。
「ひっ、うねうねして気持ち悪いっ」
「毒は無いから可愛いもんだよ。ファイアー」
ボゥッと芋虫を燃やして、黒焦げになった物体に魔力を通して土に還し、魔石を拾った。
「……」
「こんな感じ」
「やっぱり、虫は嫌」
「じゃあ、あそこにちょうどゴブリンが居たからやってみて」
緑色の子供みたいな人型の魔物を発見したので、口笛を吹いて注意を向けるとこちらにやって来た。
「はぁ、はぁ、こっ、怖い……我らヴァンの光で死を避ける…我らヴァンの光で死を避ける…」
「まぁ、顔怖いもんね。それっておまじない? マジックバインド」
『ぎゃふっ! ぐぎゃ!』
ゴブリンを魔力の縄で縛り、セリアの前に持ってくると、泣きそうな顔で私を見ていた。
いざ命を狩るとなったら怖いよね……私も怖かったよ。可愛いウサギを泣きながら滅多刺しにした思い出が蘇るね。
「本当に、やるの?」
「うん、やって」
「ぅぅ……ウインド、カッター」
シュパンっと隣の草が切れた。めっちゃ目瞑っているじゃん……
「しっかり見て。狙うは首だよ」
「首……やっぱり、出来ない……」
「じゃあ、水で包んでみて」
「ふぅ、ふぅ……ウォーター」
大きな水の塊がゴブリンと私の半身を包んだ。冷たいよ……
『ごびゃ! がばぁ!』
「その調子で維持して。一分もすれば死ぬから」
「一分も……ぐぅ、頑張る……」
ゴブリンの溺れる音を聞きながら、付けて来た人の魔力を探った。
足音が全然しないし、隠れるのが上手い。
敵じゃあないとすれば、暗部か……その予想が正しいなら、セリアは貴族になるけれど、まさか討伐者ギルドに一人で来て初対面の男子を誘わないし。でも意外と世間知らずならあり得るか?
『……』
「あと十秒かな…………はい、魔力が消えたから死んだよ」
「はぁ、はぁ、はぁはぁ……出来た、の?」
「うん、おめでとう」
「あり、がとう」
珠のような汗をかきながら、震える手で自分を抱き締めるように落ち着かせていた。
本来優しい人なんだろう、命を奪う罪悪感が凄いんだろうな。
ただ、才能がある……この歳で、こんなに大きな水球は作れない。
「ところで、どうして魔物を討伐したかったの?」
「実は、今度学院で討伐訓練があって……予習したかったのよ。いざ魔物を倒せなかったら恥ずかしくて……」
「じゃあ、三年生か。感想は?」
「最悪。こんなに辛いだなんて……という事は、ルナードも学院に?」
「うん、一年生だよ」
「一年……弟と一緒……はぁ、自分が情けないわ」
「命を大事にしている証拠でもあるよ。慣れてしまうと感覚が麻痺しちゃうし」
「……なんか、あなた凄いわね」
「学院では秘密にしてね。私は学院で地味な生活を送っているから」
「ふふっ、もちろんよ。あの……もう一つお願いして良い?」
「良いよ。私もお願いがあるんだ」
「じゃあ年上として先に聞いてあげるわっ」
なんだそれ。まぁ良いか。
「セリア、才能あるから……良い魔法を教えたいんだけれど……どうかな?」
「魔法?」
「うん、私は言ったよ。セリアは?」
「あぁ……あの、私は、その……と、ともだちになって、欲しいな……って」
「……」
「いや、嫌なら良いのっ。忘れてっ」
「うん……なる」
「えっ?」
「友達、なる」
「……ほんと? へへっ、よろしく」
……まさか、友達になれるなんて、思わなかったな。
嬉しそうにしちゃって……私も、嬉しいじゃんか。
「こんな地味な奴と友達になりたいなんて、セリアは変わり者だね」
「私も地味だから、なんか親近感?」
「ははっ、なにそれ」
「別に良いでしょ。よろしくっ、ねえねえ魔法ってなに? 教えてくれるの?」
「うん、実は水魔法も使えるんだ。セリアに教えたいんだけれど……こんなのとか?」
「わぁっ……」
水の鳥を飛ばして、近くの木に向かわせると、シュパッと木を真っ二つにした。
そして、私の肩に降り立った。
「アクアバードっていうんだ。可愛いでしょ」
「うんっ、うんっ、凄いねっ、格好良いっ」
「実はこれ、ただのウォーターなんだ」
「ん? アクアバードって魔法じゃないの?」
「うん、私が勝手に名付けただけ。下位魔法も魔力操作次第で中位魔法に引けを取らないんだ。どう? 興味出た?」
「うん……本当に、ただのウォーター? 私にも出来る?」
「もちろん。才能あるから一ヶ月くらいで出来るんじゃない?」
「またまたぁ、一ヶ月でなんて無理よ」
普通ならね。でも私に掛かれば一ヶ月だよ。魔法に関しては母に鍛えられたからね。
「アクアバード一羽なら簡単さ。私が教えるんだから、大丈夫だよ」
「ふぅん、なら一ヶ月で覚えられなかったら?」
「その時は、その時じゃない? 魔力操作とかこの国の学び方とは違うから、一から教えてあげるよ」
「あら、これはどこの国の魔法なの?」
「それは秘密」
「えー、教えてよ。友達でしょ?」
「だーめ。その内ね。ところでさっきのおまじないって何?」
「あぁ、知らないの? 我らヴァンの光で死を避ける……この言葉を唱えると不安や恐怖が軽減されるの。昔、死神という脅威が王都の民を虐殺した時に……民を勇気付ける為に国王が言った言葉ね。それがおまじないになっているのよ」
「それ、言霊の魔法だね。私も似たようなの使うから解る」
「へぇー詳しいのね。もっと教えて?」
セリアに色々教えていたら時間を忘れそうになる……今日はこのくらいにして帰る事にした。
ゴブリンの魔石は記念に持ち帰るみたい。
帰り道は、口数は少なかったけれど、また会ったらよろしくと言って、討伐者ギルドの前でお別れした。
ルナードで友達が出来るなんて……嬉しいな。
「ただいまー」
「ルクナ、おかえりなさい。良い事あった?」
「うんっ、友達が出来たの」
「ルクナに、友達が……あなた! ルクナに友達ですって!」
「なに! 本当に友達なのか⁉︎ 幻影じゃなくて実体のある友達か!」
「あのさ……私も友達くらい出来ても良いじゃん」
「ルクナが友達……今日はご馳走よ!」
「ルクナ! おめでとう!」
「いや、そもそもさ……私に友達居ないの、この眼鏡と実家通いのせいだよ」
「……さぁって晩御飯の準備をするわ!」
「……よぉしっ書類整理頑張るぞ!」
ははは、今日もエリスタは平和だな。
父よ、馬鹿にしているのが見え見えだった……許さん。