表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

一本のDVD

作者: 須原綺奈子

―2021年1月7日―

都内で一人暮らしをしているKさんは、年末年始に実家に帰り、古い納屋を掃除している時あるDVDを見つけた。両親に聞いても何のDVDか分からないと答えた。その日都内の家に戻り、実家で見つけた謎のDVDを再生した。

以下がそのDVDの内容である。


映像は古く、2000年よりも前のものと思われる。30〜40代の男2人が向かい合い、右に座った男が左の男に向かって話をしているものだ。

「これから話すのはある男の大きな過ちの話だ」

そう言って男は淡々と話を続ける。


山の奥にある小さな村で暮らしている、ある夫婦がいた。子供に恵まれている訳では無かったがいつか子供が欲しいと、妻からはよく聞かされていた。夫は嫌な顔こそしなかったが少し不安そうな表情であった。

数ヶ月後、妊娠が分かり夫にすぐに知らせた。一緒に喜んでくれるだろうと伝えた時の夫の顔は、一瞬ではあるが身を引いたような顔、姿勢であった。すぐに頑張って育てていこうと言葉をかけてくれたが妻はその反応が気にかかった。

数ヶ月後、夫のストレスは我慢の限界になっていた。元々子供が嫌いだったのだ。自分の子供なら大丈夫と思っていたがそれは間違いだった。日を重ねる毎に子供への嫌悪が増していた。

そしてある晩、妻が寝たことを確認した夫は、泣き始めた子供の空いた口の中にすかさずハンカチを詰め込み、鼻をつまみ窒息させた。衝動的なものであったため、一瞬自分のした事が理解できなかった。少し落ち着き、横で静かに寝ている妻を見た夫はハッとした。自分のした事の重大さでなく、子供が死んでいるところを妻に見つかるとまずいと、なぜかそう思った。その考えになると行動は早かった。寝ている妻の首を声も出せないほどに力いっぱい締め、何の躊躇もなく殺した。

ストレスから解放され脱力感、幸福感が溢れてきたと同時に、身近な人を自分で亡くした絶望感もきた。丸一日座り込んだまま身動きが取れずにいた。

日が登りまた沈み始めた頃、妻と子供の死体を森の中へ埋めた。それからというもの、幻聴かはたまた呪いかはっきりしないが、妻の声と子供の鳴き声が頭に響くようになった。精神的に追い詰められた夫は少しでも自分の罪を償おうと左手の小指を切り落とし、妻と子供を埋めた場所に自分の小指も埋めた。しかし頭の中の声は収まるどころか激しくなっていった。

その生活を10年ほど続けた夫は心身ともにやられ、生きているか死んでいるのかも分からない見た目で、頭の中の妻子の声に耐えながらどこかで密かに暮らしているという。


そんな話を聞かされた男は少し下を見ながら恐る恐る聞いた。

「…なんでそんなことを俺に聞かせるんです?」

「伝えていかないと俺が呪われるからな…」


そこで映像は終わっていた。

DVDを取りだし、Kさんは映像の最後で男が言っていたことから、この話を『人に伝えないと呪われる』と思いその準備を進めた。



―1998年6月■■日―

書斎で仕事をしていたある作家の元に、記者が慌てて飛び込んできた。

「コレ見てください!すごいもの見つけましたよ!」

そう言う記者の手にあったのは一本のビデオテープだった。

「ホラー作家の貴方なら、いいネタになると思いますよ」

ビデオテープを再生し、2人は映像を見た。

それは男2人が向かい合って座り、右の男が左の男に向かって話している映像だった。

最後まで見た作家は、『伝えないと呪われる話』はそう簡単に作れない。これもフィクションで昔の誰かが作った作品の一つだろう。そうつぶやきビデオテープを机の引き出しにしまった。

「それどうするんです?」

「DVDに書き直すよ。今はもうビデオテープなんて使えないだろ」

記者が帰った後ビデオテープからDVDに映像を書き写し、ビデオテープを廃棄した。


―1976年■月■日―

夕暮れ時、カメラを準備した男の元へ何も知らされずただ呼ばれた男がやってきた。

「あの、なんでしょう話って」

2人は顔見知りではあったが、さほど接点のない近所に住んでいる者同士だった。

「とにかく座ってくれ。話はそれから…」

覇気のない言葉で話し、座ったことを確認するとカメラの撮影ボタンを押した。

男が話した内容は、ある男の大きな過ちの話だった。子供嫌いが過ぎ、妻子を殺し森に埋め、自分の左手の小指もそこに埋めた話である。

「…なんでそんなことを俺に聞かせるんです?」

「伝えていかないと俺が呪われるからな…」

そう言うと、撮影を止めビデオテープを取り出した。

「あの、今の話って、もしかして…」

話を聞いていた男は、相手の小指のない左手を見ながら恐る恐る聞くと「すまないな…1人ではもう耐えられない…」とだけ返し消えていった。

翌朝、2人の遺体が自宅にて発見された。死因は2人とも心臓発作によるものだったが、話を聞かされた男の首には手で締められたような後があり、話をした男の口にはタオルが詰め込まれていた。


―1998年6月■■日―

作家はビデオテープからDVDに映像を移した後、心臓発作により死亡。口には大量のティッシュが詰め込まれていた。

ビデオテープを持ってきた記者は書斎から出て玄関に向かう途中心臓発作により死亡。首には締められた跡があった。


―2021年1月7日―

話を他の人に伝えようとしたKさんは、自身の小説サイトに「一本のDVD」という題でアップした後心臓発作により死亡。首を絞められた跡があった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