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温泉よ永遠に

温泉よ永遠に~part1:園田サイド~

作者: 希志魁星

《とある居酒屋》

梅村「園田社長、納得できません!きちんと説明してください!」(プンプン)

園田「えぇと、今日は無礼講だったかな?まだ一次会だよね?乾杯が終わって、イキナリかな。。。」(オロオロ)

梅村「はぐらかさないで!アタシが女だからって、馬鹿にしないでください!」(プンプン)

園田「そんなつもりじゃ。。。えぇと、君は確か。。。」(ジロジロ)

梅村「梅村です!もう入社して1か月ですよ。いい加減名前を覚え、、、じゃなくって!ウチの【温泉物語】です!新機種に対応すれば、もっともっとも~っと魅力的で、もっともっとも~っとたくさんユーザー増えるのに!なんで『今のままでイイ』んですか!」(プンプン)

園田「あぁ、あのスマホアプリね。」(物思いに耽る)

梅村「昼間の【温泉物語】のプロジェクト会議だって、みんなやる気があるんだか無いんだか、発言が途切れ途切れじゃないですか。私だけベラベラと。チョ~恥ずかしかったんですよ。って、社長!聞いてるんですか!」(プンプン)

園田「あぁ、ゴメンゴメン。で、なんだっけ?」(汗)

梅村「説明して、く、だ、さ、い!」(仁王立ち)

園田「あぁ、分かったわかった。話は長くなるから、二次会の席でイイかな?」

梅村「イイですよ。きちんと説明してくださるなら。」(ニコッ)

園田「あぁ、大丈夫だよ。」(ウィンク)

竹尾「おい梅村。なに社長に絡んでるんだ?もう酔っ払ったのか?早すぎ。」(笑)

梅村「違いますよ!竹尾センパイ。」

竹尾「まーまーまー。梅村、社長に絡んでないで、あっちでみんなと吞もうや。社長も手が早いですね。もう新人を?」(ニヤニヤ)

園田「た~け~お~!ちょっと来い!」(プツッ)

竹尾「ウヘェ、ヤバい。。。」(汗)

梅村「センパ~イ、がんばってねぇ~。」(お手々ヒラヒラ)




《二次会》

園田「さてと。梅村さん、どこまで話したっけ?」

梅村「全然です。初めっからです。」

園田「おぉ、そうかそうか。」

梅村「約束の二次会ですよ。今度こそはぐらかさないでくださいね。」

園田「梅村さん、君は確か、【温泉物語】に携わりたくて、入社したんだよね。」

梅村「ハイ!高校生の時から、ずっとずっとず~っと、大大大ファンなんです!小さい時から温泉が大好きで、家族旅行はいつも温泉旅館に泊まりました。【温泉物語】に出会ってからというもの、もっともっとも~っと温泉が好きになって、それで、温泉と【温泉物語】を、もっともっとも~っと、たくさんの人たちに知ってもらいたい、楽しんでもらいたい、ってのが、アタシの今のライフワークなんです。アタシなりのアイデアだって、いっぱいいっぱいい~っぱい、ノートに書き溜めてきたんですよ。コレですコレ。見てください!アタシの、【温泉物語】への愛が詰まった、とってもとってもと~っても、大切なアイデア帳なんです。それなのに、社長ってば、、、」(悲)

園田「あーあーあー。わかったわかった。君の熱意は充分わかったから。。。」(タジタジ)

梅村「ホントに!?」

園田「入社面接でも、アツい思いを語ってくれたよね。入社希望者が演説ぶちかましてる、って全社員が面接室前に集まってね、わが社始まって以来の熱血漢(!?)登場だ、って。君の話が終わった途端、面接中だったの忘れて拍手喝采。満場一致で採用決定。君は全社の注目の的、期待の星、なんだよ。」

梅村「。。。やっちゃいました、ね。」(小声)(赤面)

園田「梅村さんにはきちんと話して聞かせたかったんだけど、とにかく会社がテンテコマイで、今日の会議に僕が出席できたのも、クライアントのドタキャンがあってのことだしね。」

梅村「そうだったんですね。それを無理強いしたみたいで、スミマセンでした。」(ペコリ)

園田「実は、ほかの社員は、全員知ってるんだ。」

梅村「え!ヒドイ!私だけのけ者。。。」(涙)

園田「待て待て待て!全員センパイだぞ。君の入社する、ずっと前に話したんだよ。」

梅村「仕方ないんですね。」(グスン)

