今……精霊王の尻を踏んでいる
「そう、だったんだ……それは、辛いね」
「そうっ! クソ親父……次会ったら容赦しねえ……」
私は今、悲しみを乗り越えて怒りに燃えている。
実際怒りの方が強いし。
打倒リード・エリスタ……
そう、ファイアロッドの攻略が終わったら、準備を整え父に挑む。
だから私は強くならなければならない。
圧倒的に、父より強くならないと、憎しみを伝えられない。
「私も、付いているからね」
「ありがとうっ。ドラグ・フォトリラニティで援護してねっ」
「いや……それは流石に……そんな眩しい笑顔を向けないで」
「イシュラは龍魔法を極めてねっ」
「いや、まぁ、極めたいけど……」
「ねぇ買い物行かない? リリとデートだから、服見に行きたいんだっ」
「うん、うん? ところでどっちが本命なの?」
「どっちがというか……少し長くなるよ?」
イシュラが興味深そうに頷いたので、ベッドに座ってセリアの事を話していく。どうせバレるから全部言ってしまえという事で。
……
……
……あっ、シャワー浴びないと。
……イシュラを脱がせよう。
……おっぱい大きいな……くそっ。
……感度も上が……げふんっ。
……あっ、ちょっと、イシュラに細工をしないとなぁ。龍人って分かる人には分かるから、面倒事は出来るだけ避けたい。
……サラシに私の魔法合成で隠蔽効果を付与すれば、なんとか心臓からの魔力を隠せるんじゃないかな……ふみゅー。
んー、効果は一日だけれどなんとかなった。
……よし、お話も終わり。
「そうだったんだねぇ。なんか、王族って大変だね」
「あれがセリアの精一杯だったんだ。だからこうして会えて嬉しいというか恥ずかしいというか……」
「ふふふっ、恋する乙女は可愛いなぁ。よしっ、お姉さんが応援してやろうっ」
「へへへ、ありがと」
「あっ、ルクナが女ってわかってるの?」
「いや、知らないと思う。いつか言わないとなぁって思っているけれど……」
勇気が足りないのよ。
このまま言わずにいても、結婚するような未来は無いし……良い友達という関係は変わらないし……むぅ。
「ルクナは女の子が似合うよ。じゃあ買い物に行こっか」
「うんっ。今日王女達は外に出られないみたいだからねー。あっ、探索者ギルドの人が来ているみたいだから窓から出よ」
流石に迷宮で危険な目に遭っているから、外出は禁止よね。特にアルセイアは。
着替えて窓から外に出ると、不機嫌な様子のアースが待っていた。そういえばしばらく放置プレーだったな……
『ルクたん……私というものがありながら、迷宮でイチャイチャしてたでしょっ!』
「そうですね。ちょっと移動しません? ギルドの人が来ているので離れたいんですよ」
『関係ないわ。私は寂しかったの。ルクたんが居なくて寂しかったのっ! ルクたんのお部屋も入れなかったしー!』
「わかりましたから脱がないで下さいよ。彼女居るじゃないですか。またイシュラと籠るのでアースさんは他の仕事をお願いします」
『やだやだー! じゃあルクたんのパンティになるっ!』
「嫌ですよ……エルフィさんから伝言とかあるんです?」
むくーっと膨れてプンプンだ。こうなったら面倒なんだよね……きっと引き下がらないのは、エルフィさんからお叱りを受けたんだと思う。だって身体に亀甲縛りの痕があるから。お叱りというか、アースにとってご褒美か……ドMの変態だもんな。
『ぶー! ルクたんを死なせたら私を消すって言われたくらいだもん』
「精霊王を消すって酷いですね」
『だ、か、ら、ルクたんをストーキングするねっ!』
「嫌ですよ……私が死んだら何か困るんですか?」
『アズたんが悲しむからじゃなーい?』
「まぁ、そうですね。エルフィさんにとって私は価値が無いですから」
少し鎌を掛けてみたら、否定しないな。
ふむ、エルフィさんは私が死のうと構わないという事か。
まぁそんなもんよね。エルリンちゃんは少しくらいなら悲しむと思うかな。
『ところでイシュラちゃん、その宝石は精霊?』
「はい、赤の精霊みたいです」
『ふーん、まぁ良いか。じゃあルクたん、覗きなら任せてねっ!』
龍人には触れない、か。隠蔽効果が機能しているのか、アースがイシュラに興味ないか、だけれど……
アースは地面に溶けるように消えていった。
きっと真下に居るんだろうな……私に踏まれる事に快感を得ていそうだし。
「……イシュラ、行こっか」
「うん……今……」
「別に言わなくても良いよ。精霊って人と考え方とか違うし……」
「そぅ……変な感じだね」
イシュラは空気中の魔力に溶け込んだアースが見えるみたい。イシュラの表情から察するに、今アースの尻を踏んでいるんだろうね。
買い物は、まぁ直ぐに終わって部屋に戻ってきたよ。宿の前で全部揃ったし……スーツもあるってなんでも揃うわね。
「あっ」
「どしたの?」
「何時にどこで待ち合わせとか決めていない……」
「明日の朝に迎えに行ったら?」
「それもそうか……イシュラはどうするの?」
「私? アルセイア王女のところに行くよ」
「ん? なんで?」
「護衛かなー。学院長と今後について話したいし」
あっ、なるほどね。
妖精族になるんだっけ。
護衛するから安心してデートしてこい、と。
それなら、ファイアロッドの街から出ても良いかな。
でもアースに邪魔されたくないなぁ……
どうやって逃げるか……