妖精の国へ
「なんか、凄い事を聞いたわ……私も調べてみる」
「うん、記録が無かったらミナカ・オレイドスを調べてみて。ミナカ・オレイドスの師匠がライズだから」
「あっ、その人なら何かで読んだ気が……あれどこで読んだんだっけ……うー気になってきた……」
「学院には無いから城の書庫じゃないかな。あとこれはリリにプレゼント」
「えっ、いや私はそんな貰えない……」
「どうせ聖女の勉強に付き合わされているんでしょ。これは光の適性を上げる腕輪で、聖女ライザの修行くらいならこなせると思うよ」
遠慮していたから無理矢理腕に嵌めてあげた。私は尽くす女だから、プレゼントは頻繁に渡すよっ。
孤児院の入口からイシュラが出てきて、私とリリを見てかゆっくり歩いてきていた。
「貰ってばかりで何も返せていないのに……」
「御守りをくれたから、満足しているよ」
「それはアルセイア様からよ……」
リリが孤児院の方を見て、イシュラが戻ってきている事に気が付いた。イシュラと妖精の国へ行く事は伝えたけれど、ムスッとされちゃったからなぁ……
「ちゃんと毎日くれるでしょ。愛の連絡」
「それはっ……形あるものをあげたいのっ」
「リリの愛が手に入って幸せなんだよ。もぅ睨まないでよー。えーっと、形……お弁当、とか……」
「はっ、なるほど……任せてっ!」
「あぁいや、忙しいでしょ?」
「忙しくないわっ!」
忙しいでしょ。
目の影響で寝る時間も起きる時間も解るんだからさぁ。私にお弁当なんて届けたらリリの時間なんて全く無いじゃないの。アルセイアに怒られるよ?
「それについては帰ってきてから話し合おう? お転婆姫様にも許可を取らなければいけないし」
「アルセイア様の嫉妬間違いなしね。こんにちはイシュラさん」
「こんにちはリリさん。彼氏に悪い虫が付かないように見張っておきますね」
「お願い致します。只でさえモテモテなので、心配でなりません」
「最近告白なんてされないよ?」
「そういえばカフェの女子達倍増したよね」
「倍増……」
「イシュラ目当てじゃん。店員さんも目がハートだったし」
「そうだったねー。また変な虫が来る前に妖精の国へ逃げたいよね」
帝国の皇子の使いがそろそろ来そうなのよね。帝国の偵察に行っている学院長の分体から、それらしい人が来ているという報告を受けた。
「ルクナ……気を付けてね」
「うん、ありがとう! 行ってきますっ!」
リリに手を振り、王都を出る。
目指すは東の果て、妖精の国。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「ふんふんふーん♪」
鼻歌交じりに魔導具を弄るエルフ……エルフィ・マクガレフが無罪の山にある実験室で作業中だった。
そこへ黒い翼をパタパタと羽ばたかせて飛んできた白髪の幼女……闇の精霊王のチムニーがエルフィの背中にしがみついた。
『エルフィー、お腹空いたー』
「さっき食べたじゃない。エリクスに頼みなさいよ」
『エルフィしかあっちの料理作れないもーん。おーねーがーいー』
「終わったらね」
『何時間後さー。ぷーん……あっ、またエルリンの改造?』
「検診と言って欲しいわね」
完成した魔導具を横たわるエルフの少女……自分の娘のエルリンに当て、魔力を流していく。
魔力を流している間、エルリンは微動だにしていなかった。
『でも失敗したら造り直してたじゃん。便利だよねーエルフって』
「エルフはそんなに便利じゃないわ。便利なのはこのエルフィの身体よ」
『あー聞いた、凄いよねー。ライズ・エリスタの特性を持ったエルフなんて』
「これのお蔭で計画がだいぶ進んだわ」
『計画ったってグリンに聞いたけど三回も失敗したらしいじゃん。よく諦めないねー』
「なーに言ってんのよ。失敗したのは何も知らずに月に行った最初だけ。後の二回は計画通りよ」
『ほんとにー? まぁ私の役目は終わったから観てるだけだけどー』
「はいはいありがとね」
チムニーがパタパタと飛び、実験室の魔導具を眺めながら何か面白い物でも無いか探していると、古びた写真を見付けた。
黒髪の女性と、銀髪の少女と、エルフの少女が写った写真。
『まだこれ捨ててないの?』
「捨てたくても捨てられないのよ。意外とこの身体は副作用が強いのよねー」
『アズリーナを好きになったのも副作用だっけ? 人間を好きになるなんて大変だねー』
「まぁ悪くはないけどね。人間の寿命なんて直ぐだし」
『ふーん。アズリーナがどうなろうと知らないけど、ルクナには手を出さないでね』
「あら、貴女こそ人間を好きになってどうするのよ」
精霊には寿命が無い。だからこそ寿命のある人間を好きになってしまう事もある。
チムニーが口を尖らせながら腕を組み、エルフィを睨むように対峙した。
『ふんっ、ルクナに危害を加えたら絶対許さないから』
「今は何もしないわよ。ただ、空間属性に目覚めないのなら利用価値が無いのは事実」
『それでもだめだから。何かしたら私は妖精側に付くよ』
「ふふっ、妖精は精霊を信用しない。まぁ良いわ、ノースギアに行ったら利用価値はあるし様子見ね……よし、出来た」
検診が終わり、エルリンの頭を撫でるとゆっくりと目が開いた。
「……ママ」
起き上がってエルフィの目をじっと見詰め、何かを訴えたい様子だった。
『エルリン、言いたい事は言った方が良いよー。今だけかもよー』
「ママ……ルクナ様を、どうする気?」
「あら、聞こえてたのね。別に今は何もしないわ」
「ルクナ様は、私の生きる理由だから……何もしないで。お願い……」
「大丈夫よ、私の邪魔にならなきゃ良いんだから。エルリンはルクナを精霊側に引き込みなさい」
引き込めと言うが、ルクナは現在妖精の国に居る。
母親であるエルフィの笑顔に、エルリンの胸騒ぎは収まらなかった。