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嘘吐きエリスタの最後の嘘  作者: はぎま
ファイアロッドの大迷宮編
110/336

イシュラって格好良過ぎなのよね

 

 アルセイアの泊まる宿に到着する頃には薄暗くなっており、なにやら賑やかだった。

 学院の実習組がやって来たらしく、宿に入ると人だかりが……あれは、イシュラか?

 うん、良い感じに女子に囲まれている。

 ん? 足にグニッとした感覚……あぁ、アースの尻か。

 それにしても高級宿に何人泊まるのかしら……家柄で宿の振り分けはあると思うけれど、結構居るわね。きっと実習にアルセイアが参加するから他の上級貴族も渋々参加している可能性もある、か。


「イシュラ、人気だね」

「イシュラって、なんであんなに格好良いの? おかしくない?」


「私のお兄ちゃんだから格好良いんだよ。見てよあのキラキラ」

「謎理論ね。ふふっ、じゃあ戻るわ。今日はありがとう。凄く幸せだった」


「えへへ、またね」


 リリがアルセイアの部屋に向かっていくのを見送っていると、見覚えのある人が近付いてきた。

 友達(仮)から降格して顔見知りのカサンドラとかいう人。話したくないので、学院の生徒や歩いている人を盾にしてイシュラの元へ向かっていく。

 ふははは、逃げろ逃げろ。


「まっ、待ってクルル。話がしたい」

「嫌です。話し掛けないで下さい」


「いや誤解があったみたいでさ、謝らせて欲しい」

「はい謝罪は受け取りました。では失礼します」


「ちゃんと話しよう、本当に、まじで、お願いっ」

「あなたが謝ったところで無駄なんですよ。イシュラー、帰るよー」


 イシュラが私を見付け、レディ達にキラキラスマイルを振り撒いて怯んだ所を正面突破。私を追うカサンドラの前に立ちはだかった。頼りになるわお姉ちゃん。

 カサンドラはイシュラの冷たい視線にたじろぎながらも、謝るように頭を下げた。


「あいつらが酷い事言ったみたいで……俺からしっかり言っておいた。すまなかったっ」

「……あの、誰ですか?」


「え? あの、イシュラ……だよな?」

「えぇ、私はイシュラですがあなたの事は知りません。あの事を言っているのであれば、私はもうあの場所に戻りませんから無関係ですよ」


「無関係じゃないだろ。同じ釜の飯を食った仲だし……」

「私は独りでご飯を食べていました」


 イシュラのカウンターがカサンドラの心を抉っているね。私も気持ちがわかりすぎて心が痛いよ。

 独りでご飯って、ご飯屋さんなら全く寂しくないけれど教室だと途端に寂しくなるよね。

 ねぇ、って言われた時に顔を向けたらお前じゃねえよって顔とか今でも覚えているし、ねぇって言って私が振り向くか振り向かないか賭けてコソコソ笑われていたのとか今でも覚えているよ。

 二年一組のリア充滅びろまじで。


「あら、どうしたの?」


 やぁアルセイア、今日も美人だね。私の女子力を粉砕する素敵なドレス姿ね。

 リリさん、無表情で好き好き思念を送らないでくださらない? 私もラブよ。

 イシュラさん、首を傾げながら空中を掴もうとしてどうしたの? もしかして好き好き思念が見えている?


「あぁ、えーと……イシュラに謝ろうと思って……」

「なんで?」


「えっ?」

「カサンドラが何か言った訳ではないじゃないの。あなたが謝っても無意味よ? ねぇ?」

「「「そうですね」」」


 無意味というか、カサンドラの謝罪は無価値なんだよ。端的に言うとつまらない。

 クソガキ共が心の底から恐怖しながら謝罪をして初めてスタートラインに立つんだから。

 それを解っていない空気の読めないつまらぬ奴め。


「えぇ……俺の緊張は一体……」

「まぁ責任を取ろうと思った心意気は評価するわ。あと悪いけれどクルルに大事な用事があるの。良いかしら?」


「あ、あぁ……」

「クルル、来て。イシュラも来てね」

「はい。イシュラ、行こ」

「はいはい」


 カサンドラが女子達の冷めた視線を受け、イシュラが女子達から熱い視線を受けるコントラストが良い景色ね。

 ぞろぞろ……

 ん? アルセイアの後を女子達が付いていく……みんなイシュラ狙いか。いやぁ、すげえな。やっぱり世の中顔か? 顔なのか?


