多説の道標
天使は返り血を受けその場に倒れた。
「はあ…はあ……間に合った」
私も返り血を浴び、内臓までもがへばり付き酷い臭いを放っている。
その場に座り、項垂れた。
「天使さんは生きてるみたいね」
コルテスがいきなり天使と私に顔を向け灰色の炎を吹きだす。
「くっ。どうしたんだいきなり」
「浄化の炎だよ。この状態で町に行ったら色々誤解を招く」
少しだけ熱いが何だか心地よい。
汚れが徐々に薄れていく。
「君はすごいな。召喚紛いの事や治癒も出来る。私より全然強いのでは?」
「長年崇められてきた種族の末裔だからね。そういえば、お兄さんさ。なんか口調が天使っぽいよね。
男の悪魔で自分のこと私って言うのは大分珍しいよ。あと、聖職者って言ってたけど」
コルテスは悪魔だったな。まずいこと言ったか。
「まあいいや。天使さん連れてくの?」
「もちろん」
私は天使の少女を腕に抱え、空高く飛び立つ。
その後は、コルテスと大陸についての話を一通り聞いた後、町に辿り着く。
コルテスが町の説明をする。
「ここはクレンホード、名前の由来は千差万別って意味で多様な種族が暮らしてるんだ」
神話の本で見たような生物が闊歩している。
「色んな種族がいるな。巨人や天使悪魔、エルフは本で見慣れてるが、あれは何だ、顔がカエルに体がウツボ?こっちには雷を吐いて走り回るペンギンもいる」
あまりにも新鮮な光景に驚きを隠せない。
「この天使は宿に連れてくべきか教会に連れてくべきか」
「教会はぼったくりだから宿でいいよ。いい所知ってるんだ」
言われるがまま宿に向かう。
「この宿の経営者はね、悪魔なんだけど治癒や蘇生が得意でしかも美女」
「ブーケさーん」
宿のカウンターには顔の整った下半身が蛇の悪魔がいた。
コルテスは店主の頭上を飛び回る。
「あらコルテスじゃない。ガールフレンドは見つかった?」
「まだです!」
「そちらのお二人は?」
「天使の女の子が全然起きないので治してくれませんか?。お代はリデピスクの結石で」
コルテスは尻尾に付けてある袋から白い石を取り出した。
「君、いつの間にそんなものを」
「オレの稼業は盗賊だからね」
「じゃあ、ちょっと診てみるわ」
「ブーケはすごいんだよ。体が前歯二本しか残って無かった海龍を完全に復活させたんだから」
「でも、その時は1ヶ月かかったわ。一人だと疲れるのよ」
ブーケは天使の額に手をあて、目を瞑る。
「……うん。疲労が溜まってるだけみたい。一晩寝れば良くなるわ。あなた達も泊っていきなさい」
私達は一晩寝ることにした。
ベッドに入ると、私はどっと疲れが体に現れてきた。
「冷静でいることが出来たが、入ってくる情報が多すぎる。まず、私は何で悪魔なのか?まさか、私は夢の続きでも見ているとでも言うのか?だが、これまでの感覚が偽りとも思えない。なにより、虫を殺すのも躊躇う私がリデピスクという大型生物の悶える姿を見て寧ろ気分が良かったのは……心が悪魔に染まっているのか?本来の自分はいなくなってしまったら、それは私なのか?」
説明し難い不安が頭を過る。
今気づいたが、言語も通じるな。
私は英語しか話せないのにいつの間にか一つの言語を取得していた。
人型の種族どころか、コルテスのような爬虫類、魚に植物まで、皆会話が出来ていた。
私はどうもあの天使の少女が気になる。見た目は天使なのに口調が荒かった。
…一気に考えても仕方ないか。
寝よう。