凍える怒り
私たちが外に出た時、何件もの家が大型の家畜によってダメージを受けていた。
でかいな、見た目は鋭い牙が生え揃い金属質で四枚の翼がある真っ赤な牛ってところか。リデピスクよりニ回りは大きい。
「厄介なのが逃げ出したわね。ラビダンテじゃない」
「ラビダンテ?どんな特徴を持ってますか?」
「家畜の中では最強の生物よ。トカゲちゃんが大人になってようやく倒せるくらい手強いわ」
色んな種族が制止にかかっている。
生半可な戦力では駄目らしい。
二人の巨人が立ち開かる。
「相変わらず原因不明の暴走が絶えないな兄弟」
「今はこいつを黙らせるのが先だ」
巨人二人はラビダンテの首を締上げる。
関節の音だけで爆発のように大きく響く。
「うおっ!」
「ぬおっ!」
巨人二人が吹き飛ばされ軽い地震が起こる。
あと少しで宿に当たるところだった。
「ほら、ジェネラル。カイザー。私の宿壊したら承知しないからね」
「すいませんブーケ姉さん」
「あの野郎、完全にキレてやがる」
形容し難い狂った咆哮が鳴り響く。
何人もの民が宙を舞う。
「あれ?ヒドラはどこに?」
私はラビダンテの目の前に立っていた。
「大丈夫かあの悪魔!何も出来ねぇって!」
分からない。確かに放っておくつもりは毛頭無かったが、明らかに自分の意思でここに来てはいない。もう一人の私がいるのか?
荒れ狂う巨躯。その目に映し出されたのは紛れもなく私だ。
「グオオオオオオォォ!!!」
真っ直ぐこちらに向かってくる。あれは殺意の目だ。私がここを退けば、皆が危ない。
ガツンッ!!
うまく量角を掴み、
「なんて力だ……腕が軋む…」
長くは持たない。何か策はあるか。
「あの悪魔、何者なんだ?一人で制御してるぞ」
「ちょっと!ボケッと見てないで助けるのよ!」
ブーケは巨人二人を翼で押し出す。
しかし遅かった。
先程まで制御していたはずの物体が動き出す。
本気じゃないのか!駄目だ、腕がもう限界だ…
さらにラビダンテはゆっくりと面を上げ、白く光る刃をちらつかせる。
忘れていた。こいつには角だけではなく牙も生えていたことに。
クソッ!あんな牙で噛まれたら!
ドガンッ!!
……??
プシャアアアァァ
赤く粘度の入った水が私に降りかかった。
何が起きたのか分からなかった。
ラビダンテが横たわっている。その横には私とよく似た姿の悪魔が立っていた。