閑話02 聖女の足跡
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※「本編69話」の後にあったお話です。
セイ達が王都に発ってからしばらくして、クラウスナー領の領主から傭兵団に依頼があった。
依頼は、領主の城の薬師を取り纏めているコリンナが黒い沼があった森の視察に行くので、その護衛をして欲しいというものだ。
黒い沼が発生した森は貴重な薬草の宝庫だったため、沼が発生したことによる被害が、どの程度なのかをコリンナは自分の目で見たかったのだ。
森の中に、枯葉や枝を踏み締める複数の足音が響く。
周囲を警戒しつつではあるが、その歩みは順調そのものだった。
「魔物出ませんね」
「そうだな」
隣を歩いている仲間の呟きに、レオンハルトは頷く。
その言葉通り、道行が順調なのは、今までよりも魔物が出る頻度が低くなったからだ。
魔物が出なくなった理由は言うまでもない。
王都から来た【聖女】、セイだ。
まず、【聖女】一行がクラウスナー領に到着してから、弱い魔物は徐々に出なくなっていった。
何もしていなかったにもかかわらず。
それだけでも、普段から魔物の多さに辟易していた傭兵達は驚いたが、セイがすごかったのはそこからだった。
ぱっと見は討伐と縁のなさそうな女性に見えた。
しかし、いざ一緒に森に行ってみれば、セイは宮廷魔道師団と同じように魔法を行使し、しっかりと討伐の補助を行ったのだ。
回復魔法に至っては、本職の魔道師達の上を行くほどで、共に来た魔道師達からも賛辞を浴びていたくらいだ。
極め付けは、森の中の奥にあった黒い沼を浄化したことだろう。
辺りを埋め尽くすスライム諸共、不気味な黒い沼を大規模な魔法で消す様は圧倒的で、その場にいた全ての傭兵達の腕に鳥肌が立つほどの光景だった。
「嬢ちゃん、すごかったんだな」
「そりゃ、【聖女】様だからな」
「いるだけでも魔物が減ったらしいし」
「【聖女】の術ってのもヤバかったんだろ?」
「あぁ、ありゃ、反則だ」
セイと一緒に黒い沼へ行った傭兵達は、レオンハルトを含めても数人だ。
その数人が森から戻ってきて、興奮しながら口々にセイのことを話したため、黒い沼が浄化された様子を知る者は多い。
ただ、実際にその目で見ていない者は半信半疑だった。
けれども、魔物がいなくなり、静寂を取り戻した森の中を歩いているうちに、その話は真実だったのだと思うようになった。
傭兵達は改めてセイに畏敬の念を感じた。
森の奥に進むにつれて、コリンナの表情は訝しげなものに変わっていった。
それは、近くを歩くレオンハルトも同じだ。
セイと共に黒い沼の浄化に行った傭兵達も怪訝な顔をしながら首を捻っていた。
「レオ。お前さんの話では、この辺りは枯れ木ばかりになっていたっていう話だったが……」
「あぁ。俺の記憶が間違っていなければ、枯れ木しかなかったぜ」
「そうかい。私の目にはそうは見えないがね」
「俺の目にもだ」
目の前に広がる景色には、確かに枯れ木が存在していた。
しかし、その根元からは新たな芽が伸び、枝を広げている。
地面も同様だ。
事前に聞いていたように、むき出しではなく、緑の絨毯で覆われていた。
「どういうことだ?」
「さてね……」
首を傾げながら奥へと進むレオンハルトの斜め後ろで、コリンナも顎に手を当てて考え込む。
枯れ木が存在していることから、元々はレオンハルトの報告にあったように、森は死にかかっていたのだろう。
けれども、何らかによって、僅かな期間でここまで回復したのだ。
その何らかとは……。
かつて【聖女】でもあった【薬師様】の秘匿された能力をよく知るコリンナには簡単な問題だ。
すぐに思い当たった人物に、コリンナはそっと溜息を吐いた。
「こりゃ、王都に送る物は奮発してやらないといけないね」
「あ? 何か言ったか、ばーさん」
「何でもないよ」
小さな呟きに反応したレオンハルトに、コリンナは首を横に振った。
そのまま、黒い沼があった場所まで行き、辺りの被害を確認した後、コリンナ達は領主の城へと戻った。
5/10に4巻が発売されました。
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