園田「梅村さん!」

梅村「ハイ!」(ビクッ)

園田「君には、特に知ってほしい、重要な話なんだ。」

梅村「…」(ゴクリ)

園田「これは、温泉が大好きで、【温泉物語】に夢を託してくれた少年と、その家族の物語でもあるんだ。」

梅村「…」(コクリ)

園田「そして、そこには、あの竹尾も少しだけ関わっている。」

梅村「え~、意外。竹尾センパイって、温泉あんまり好きじゃないって言ってるのに?」

園田「あぁ、そうだ。それでも、だ。」

梅村「…」(ゴクリ)

園田「その物語ってのは、、、」




《回想》

とある土曜日。僕は爆発寸前だった。

「あ”ー!」

「忙しすぎて温泉にも行けないじゃないか!」

「クソ!鬼!Sonda社め!」

「毎日午前様、週末はすべて返上。」

「そんな生活が、約1年。」

「1日くらいリフレッシュさせてくれたって、バチは当たらないだろうに。」

「今日からの土日の、どちらかを1日休ませてくれ、と言ったら、シカト。」

「有給は却下、土日の振り替えも却下、だと?」

「俺が倒れてもいいのか?プロジェクト解散だぞ」

「もう限界、ココロもカラダも。」

「こうなったらクーデターだ!サボタージュだ!強行して休んでやる!」


翌日(日曜日)。僕は会社を「暦通りに」休んだ。

「ふ~~~~。1年ぶりの温泉かぁ。マジ極楽!(しみじみ)」


翌々日(月曜日)。僕は衝撃的な事実を突き付けられた。

「え”!クビ?」

「引き継ぎ、席は撤去、私物まとめる、全部今日1日で?」

「横暴だ!」

「俺は新型スマホzaioのソフト開発者だぞ!それもコアな技術の第一人者だぞ。」

「社長が激オコ?」

「社運を賭けた1大プロジェクトで、コケることはイコール会社もコケる。」

「その対策で、コーポレートガバナンス強化。」

「その一環で、コアな開発者も例外じゃない?」

「反乱分子への見せしめ?」

「粛清、かぁ。。。」

「…」




1ヵ月後。僕はホクホク。

「残業代は全部出たし、給料と合わせて、半年は遊んで暮らせるかなぁ。」

「あれ?思った以上に入金されてる。」

「全部で、、、オイオイ!10年は遊んで暮らせるぞ!」

「一筆添えてあるゾ。ナニナニ?」

「要するに、スマホ完成に対する報奨金、異常で違法な就業状態に対しての口止め料と、それに社長が気付かずに処分したことに対する詫び料、全部込み、ってことか。」

「希望するなら、子会社への転籍扱いで取締役待遇の再雇用を約束する、かぁ。それはイラナイや。」

「社長もクビといった以上、引くに引けないんだろうな。振り上げた拳を、どう降ろすか苦労したんだね。」

「とりあえず半年ノンビリしようか。次の半年で就活するかな。」

「まずは温泉欲を満たすとするか。」

「出発~♪」




2ヵ月後。僕は惰眠を貪っていた。

「ずいぶんと温泉の情報が溜まったなぁ。ブログでも書けば、ひと儲けできるかもな。ウシシ。」




6ヵ月後。僕は「窮すれば変ず、変ずれば通ず」を地で行った。

「あれ?あんまり読まれてない。これじゃ収入の見通しが立たないや。」

「ヤバイ、安直過ぎた。何かアイデアは。。。」

「ジオロケーション?コレだ!」

「スマホの開発してるときは必死で考えもしなかったけど、こんな風に応用できるんだね。」

「いっそ、アプリ化しちゃえ!」

「名前は、、、【温泉に行こう!】これで行こう。」

「どこかで聞いたような名前。。。」

「ありがちな名前だな。ま、いいっか。」




完全に就活を忘れた。

それと引き換えに、

【温泉物語】の前身である、【温泉に行こう!】が誕生。


公開後の1週間で、注目アプリとして、ニュースサイトや、ブログで紹介される。

その後の1か月で、ダウンロード数と固定ユーザーが爆発的に増える。

基本無料で、一部有料のフリーミアムモデルのおかげだ。

この頃には、善意悪意双方のコメントが寄せられる。

悪意にへこみつつ、善意に励まされつつ、

アプリの収益で生活するのも悪くないかなぁ、と考えていた。




アプリも品質は安定し、

不自由しながらも生活できる程度に収益も安定した、

まさにその時。

見慣れないほどに長文なコメントが届いた。


「前略 園田様


池野由貴と申します。

不躾ながら、ひとつだけお願いがございます。

余命6か月の弟、隆の願いを、どうか叶えてください。


隆は小児がんと共に生き、病院で生活しております。

外泊時は、家族旅行と称しては、

湯治目的で、名湯と言われる温泉を巡りました。

隆は温泉と温泉旅館にたいそう魅了され、