「イシュラ、モテモテだね」

「まぁ悪い気はしないよ。モテ期は誰しも来るって話だし」


「その余裕が羨ましいよ。晩ごはんは私の家で食べるからね。お母さんにも言ったし」

「そりゃ楽しみだ。で? どうだったの?」


「ここで話す内容ではないよ」

「良い表情だね。まぁ、クルルが決めた事なら責めないよ」


 うっ……眼の事がバレている。

 そりゃそうか、偽装が通じないもんね。

 多分イシュラなら解ってくれるんだよ。好きな人の瞳を手に入れた幸福感。まじで嬉しいもん。

 先を歩いているリリに幸せ思念を送ると、肩がピクッと反応して、私にも幸せ思念を送ってくれた。

 らぶー。


 昨日の会場に到着すると、立食パーリーみたいにテーブルが点在して料理が乗っていた。これ持ち帰りとか出来るかな?

 既に始まっているみたいで、生徒達は料理を食べながら談笑していた。

 奥の方に教師達と大人姿の学院長の姿があったので観察してみる。椅子に座って上品に夕食を食べる姿に違和感しかない。流石に幼女の姿で生徒達の前に出る事はしないか……でも仕草が大人のお姉さん過ぎて頭がバグる。


「あぁ食べながらでも構わないわよ。ほとんど生徒だけだから、礼儀とかあまり関係無いし」

「持ち帰りは出来ますか?」


「えぇ、先にリリが用意しているわ」

「ありがとうございます」


「それでね、明日からの実習……同伴して欲しいの。一日だけでも良いから……お願い」


 気が進まないのは確かなのよね。でもリリからお願い思念を受けてしまうと断りにくい。

 アルセイアとクルルが一緒に行動出来るなんて、今くらいだもんなぁ。

 実習は二、三日だし、公式にアルセイアと過ごせるのなら、一緒に居た方が思い出になるか。


「……アルセイア王女様のお願いを断るなんて、出来ませんね」

「じゃあっ」


「喜んでお受けします」

「やった!」


 アルセイアさん、やった! って飛び上がって喜んだらさぁ……ほらぁ、他の男子から嫉妬の視線が突き刺さるのよ。リリさんなんとか言ってあげて下さいな。


「アルセイア様、はしゃぎ過ぎです。見られていますよ」

「わかっていますー。リリだってはしゃいだ癖に」


「いえ、はしゃいでいません。クルルさん、アルセイア様の用事は以上になります。また明日お越し下さい。こちらはお土産です」

「えークルルからお礼貰っていないじゃない」


 アルセイアのわがままに、リリが少し微笑んだ。可愛いって思っているな。リリの感情は、他の人に向けた感情の場合遠いというか、別の軸にある感じだな。

 でもカサンドラを見た時の嫌悪感とか凄かった……本気で嫌いなんだね。なんか解るよ、ウザいもん。

 ちゃんとプレゼントはあるから安心しなされ。


「リリさん、こちらをアルセイア様にお渡し下さい」


 ──ざわっ……としたな。わかるよ、公共の場であったりパーティーや不特定多数の人が居る時に王族へプレゼントを渡す場合、そのプレゼントが公開される。

 つまり目の前で開けられるのだ。

 安全面もそうだけれど、他の者へのマウンティングであったり様々で、前回公開された物よりも高価な物じゃなければ恥をかく事が多い。

 アルセイアの場合、プレゼントなんて腐るほど貰っているから敷居が高すぎて、直接プレゼントを渡す男子なんて居ない。もちろん送る場合はあるけれど、それじゃあ気持ちは伝わらないってやつね。

