最も離れた因果
「空から落ちるのはこんな感覚なのか…。いや、余計なことを考えてる場合ではない!
今はこの状況を何とかしなくては!しかしどうする?これでは確実に死ぬ。」
その時、自分の体の異変に気付いた。
全身が黒く染まっており長い尾が生え、周りの空気を貫く巨大な翼を拵えていた。
「あの声の言っていた通り、私は悪魔になったのか?もしや、飛べるのか?」
必死に肩に力を入れるが、翼は動かない。そうこうしている内に陸らしきものが見えてきた。
「動け!!動いてくれ!!!頼む!!神よ!!哀れな私に力を下さい!!」
ズドン!!!
悪魔は岩肌に強く体を打ち付けた。
「ぐああああああぁぁ!!」
………
「?……思っていたより痛くない?馬鹿な。何千メートルも上から落ちてきたのにせいぜい指を紙で
切った程度の痛みしか無いなんて」
とりあえず生きてはいたものの岩が胴体に食い込んで挟まれて身動きが取れない。
さっきの闇の中よりはましだが。
小さな羽音が聞こえてくる。
「うっわーなんかすごい衝撃だったぞ。隕石かな?」
羽音が更に近づく。
「悪魔じゃん!仲間は助けないとね」
そこには小型の爬虫類のような悪魔がいた。
「君は、誰だい?」
「オレの名前はコルテス。絶滅危惧種の空飛ぶトカゲだよ」
コルテスと名乗るトカゲは私の懐や下腹部に刺さった岩を退けてくれた。
「本当に助かったよ。ありがとう。何かお礼をしなくちゃね」
コルテスは少し微笑みながら
「じゃあオレを仲間にしてくれよ。多分この辺は初めてだよね?オレ、今いる大陸の地理には詳しいんだ」
予想していなかった返答。
「それでいいのかい?私なんかといても面白くないと思うけど」
「だって霄から落ちてきて串刺しにされても痛がる素振り見せないもん。こんなに強い悪魔と一緒ならすごく頼もしいよ。岩場にいてもつまんないだろうから北にある町に行こうよ」
「町があるのかい?でも、遠いなあ。歩きだと一日かかりそうだけど」
「でっかい翼があるのに歩いていくの?」
「実は、飛び方を知らなくて…」
「記憶が翔んだの?簡単だよ。肩と腕と首に力を入れれば後は楽だよ」
「腕と首もか。ってうおおぉ!」
私の体はすでに周りの森の高さを越えていた。
「すごい飛翔力!その辺の悪魔より10倍は機動力があるよ!」
コルテスの言う通り、一度飛ぶと随分と楽で疲労感を得ない。
私はコルテスと共に北に向かった。
「お兄さん。名前は何て言うの?」
「すまない。衝撃で記憶が曖昧らしい」
ここは普通の世界じゃなさそうだ。昨日までの記憶を語っても理解してもらえないだろう。
「ところで、君は何をしていたの?」
「仲間を探してたんだ。オレの種族は数が滅茶苦茶少なくて早くお嫁さん見つけないと絶滅しちゃうから焦ってる。一年経っても見つかる気配が無い」
「そうなんだ……私も手伝うよ。命の恩を返さなくては」
「ありがとう。ん、あれ見て。誰かいるよ」
コルテスの指差す方向を見ると、身長20メートルはあろうかという巨体の怪物が渦場に固まっており、その中心に翼の生えた女性が立っていた。