湯治という目的を忘れるほどに温泉を愛しています。


そんな隆ですが、先日、大きな発作を起こし、

次に大きな発作を起こすと助からないだろうという理由で、

主治医より外出禁止と余命宣告を受け、

隆の知るところとなり、自暴自棄を起こしてしまいました。

そんな折、知人より園田様の【温泉に行こう!】を紹介され、

隆は正気を取り戻しました。

言い尽くせないほどに感謝しております。

外出できない代わりに、隆は、

【温泉に行こう!】を夢中になって眺め、

【温泉に行こう!】に勇気づけられ、

いつか治癒して温泉に訪れることを夢見ています。


隆は治癒することはありません。


病は悪化の一途をたどり、日に日に衰えています。

今日、遂に松葉杖無しには歩くことができなくなった隆を見て、

父母に代わり、筆をとりました。


現在の【温泉に行こう!】は、

実際に温泉旅館に行った旅行記のように見受けられます。

温泉へ新たに訪れる感動を演出することはできませんか?

まだ見ぬ名湯、秘湯、を、隆が自由に旅するように、

変えることはできないでしょうか?

ご検討いただけますよう、切に願います。


草々」




速攻由貴さんと連絡を取り

綿密なヒアリングを行い、

大幅リニューアルとともに名称を変更した。

それが【温泉物語】。

リアルな温泉体験を記録するアプリに、拡張現実を織り交ぜた。

実在する温泉旅館へ、たった一人の旅行者が訪れるためだけに、

仮想の温泉ソムリエ(全員女性!)が複数人、アプリ内に登場、

個性豊かな彼女らから毎回一人を選び、ツアーコンダクターに仕立て、

旅の始めから終わりまでを同行してサポート。

仮に廃湯・廃泉や廃館となっても、訪問記録は残るという形で、

いつまでも愛されるアプリを目指した。

これだけでは、隆くんの希望は叶わない。

彼は身動きが取れず、「訪問」は不可能だから。




だが、俺には秘策がある!

そして、これは他のユーザーにはナイショ。


俺がかつて開発したスマホzaioは、

テスト用アプリHopStepMapと組み合わせると、

ジオロケーションを自由な場所へ移動できる。

そう、『いま居る場所』を偽る事ができるのだ!

もはやチート機能!

そして、そのテスト用改めチートアプリHopStepMapは、

俺が個人的な興味で作ったもので、

Sonda社にはアプリを作った痕跡すら無い。

存在を知る者もいない。

更には、HopStepMapは、zaioにインストールした時だけ機能する。

zaioの『隠し機能』を利用するからだ。

他のスマホでは異常終了する、ゴミアプリ。

隠し機能の存在もひっくるめて、

すべては俺の企業秘密。

由貴さんには、スマホzaioに、

チートアプリHopStepMapと【温泉物語】をインストールした、

いわばチート版【温泉物語】をプレゼントした。

HopStepMapの事だけは、一切口外しない約束で。




【温泉物語】は、間に合った。

隆くんは、余命3か月となった時、手にした。

それはそれはとても喜んでくれた。

由貴さんが隆くんの言葉を書き留める形で、

隆くんの感謝の気持ちを直に伺った。

既に起き上がる事も難しくなっていたのだ。

アプリを操作するのは、由貴さん。

意識がない時でも枕元に置き、

意識がある時は片時も手離さず、

いつでも【温泉物語】を見ていた。

時々HopStepMapを使って「移動」、新たな温泉地へ「訪問」。

カラダは無理でも、ココロは湯治していた。

俺は、そう信じている。




【温泉物語】と出会ってから9か月過ぎの朝、

隆くんは、眠るように、穏やかに、逝った。

余命6か月の宣告から、実に12か月の長き日々を生きた。

前日まで【温泉物語】を楽しみ、

生を謳歌した、大往生であった。




由貴さんとご両親からは、

【温泉物語】のお陰で、

隆くんが6か月も生き長らえたこと、

日々生き生きと暮らしたこと、

に感謝するお手紙を頂いた。

更に、ご両親は、

HopStepMapを削除して通常版となった【温泉物語】で、

亡き隆くんとの思い出を、新たに紡いでいる。

隆くんが「病床から」訪れた温泉を追想し、

更には新たな温泉地を訪問している。

隆くんの形見だから、と、

ご両親は機種変更をせず、

【温泉物語】を使うのは必ずzaio。


今では時々、社へお越しいただいている。

年2回のスマホの定期点検、

故障時の修理、

旅行前は臨時点検、

旅行後は土産話の為に。

そのたびに、会社はまるで会議。

いや、歓迎会か?