 私がリリに渡したのは小さな箱。アクセサリー類は特に敷居が高いから、敢えてその敷居を飛び越えてあげるよ。


「はい、確認してもよろしいでしょうか?」


「どうぞ。あっ、こちらはリリさんのです」

「あ、ありがとうございます。確認、しますね」


 リリが小さな箱を開けると、赤い宝石の嵌まった白い腕輪が出てきた。

 周りの人は首を傾げ、リリも綺麗だけれど何も変哲もない腕輪に首を傾げた。

 ふっふっふ、これ凄いのよ。作製私、監修イシュラの超大作なの。イシュラって魔眼の力で結構なんでもわかるの、魔導具の作り方とか歴史とか。

 私のドヤ顔に、アルセイアが早く説明して欲しそうに目配せした。


「アルセイア様、腕輪を嵌めて魔力を込めながら手の平を上に向けてセイルーラと唱えて下さい」

「ん? わかったわ。セイルーラ……えっ?」


 セイルーラと唱えると、あら不思議。

 手に純白の杖が現れた。

 迷宮で見付けた聖杖・セイルーラをアルセイアが持ちやすいように短く加工して、喉ちんこの中にあった龍鋼石で色々機能を付けた。龍鋼石って凄いのよ、素人でも簡単に魔導具が作れる万能石でイシュラの指示に従って色々詰め込んでみたのよ。


「聖杖・セイルーラ。かつて大地龍ガイアを鎮めたと云われる伝説の杖です」

「凄い……力が溢れる。ね、ねぇクルル? これ、本当に貰って、良いの?」


「はい、アルセイア王女様の為に頑張って変型機能を付けたんですよ? 戻す時は魔力を込めて戻れと唱えて下さい。あっ、因みに最初に魔力を通した人にしか使えません」

「戻れ……うわ……これ、国宝級じゃない……」


 ……大人学院長が指を咥えて私を見ていた。だめよ、あげないからね。

 変型機能付き伝説の杖だから、値段にしたら凄いのよね。まぁいらない杖と拾った石を加工しただけだから原価ゼロなのだが、プレゼントとしては優秀でしょ。

 リリにはセイルーラを切った時に出た部分で作った柄と龍鋼石の刃が材料の短剣だ。それを腕輪になるように変型加工をしたもの。伝説の杖を切るとか罰当たりだけれど、いらないから良いのだ。

 アルセイアは、光属性の適性が異常に高い。イシュラよりも上なんだ。だからこれで身を守ってくれたら良いな、って。

 それに、結婚が嫌ならこれで聖女認定でもされたら無駄な結婚をしなくて済むし……まぁ聖女は聖女で面倒だけれどね。


「詳しい使い方は、箱の中の紙に書いてあります。お気に召しましたか?」

「はぁ……流石ね。ありがとう、大事にするわ」


「ふふっ、それは良かった。ではまた明日」


 一礼し、イシュラと共に宿を後にした。

 ふむ、良い感じにマウンティングできたよ。


「クルル、格好良かったよ」

「イシュラの方がモテモテだったじゃん。じゃあ、遠回りして家に行こうか」


 ……後を付けられているな。きっと宿で話をしたい人が居るんだろう。


「うん、私も速くなったから付いていけるよ」

「成長が凄過ぎて胸が痛いよ」


 という事で、母の元へ遠回りして向かった。

 この速さに付いて来られる人は居ないみたいだね。そりゃそうか。



「ただいまー」

「おかえりなさーい……うっ、キラキラが眩しいわっ! あなたがイシュラちゃんねっ!」

「奥様、初めまして。イシュラです。ルクナさんには大変お世話になりました」


「格好良いでしょー」

「んもうっ、スーパー格好良いじゃないっ! ねぇねぇねぇっ! アズ……ただいまって言って!」

「……アズ……ただいま」


「きゃー! 良いっ、良いわっ!」

「えー、ルクナ……おかえりって言ってー」

「ルクナ……おかえり」


「きゃー! ただいまー!」

「ふふ、親子そっくりだね」


 母がイシュラに夢中だ。

 イケメン大好きだもんね。

 あんまりキャーキャーするとエルフィさんがジェラって来ちゃうよ。

 母が写真の魔導具を持ってきた……撮影会するのね。

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