《二次会》

園田「梅村さん、見てごらん。行動履歴に、zaioって機種が、ひとつだけあるでしょ。これこれ、これだよ。僕が由貴さんに贈り、隆くんが使い、今ではご両親が思い出を紡いでいる個体だよ。今は、乳頭温泉に居るようだね。確か、隆くんは足でも、病床でも訪れたことがない。こうして、ご両親は、今でも亡き隆くんの思い出とともに、遺志を継いで新たな温泉地を訪れているんだ。」

梅村「うぅ~~」(滝涙)

園田「【温泉物語】は、いまや中古でも出回らくなったzaio『でも』動くことが、絶対条件なんだ。僕は、隆くんの遺志を継ぐためなら、古めかしいと罵られようが、真新しい機能やルック&フィールが無かろうが、絶対にこのアプリを見捨てない。そう、ご両親がご健在な限り、僕が生きている限り、いや、この会社が存続する限り。これは不文律ながら、会社の影の社是でもある。その制約の中でも、どれだけの機能が実現できるか。その実験でもある。」

園田「そしてわが社には、動作確認用にzaioの完全動作品が10台在庫する。更に、竹尾が粘り強く交渉してくれたおかげで、かつて僕が居たSonda社から、zaioの修理部品100台分をタダ同然の破格値で譲り受けた。廃棄処分時に引き取っただけなんだけどね。」

園田「その代わり、Sonda社では、メーカーのくせに二度と修理ができない。」

園田「実は、竹尾は、僕と一緒にSonda社でzaioを開発した仲間。竹尾はハード担当。僕はソフト担当。僕一人で【温泉物語】をサポートしきれなくなって、この会社を設立する時に、竹尾を口説いて引き抜いた。竹尾は快く引き受けてくれたよ。Sonda社に代わって、メンテナンスと修理は竹尾が担当するために、ね。池野家のも、わが社のも。」

梅村「竹尾センパイ、全然ちょっとじゃないですよ。むしろもう一人のキーパーソン。それも陰で支える縁の下の力持ち。」

園田「あぁ、言われてみれば、そうだね。もっと竹尾を大切に扱わないとね。」

園田「じゃあ、この物語は、これでおしまい。」

梅村「ステキなお話、ありがとうございました。影の社是を踏まえて、これからも精進してまいります。」

園田「うむ。その心意気たるや、素晴らしい。」

園田「ほら、みんなの所へ行っておいで。さっきの竹尾みたいに、誤解されちゃうよ。」

梅村「は~い、失礼しま~す。」




《別の席》

竹尾「梅村、社長の話は終わったか?」

梅村「ハイ!感動で胸が一杯です。」

竹尾「そうかそうか。でもな、梅村。社長は絶対に自分では語らない、『後日談』があるんだ。」

梅村「え!ちょっとちょっとちょっと~!なんですかその勿体付けた話は?」

竹尾「由貴さん、って出てくるだろ?」

梅村「はい。亡くなった隆さんのお姉さん、ですよね。」

竹尾「あれな、園田の嫁さん。」

梅村「え”、それって。。。」

竹尾「そうさ。園田は池野家の『家族』みたいなものに『後でなっちまった』んだ。だから、園田の部分もひっくるめて、『隆とその家族の物語』、なのさ。」

梅村「絶句。」

竹尾「何でもな、【温泉物語】を作る時のヒアリングで急接近して、隆が亡くなった時に、精神的に支えたのが園田。そして二人は、、、ってことだ。」

梅村「社長、手が早いというか、用意周到というか。」

竹尾「【温泉物語】に最初に出てくる温泉ソムリエ、モデルは由貴さん本人。外見も性格もな。」

梅村「そうだったんですか。。。」

竹尾「由貴さんに【温泉へ行こう!】を紹介した由貴さんの知人って、俺。」

梅村「え”」

竹尾「更に言うと、由貴さんと俺は幼馴染。隆は俺の弟分みたいなヤツ。」

梅村「…」

竹尾「街で見かけた由貴さんが、隆のことで悩み苦しんでいるのを放っておけなくて、な。その時偶然見つけたアプリは、元同僚の園田が作ったもの、だったのさ。まさか形を変えてまで隆を救ってくれるとは思わなかったけどな。」

梅村「…」

竹尾「で、園田も由貴さんも知らないだろう秘密。俺は、園田よりも先に、由貴さんに惚れていた。片思いだったけどな。」

梅村「じゃあじゃあじゃあ、社長に引き抜かれたのって。。。」

竹尾「何でだろうな。自分の事なのに、今考えても不可解なんだ。でも、行かなきゃならない、俺の使命だ、って、どっかで思ってたんだよな。」

梅村「それって。。。」

竹尾「言うな!絶対言うな!認めたくないんだ。言葉にしたら、すべて認めたことになっちまう。そんな気がして、な。だから、察してくれ。すまん。」

梅村「。。。センパイって、損な役回りですね。それに不器用。」

竹尾「言うんじゃない!」

梅村「暗躍できる立場に居たんだから、好きなもの好きなだけ取っちゃえばよかったのに。へへっ。でも、センパイ。いいところあるんですね。見直しちゃいました。」

竹尾「お前、俺をどんな目で見てたんだ!?」

梅村「普段チャラくて、怒ると怖い鬼。」

竹尾「なにっ!」

梅村「ゴメンゴメンゴメンナサイ。半分冗談ですって。」

竹尾「半分か。どう半分だか。」

梅村「すみません。ほかのセンパイたちと、話してきますね。」

竹尾「おぉ。」




《二次会の出口》

梅村「竹尾センパイ、温泉はあまり好きじゃないですよね。」

竹尾「確かに。『温泉に入る』のはあまり好きじゃない。だけど、温泉旅館は大好きなんだよ。とくにあの雰囲気が、な。」

梅村「ふ~ん。私は温泉に入ってこその温泉旅館、だと思うんですよね。」

竹尾「それはお前の理屈。俺には俺の理屈があるんだよ。」

梅村「ふふっ。じゃあ、手始めに、アタシがセンパイに温泉の魅力を教えちゃいましょう。社員旅行は温泉旅館に決定!」

竹尾「後半賛成、前半反対!」

梅村「ブブー。反対意見は認めませ~ん。このアタシに関わった人は、温泉の魅力に取り付かれる運命なのです。」(ドヤ)

竹尾「それもアリかな。」(小声)

梅村「へ?」

竹尾「何でもない。」

梅村「じゃ、センパイ。二次会もそろそろお開きみたいなんで、アタシ帰りますね。」

竹尾「おう、お疲れ。」

梅村「竹尾センパイ、お疲れさまでした。」

梅村「園田社長、皆さん、お疲れさまでした。お先しま~す!」




《一人残された竹尾》

竹尾「俺としたことが、今晩は語りすぎちまった。」

「あの入社希望者が、小娘のクセして、演説ぶちかまして入社。今じゃコレか。」

「あの演説、俺も心動かされたし。」

「梅村の影響で、俺も温泉を見直すとするかな。」

「しっかし、梅村って、不思議な奴だなぁ。」

園田「梅村がどうしたって?竹尾。」

《園田カットイン》

竹尾「うをっ!突然現れるな!びっくりするだろ!危うく心臓が止まりそうだ!」

園田「一度止まるとイイ。きっと新たな発見があるぞ。でも、なんでそんなに驚くんだ?」

竹尾「うるさい!とっとと帰れ!俺も帰る!お先!」

園田「お、おう。」




《帰路》

園田「竹尾、悪かったな。」

「実は由貴さん、お前のことを好きだったみたいなんだ。最初のヒアリングの時に気付いた。由貴さん自身は、気になる、って程度の認識だったが。」

「お前が惚れてたのは、すぐ分かった。ってか、周囲にバレバレ!」

「だから、焦った。お前に気持ちが向く前に、俺へ向けさせる。そのためにも、密にヒアリングしたし、【温泉物語】の完成を急いだ。」

「引き抜きに応じてくれた時には、ホント驚いたよ。かすかな期待は、あったけどね。」

「だから、さ。」

「梅村さんの『演説』を聴いた時、お前の眼が輝いたんだ。俺は見逃さないし、忘れない。梅村さんなら、竹尾の心の隙間を埋めてくれるんじゃないか、と。」

「罪滅ぼし、とは言いたくないが、陰ながら、応援するよ。」


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